『大帝国』発売前にこの体験版をプレイできて本当に良かった。これは購入決定。しかも「買うわ」って感じでなくて、諭吉握りしめて会社とか店の前で跪いて「買わせて下さい」ってレベル。でもそういうのは実際にやると迷惑だから止めような(やらんっつーの)。エロスケで体験版に点ける点数の個人的最高点である70点を点けるのは『グリザイアの果実』以来だが、アレがストーリーと設定、そして体験版の構成も捻くれていて、だから良いトコ取りで卑怯だって言われても仕方ないのに比べて『D-EVE in you』はごくスタンダードな……とまでは言わないが特に捻りのない設定と構成で、ついでに言うとぼくが買う価値がこれっぽっちもないと思った『さくら色カルテット』のライターが担当している作品らしいが、にも関わらず素晴らしい出来だと思った。
体験版を始める前はまったく期待してなかっただけにこの感触には驚かされた。だってアイドルネタなんて……先ず以て、ぼくは実在/非実在共にアイドルというものに全く興味がない。エロゲーをやっている人は殆どがそうなんじゃないかと思う。非実在も含めてという言い方もしたが、それはアイドルという語が指す一連の像に対する実在っぽさが、非実在のキャラクターの崇高さやカリスマ性と言った我々が抱く幻想を減じるからだ。はっきり言ってアイドルとエロゲーのヒロインは求められるものが似ている。ぼくたちの抱いている色々な感情をポジティブに受け容れてくれる。祈りを捧げる対象の神とは違うのだけれど、一種の神性な存在だ。都合の良いイマジナリー・(ガール)フレンド/マザー/シスターといったところだろうか。エロゲーのヒロインは同人やら何やらで酷い有様になったりすることもあるけれど、あれは同人誌の作り手が勝手にやっていることであって、個々人の持つヒロイン像は揺るぎにくい。勿論、全く盤石というわけではなく、例えばライターやら原画家やら声優やらの諸々の関係者のことを知ってしまうと素直にヒロインを受け容れ難くなってしまったりする。余談だけどぼくが好きな作品でもウェブラジオを聴かない理由がコレね。キャラクターに声が伴っていることは重要だけど、声優自体には興味がないというか、寧ろ忌避したいと思ってすらいる。ま、それは私事なのでどうでもいいとして話を元に戻すと、「ぼくにとって」(←強調)実在するアイドルというのはどうしても理想と現実のギャップというのが生まれやすい存在であると思う。言わずもがな生きている人間であり、知れば知るほどに知りたくないことさえも知ってしまう。エロゲーヒロインにも実在アイドルにも穴があるけれど、受け手がそれを埋める方法が異なっている。そして互いに相手の埋め方では納得できないから互換性がない。エロゲーマーはアイドルオタに「実在しないじゃん」って言われたら、そりゃそうだと当たり前に頷くし、アイドルオタはエロゲーマーに「実際は性格悪いかもしんないじゃん」(核心がどこにあるかわからないからこの指摘は適当だけど)とか言われてもだからどうしたと全く気にしないんだろう。このように受け取る側の耐性が異なっているから、片方の像に片方の像を重ねると理想に穴が出来てしまう。だから態々実在性を呼び寄せることになる、ヒロインをアイドルにするということに不信感を抱いていたし、体験版を褒めまくっている今ですらアイドルネタを別段好ましいとは思わない。ただそのように好意的に受け取れない題材を使っていてもこれだけ愉しませてくれる作品であるというのは非常に優れていると感じたし、アイドルネタを忌避する自らの価値観を若干変質せしめたという点も本作を持ち上げる一つの理由となっているのだろう。少なくとも今では、そういった題材に対してもう少しサンプルとして触れてみてもいいんじゃないかなと考えている。
その題材から平易に予想できるように本作も決して大仰な物語や設定を用いた作品ではない。そしてプレイヤーにストレスを強いることのないタイプだ。『のーぶる☆わーくす』もそうだし、『鬼ごっこ!』や『Marguerite Sphere』、それから『relations sister×sister.』と『カミカゼ☆エクスプローラー!』等が類似として挙げられるだろう。難しいコトは考えなくても、筋の流れを受動的に辿っていけば容易に愉悦が得られる。落ちこぼれとまでは言いたくないけれど、他と比した場合問題アリと捉えられる学生を指導する教師が物語を主導するものというのは大抵そういった性質を備えている。その中で優劣が生まれるとすれば一つに全体の大筋に破綻なきような合理性が与えられている……少なくともそう錯覚できるようになっているというのは大切だが、物語の半ばまでしか見ることのできないトライアルでそれを確認することは出来ない。初期の段階から容易に合理性の破綻を見抜けるものなどは別とするけれどね。前述した緒作品にもそういったものはあるわけだし。少なくとも『D-EVE in you』の体験版ではそういった問題はなかったように感じた。破綻がなくなって初めて物語内の各要素に没入できるというわけだし、下地は整っているというわけだ。
そして実際は最初に目につく各要素について漸くそれらを捉え直すことにするが、ぼくがここまで『D-EVE in you』を褒める肝は当然ながらココにある。回りくどい話はなしにして言ってしまえば画の巧さがずば抜けていてマジ俺得。そしてそれに付随するキャラクターの性質が最高に気持ちいいヒロインを生みだしている。視覚的な恍惚感があって、声も台詞も行動もそれを損ねない。それだけで十分すぎるものが出来て、けれどそれだけがなかなか出来ないということも理解に難しくないだろう。一部で画についてdisられているけれど、まあ例えば世の中には技術的に優れた作画の素晴らしさを理解できないような人がいても、それは美意識の著しい違いではあれ、こちら側に無理に引き込む労力を使いたくないから距離を置いておこうと思う。流石に間違った見方をされるのは不快だけれど、個人の嗜好という範疇ならばぼくは教師でないのだし五月蝿くは言わないでおこう。一定以上の技術を視聴してそれを理解するのは、その技術に対して体系的なり学術的なり感覚的なり身体的なりな、どこかしらで自身で認識できる方法というのを備えていなければいけないことだからね。ぼくだって名作と呼ばれるいくつものものを全く良いと思えなかったりすることもあって、しかも褒め讃えている側の言い分もよくわからないということもよくあるし(例えばラヴクラフトの小説とか)。原画担当は護国卿でSD担当はろっくたん。隙がなさ過ぎる組み合わせだ。あんまり面白い話ではないが現実的な問題として大抵は二人以上で担当したらどっちかが足を引っ張るというのは往々にして起こるが、この組み合わせはそういうこともなく、これもまた気分いい。ゲームやってるときに「この人が全部描けよ」とか「作監修正入ったら全修モノだろ……」とか思いたくないんだよ。とにかく技術的に文句の付けようもなく、ヒロインは勿論だとしてサブキャラのオッサンまで良い出来。タケオカプロコンビ以外のサブキャラ女性陣も攻略キャラに含めて欲しいくらいだ(姉川さんは流石に性格悪すぎだし、瑞姫については好みの問題というか黒髪ロング/大和撫子ってあんまり興味ない)。ぼくは本作の体験版ではメッセージウィンドウ内の文章を読み終わっても、ボイス再生終了を待っていた。普段はそういうプレイの仕方はしたりしなかったり。最初だけ頑張ってちゃんと聴こうとしていても、どうでもよくって後半は殆ど途中で次の文章へ進むということが一番多い。今回そうしなかったのは読み終わってもボイスを聴いている間に画を見ていれば退屈しないという点があったからこそだろう。事実、詩音と電話で会話する時には飛ばしちゃっていいかという気にもなった。さらに詩音のエッチシーンでは見やすいようにモニタを九〇度回転して別の角度から画を見たりとかして、視覚面はとにかく充実させてもらった。
一方でシステム面は劣等生だ。ムービーやロゴが見られない『デュエリスト×エンゲージ』みたいに致命的ではないけれど、そして修正版の体験版が公開されて致命的すぎる部分はなんとかなったけど、まだまだショボい。テキストの読み進めとログ閲覧がホイールスクロールで操作できなかったり、ウィンドウサイズやメッセージウィンドウの消去をキーボード操作で行えなかったり、システムボイスはキャラクター毎に設定できるけれどこれを莉奈に設定してクイックロードすると途中でボイスが切れたり。そしてウィンドウ/フルスクリーンの切り替え時の動作が重い。もう言いたくないんだけどフォントが一種類しか選べないメッセージ窓透過率が固定等々。ゲーム内容自体が素晴らしすぎてシステムまわりが快適でなくても気合いで乗り切れるが、出来ればもっと良い環境を用意してもらいたい。これらの点についてはメーカーに希望を伝えるつもりだ。
あとは五月末発売なのに特典絵柄が公開されないのが不安。延びるだけならいいんだけれど、予約終了が早いショップ(メロンとかゲマズとか)で欲しい特典があったりすると困る。キャラソンが予約特典として各ショップに分かれるのがややセコいが、まあキャラソンが欲しいような作品ではないのでこの点はどうでもいいかなあ。というか冷静に考えるとキャラソンって買ったことなかったような……?そして当然のことながら、今後の展開としてVFBの発売に期待したい。

