2011年5月22日日曜日

jellyfish『SISTERS ~夏の最後の日~』

【jellyfish - sisters - (http://www.jellyfish-pc.com/sisters/index.html)】

 案の定ネタバレで、しかも工作スレの殆どの感想とは異なり一回も抜けなかった人の感想なので悪しからず。ぶっちゃけ原画集と設定資料ディスクに釣られて買った本作は、事故で負った脳損傷が原因となり長期記憶保持ができない主人公をそれでも慕い続ける姉妹を描いた作品。アニメーションが他のゲームとは一線を画すセールスポイントではあるが、ストーリーもかなり異色。他の多くのエロゲーでも視点変換が起こり(視点変換が起こらずとも物語の流れで)ヒロインが主人公の立場となることはあるが、ここまで主人公の人格を破棄し、ヒロインを持ち上げる作品は珍しい。こんな話だとは意外だったけれど、短篇として読ませるのなら非エロゲー的ではあるが、なかなか巧く要素を纏められていたんじゃないかと思う。プレイ時間はすごく短くて(FPSより短いよ!)値段はフルプライスより高いから、アニメーションが入っていても納得できない人はいるだろうけれどね。ぼくはジャンルを考えない限り一作品としてはこういうのもアリだとは思うけど、普通のエロゲと思うと不満点を覚える部分もある。
 主人公の自我の希薄さは『ドラクエ』や『Portal』のようで殆ど自主的な言動はなく(その状態を考えれば確かに不思議とまでは言えないのだが)、姉の春香と妹の千夏、それから二人の母の秋子(主人公にとっては異母?)に導かれるように生活を続ける。物語が進み過去の断片が語られるまではバックグラウンドが不明なままで、特に千夏と春香が登場するまではシュールとまで感じる。3Dモデリングされた室内を移動する視点がFPS的なこともあり、そういうゲームじゃないことはわかっていても不安感を煽られる。牧歌的な山間に建てられた一軒家と周囲は平和そのもので、それが逆に作り物めいたようにも思えて、どことなくヴァーチャル世界内に主人公の意識が――それも疑問を感じ、行動を起こすような意識モジュールを予め排除されている状態で――囚われているような気配さえした。状況のわからないままという不気味さを生活感が希薄で清潔な環境で上塗りした違和感を主人公自身が感じられなくともプレイしているぼくたちは感じられる。手間を掛けてでも背動にすれば、こういう恐らく製作側が意図しなかった不気味さというのは抑えられたと思うし、もっと言っちゃえば、従来のエロゲー的マップ画面を使った移動方法にしてしまっても良いのではないかと思った。何より移動シーンは見ていて面白い訳でもなくスキップ不可というのが辛い。終わった今となってはあの妙な緊迫感のある移動方法は味があったとも言えなくはないけど、室内モデリングをするならもっと別の箇所に力を入れて欲しかったというのが本音。
 ストーリーは前に述べたような状況であるためにエロゲーらしいお気楽さはない。物語の終盤、春香は千夏に自分の気持ちがいつかわかるようになると語るが、それは殆ど確実に訪れる主人公の記憶障害による思い人と共有した時間の断絶による悲しみが前提としてあることをプレイヤーは予測できる。千夏は春香の言葉に促されるように、過去を振り返ることによって内面の補填だけは成すだろうけれど、それは普通の人たちが感じられる相手と自分の立ち位置でないので残酷にも思えるかもしれない。しかしカタチアルモノハイツカコワレルというテンプレ文章があるように喪失というものは人生に必ずつきまとう(SFならそうでもなかったりするけど)。主人公と春香/千夏の関係は失われるまでの時間が一般的な恋人や夫婦などのものと比べて極端に短いという点は特殊だし、別離の前に徐々に相互関係意識の断絶が起こるという点の二つの性質が状況の特異性を感じさせるが、喪失の不可避性は他の全てのケースと等しい。ついでに言うと後者の特殊性は認知症とかで実際に多くの人が経験してるのかもわからんが、これは余談が過ぎるか。多分、千夏はもう主人公から目を逸らすことは出来ない。自分でもそれがわかっていて、その上で普段の人間関係では意識しない喪失を強く意識させられる状況にあるから彼女は苦しむ。春香も彼女の苦しみを理解し、その上であの言葉を千夏にハッキリと伝えた。諦念とも思えるが、事実として生者は死という大きいな喪失から、普段の生活の中にあるちょっとした後悔等々の各損失を日々受け容れなくてはならない。失うことを恐れて自らを日々苛むか、それとも自分が以前そうであったように幸せな一時を受け容れる強さを持すか……生きているということが死と隣り合わせなら、ずっと泣いているだけではいられない。春香の表面的な性格からは想像できない芯の強さを、姉として大切な妹の千夏に伝えたシーンだ。他にも主人公は事故前の父の葬儀の時に、葬式って退屈で嫌いだし自分が死んだら灰は海に撒いてくれと千夏にだけ言っている。千夏という一人の少女が大切な人の半喪失という状況――だからそれは未亡人とかそういうよくある状況とは違い、フィクションにおけるテンプレ的解決作を持たない――をどうやって捉えて、そして実際にどうするのか。この後彼女が選ぶのは逃避かもしれないし、それを譴責することは出来ない(実在しないキャラだからってコトでなくて、気持ち的にってコトでね)。エロゲ的でなく同人作品や短編小説のような要点のみを凝縮した内容になっているから、普通のエロゲでは描きにくい別離をどう受け容れるかという部分を注視できたのだとぼくは思う。
 最後に余談ながら、神坂公平はもっと作品をエロエロに出来ると感じる。今回はある水準のリアリティを保持しなければ作品の雰囲気が損なわれるからエッチシーンは……ぼく個人としては控え目になっていたと思う。別に変態じみたプレイを熱望しているというわけではなく、二次元的に抜けるようなウソ描写や台詞回しが氏ならば可能だと思う。本作でも十二分に「使えた」という声は多かったが、ぼくは嘗てLIBIDOが作っていたような、もう少し軽めにチャチャッとエッチシーンに入る短編集的作品でもアリだったんじゃないかと思う。まあソレはくらげの何だかんだで物語をしっかり作るというスタンスとは違ったものになってしまうのかもしれないね。

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