このページの記事一覧
三月号とは何だったのかというくらいに力強い作品が多い今号でした。ミエヴィルええのぅ。文章が美しいです。ストロスはいつも通りのストロスクオリティだと思った。日本人作家の作品はやはり海外勢よりも物語として――というよりSF的なるものの書き方かな――劣る気がしてならないのですが、現代に生きる日本人の感覚のツボを突いてくるものが多い。今回特に長谷敏司と菅浩江の作品でそう思わされました。
●p9 長谷敏司「allo,toi,toi」
紹介文:
8歳の少女を性的虐待のうえ殺害し、刑務所で終身刑に服す男。その脳裏に響く声とは?
巻頭から三月号涙目クラスの作品が。脳神経ネタを巧く用いつつ、あらゆる人間社会の歪みが描かれているところに注目したい。児童性愛者の着地点はやっぱりソコだよなーという感じで割とどうでもよろしい。ロリコンってレベルじゃねぇし。デッドマンのロリコンはノータッチが信条だけど、こっちは殺害しちゃってるし小児性虐待者(チャイルド・マレスター)でしょ、これは。ロリコンとチャイルド・マレスターは対象がロリっ子なだけで同列に並べるのは無理矢理な気がするけれど、対象になるものが重要なのかな。でもレイプ犯や痴漢やらの性犯罪者と、普通のヘテロは違うということにされているよね。ここにマジョリティの怖さがあるけれど、同列でも別物でもないというバランスの取り方が重要なんだろう。というか、このタイミングでねこねこソフトの『White ~blanche comme la lune~』の体験版をやった自分はクソすぎると思った。そりゃ無垢の世界とか見られないのも無理はない。
メグの親は虐待を繰り返していながらも我が子を殺されたことに怒りを感じるし、囚人たちは凶悪犯罪を犯していながらも性犯罪者を忌み嫌う。他人に対して生きる権利があると思っている人間でも犯罪者は死んでしまえばいいと思う。これらが健全だか正常だからはわからないけれど、普通なことなんだと思う。この普通的相対視点を絶対的普遍性だと誤読すると『デスノート』でLや警察の人々がしたようにキラを悪として、自分たちを正義だとする自己肥大につながる。尤もそういう随時相対化される関係性から離れるとライトみたいになるパターンが多くてだいたい失敗するんだけれど、それでもオレはライトやヒトラーや石原慎太郎が主流の歴史的観点からすれば否定すべき人物像だということは認めつつも、彼らの行いを知る環境が違えば肯定的に捕らえられるということも覚えておくべきだと思っているから、健全/正常が真か偽かという判断は保留にしておきたい。たぶんそういう人間の主観感覚に真偽の正解はないんだろうけれど。保留にしながらも社会の通常状態から逸脱した状態でも当人なりの義が社会的に適宜機能しているのがしっかりと書かれているのは好ましいと思う。
ガジェットはソフトな神経インプラントである〈ITP〉(Image Transfer Protocol)。長篇『あなたのための物語』でも使われているし、それを開発している〈ニューロロジカル〉社も同作品に登場。アンソロジー『ゼロ年代SF傑作選』(ゼロ年代とかタイトルにあると読む気しねぇ)にもITPを題材にした「地には豊饒」が収録されている。今作では特殊用途に改編されたITP=アニマのみが登場。たぶん今までの作品のITPとは違った性質のものなんじゃないかな。一見『宇宙消失』に出てきた死んじゃった奥さん再現AR装置(MOD)。このITP神経構造体〈アニマ〉の本来の目的は児童性愛者に現実の少女よりも報酬が大きいビジョンを提示することにある。エロゲーじゃなイカ!被験者の感覚的な好き嫌いを整理し、ストレスが掛かればそれを緩和させる。つまりほぼ想像しうる限り完璧な少女が語りかけてくれるのだが、限界値が人間の想像力によって定められてしまうのは残念。文章作品だからこそ想像を超えた非人間的な美少女を描いて欲しかったと思うのはぼくがアレなオタクだからってことではないだろう。男性はもちろん、女性だって美少女が好きだと思うのだが。ぼくらの社会の現実的な問題はその対象=少女なり少年なりに実体があり自己意識があることだ。この多様性のある現実世界では、犯してはならない罪を犯す人がいなくなることはない。AIではなく、あくまで被験者の反応から表現形式を生み出す〈アニマ〉だからこそ、逸脱者たちに寄り添って語り合うことが出来るのだろう。やっぱり実体のない非実在ナンタラは重要だよ。
未来技術の展望としての面白さもあった。ITPには神経発火から読み取った思考を文章として文字コミュニケータに送信する機能がある。アニマ以外の普通のITPの機能を考えれば搭載していて然るべき機能だ。つまり考えたことが自動的に文章化されるのだ。ものごとを考えるとき、ぼくらは頭の中で言語を操っている。前言語的思考は意識的に整理できないからだと思う。よく英語話者が初学者に対して「頭の中を英語化する」と言うが、これは正に特定言語による思考を意味するもので、言ってみれば当然のことのように思える。而るにこの思考言語を抽出するということは前思考を機械で制御できるようになる前に実用化はありえるのではないだろうか、などと未来に対する妄想を抱いたりした。
[作家詳細]
【長谷敏司 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E8%B0%B7%E6%95%8F%E5%8F%B8)】
●p48 チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」(日暮雅通訳)
紹介文:
ぼくはきみをさがして、この街を彷徨った。この喪われたロンドンを。
長谷敏司すげぇとか言っていたら、こっちはもっと凄かった。趣味に合っています。
(ノ∀`)アチャー、現象数式実験失敗しちゃったかーとか思わずにいられないこの作品も良い。クトゥルーとスプロールものを融合させた感じで、独白調文体の美しさが光る。ギブスンやスティーヴンスンやマーコリイといったサイバーパンクとその系譜の作家のような、世界の猥雑さと自らの孤独と絶望を感じさせるが、暗澹とした不気味さよりも吹っ切れたような心地良さがある。短篇かくあるべきみたいな物語の運びもツボに入った。
ネットで見た感想で、実際のロンドンの様子を知っていればもっと楽しめたかもというものがあって、色々考えさせられる。今回の中野善夫の連載評論でも未知なる場所との距離はどのくらいあるかという話をしているが、ファンタジイを題材にされるよりもぼくらはライアーソフトの『Forest』に於ける新宿やニトロプラスの『Chaos;Head』に於ける渋谷、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の秋葉原と『デュラララ!!』(原作未読)の池袋の様子などを考えた方が話が早そう。一応ぼくはこれらの作品で出てきた街はそれなりに地理を把握しているが舞台となる場所を全部が全部知悉しているわけではない(私事ながら池袋は特にわからん。『デュラ』の池袋は他の作品の他の場所に比べて明らかにイメージ先行的でエッジが掛かりすぎているからあまり関係ないかもしれないが)。また、特定の街ではなくとも、首都高全域を舞台にした物語や東西ドイツ国境付近を舞台にした物語だって大量にあるわけだけれど、舞台を知っていなくても問題なく楽しめているものは多い。だからつまり、特定の場所を舞台にしているということが問題なのではなく、全ての問題は文章に委ねられるものだけれど、「ジェイクをさがして」もロンドンの地理がわからずともまったく問題がない作品だと思う。まあ物語の流れとして他人との会話とかよりも、主人公が目にした変容したロンドンの様子を認めた形になっているから言いたいコトはわからなくもないけれど、東京の状況に置き換えても大して変わらないんじゃないかな。
[作家詳細]
【チャイナ・ミエヴィル(China Mieville) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfm/mievil.htm)】
●p64 津原泰水「テルミン嬢」
紹介文:
能動的音楽治療のため脳内に“ミジンコ”を埋め込んだ眞理子を見舞う奇妙な事態――
ちょっとレトロな翻訳書っぽい特殊な文体で特殊な状況を描写するというのはおもしろいが……υ波で強制的に唄わされるアリアか。ビジョンは美しくも興味深いが、不思議な現象に見舞われた人々があんまり現象解明に迫れてないのが勿体ないと感じる(このへんの感覚が以前うなすけさんがmixiのコメントで書いてくれた感想とは真逆だったりする)。波とか人間とかの構成要素がどのように連動しているのかという話ではなく、とりあえず波が見つかった、打ち消し方も大まかにわかったという程度にしか描かれていない。ニール・スティーヴンスンなどはこういうものに説明を加えるのが巧いイメージがある。
[作家詳細]
【津原泰水 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%A5%E5%8E%9F%E6%B3%B0%E6%B0%B4)】
●p80 飛浩隆「零號琴」連載第三回
紹介文:
首都・磐記の実力者たちの宴席に呼び出されたトロムボノクは途方に暮れる。
おいおい、先月号の最後に出てきたパウル・フェアフーフェンが登場しないのかよ。今回は特に興味深い動きなどがない幕間的エピソードでした。
[作家詳細]
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p96 中野善夫 連載評論《黄昏の薄明かりの向こうへ》第二回「異世界の日常と現実の異世界」
隔月すぎる。こういう評論はコジツケと拡大解釈が横溢するからあんまり好きじゃないんだけど、おもしろいっちゃあおもしろい。SF・ファンタジイ論なんだけれどすぐさまエロゲ論やラノベ論にも援用できそう。
●p108 Media Showcase
ニール・ゲイマン原作のヘンリー・セリック『コララインとボタンの魔女3D』は観たい。アーニー・バーバラッシュ『ハードワイヤー 奪われた記憶』も。
●p113 SF BOOK SCOPE
三村美衣が紹介するファンタジイ紹介ページではリー・エディングスの本がちょっと読みたくなった。《アルサラスの贖罪》シリーズは入門に向いてるらしい。
宮昌太郎がゲームの紹介。『Steins;Gate』、『極限脱出 9時間9人9の扉』、『ラストウィンドウ 真夜中の約束』を紹介。『シュタゲ』は兎も角、残りの二つは『慟哭』や『REVIVE ~蘇生~』を思い出させてくれる懐かしいタイプのゲームっぽい。そこで発売前にちょっと気になっていた『密室のサクリファイス』がどうなったのかなあとか思ったりして、エロスケを除いてみた。難易度が高い為にか、中央点は65とエロスケ基準としてはやや低めだが、文句を言ってるレビュアーの文章を読むに自分には向いてるかもしれないと思ったり。まずはPSP買うのが先だけどね!
●p126 椎名誠のニュートラル・コーナー「なぜパンク頭の地球はダルマ型惑星になっていったのか」
紹介文:
宇宙エレベーターが林立する未来では、静止衛星軌道当たりが騒がしくなるかもね。
椎名誠が嫌いなオレは二度とこれを読まないように話の流れだけ以下に記載する。
軌道エレベーターが完成する→エレベーター間の移動の方が空気抵抗諸々ないので船や飛行機を使うことはなくなる。移動用ネット完成(天涯ネット化)→ネット上にさらにエレベーターを建設し地球 - 第一次天涯ネット - 第二次天涯ネットの形式が完成。月が近いので方法はわからないが月の自転も静止させてネットに加える(ダルマ型巨大惑星化)
●p132 チャールズ・ストロス「ミサイル・ギャップ」(酒井昭伸訳)
紹介文:
一九五二年十月二日、運命の日。冷戦構造はそのままに新たな人類史が始まった……
新たな人類史が始まったと思ったら終わってしまった……「ジェイクをさがして」とは対照的な純娯楽SF。ストロスなのに金子浩訳じゃないんだとか、訳者解説に“「これがストロス?」と驚くほど娯楽性が高い”とか書かれていて、いやいやストロスはいつもエンタメ分多いでしょとか思ったり。
やっぱりストロスは人間の内面を特定の個人から抽出するより、人間全体を書く作家だ。SF小説の最近の流行はディックっぽいところから派生した個人の内面を描く脳科学系だと思うんだけど、昔ながらの大規模現象モノをしっかりと書いてくれるところが好印象。その中でもすごいのはやっぱり歴史ある巨匠のダン・シモンズで、「小僧共オレに着いてきな!」ってな感じで巨編を書き上げてくれるんだけれど(小僧共、と若造のぼくが書くのも変だけど、あくまでシモンズがアメリカンなオッチャンだと想定した台詞ね)、あの人のはまた特殊だしな。ストロスはオーソドックスながらレベルが高い。似たテーマとしては先月号のナンシー・クレス「アードマン連結体」もそういった全人類を俯瞰した作品だったけれど、「ミサイル・ギャップ」の方が圧倒的におもしろい。冷戦時代だから極端に先進的なガジェット――ナノマシン構造体とか神経インプラントなど――は登場しないが、当時の先進的な工業製品や自然科学解釈による物語でもここまでのものが出来るということを見せつけてくれる。
ところで『アッチェレランド』は文庫化したら読もうと思ってるんだけどそろそろ出る頃かなあ。ハヤカワSF文庫は最近はアンソロと売れなさそうなシリーズものが殆どだし。JA文庫は元気ありますが。
[作家詳細]
【チャールズ・ストロス(Charles Stross) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/stross.htm)】
●p198 大野典宏 《サイバーカルチャートレンド》連載10「タブレットPC元年は、アラン・ケイの夢の実現か?」
iPadを扱うにしてもその使い易さとか単なる機器紹介にならないところがこの雑誌らしい。一九九二年にMSから発表されたWindows for Pen Computingをはじめ、IBMのPen for OS/2、AppleのNewton、二〇〇二年のWindows XP Tablet PC Editionといったレガシーデバイスの名前も挙がるところがおもしろい。タブレットPCとPDAの境界線というのが曖昧になりつつあるよね、などと思った。
●p200 鹿野司《サはサイエンスのサ》連載179「柴野拓美さんのこと」/p236 大森望《大森望の新SF観光局》第11回
二十歳くらいになってSF小説を読み出した身としてはあんまり馴染がないが、柴野拓美を偲ぶ文がいくらか掲載されており、故人の業績に想いを馳せる。担当された翻訳書は『無常の月』と『時間泥棒』くらいしか持ってないので、名前を聞いてもパッとわからない。このお人がいなければ日本SF史が今の発展がなかったというくらいの方なので、覚えておこう。SFをもっと読んでいけばまた出会うだろうし。
●p218 大森望×中村融×山岸真《[新版]世界SF全集を編む》連載座談会・第2回
やっぱりこういった過去のSF小説史を俯瞰するとなると、ぼくは全体像をまばらにしか捉えられていないから知らない作家、知らない作品などがある。そうやって新しい作家を知っていくわけ。それ以上に既知の作家の作品で知ってるけど読んでないモノっていうのもかなりあって、ここで俎上に持ち上がってなくともアレ読んどかなきゃなあという気持ちにさせられた。
まあ何にせよこんな全集とかよりも絶版になってるものをなんとかしろと思うんだけど。ああ、つまり図書館でってコトなのかしら。出版社は自分の首を絞めるのがお好きで。
●p228 MAGAZINE REVIWE 川口晃太朗 〈インターゾン〉誌《2009.9/11~2009.11/12》
二頁しかないコラムなのに翻訳家のパワーを見せつけてくれる。“Sublimation Angels”が「昇華天使」、“No Longer You”が「もはやあなたではない」、“Shucked”が「スパムの恐怖」、“The Festival of Tethselem”が「テスセレムの祝祭」、“Here We Are, Falling Through Shadows”が「影を抜けて、我らここにあり」、“By Starlight”が「星明かりのそばで」、“The Killing Streets”が「人殺し道路」。最後に挙げたもののタイトルは“Hothouse”を「地球の長い午後」(The Long Afternoon of Earth)くらいに改変しないと安っぽいタイトルから抜け出せないだろうが、「影を抜けて、我らここにあり」とか痺れるくらい格好いい!原書をそのまま訳したカタカナ題や、創元の四文字熟語風(今回の作品の中では「昇華天使」がそれにあたる)もいいけれど、こういうやや大仰というか古めかしい日本語題もいいよね。あとはグィンの『所有せざる人々』やSFじゃないけどウォレスの『ヴィトゲンシュタインの箒』とかも格好いいですよね。たぶんアレだ、『Magic: The Gathering』やってたから、ソレっぽい翻訳に惹き付けられるんだ。
●p240 菅浩江「コントローロ」
紹介文:
〈コスメディック・ビッキー〉の男性向け化粧品発表会。その予想外の展開とは?
人間存在と外界との境界そのものである“美容+医療=コスメディック”をテーマに展開しているシリーズの最新作。
上は解説より引用。今回はその第八話らしい。内容はミステリー風のメガカンパニー陰謀モノといったところ。今回は医療よりも美容寄りの内容で、それだけに日常でのファッション意識にも通じるところがある。物語としてはそれほどだけれど扱う内容は身近で、ガジェットがいくら先進的、未来的だろうと意識的な地続きを感じさせる。そういう知り合いはいないんだけれど、コスプレをする人なんかが読んでも割と楽しめるのではないかと。敢えてかどうか知らないけれど、現代の大衆的ファッション感覚をそのままに未来的な美容技術……変身とすら呼べるほどのものを扱っているところが作品を読んで色々と思わせるところがあるんだろうな。
[作家詳細]
【菅浩江 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E6%B5%A9%E6%B1%9F)】
●p277 今月の執筆者紹介/p280 編集後記
飛浩隆のコメントと編集後記で浅倉久志が亡くなったことが書かれていた。誌面では柴田拓美のことばかりだったけれど、どちらかと言うとぼくは浅倉久志のことの方が知っていたから重大な翻訳家の死去があったというニュースはこちらの方で覚えている。あとは翻訳家ではないけれど最近のSFの重鎮の訃報はホーガンか。この前同誌で追悼特集みたいなのも組まれましたね。
あと山岸真のコメントでトールサイズ化重版した『あなたの人生の物語』と『順列都市』で解説/あとがきを書き足したと書いてある。マジかよ。山岸真好きなんで読みたいけど、わざわざ買い直したくはないなあ。ブックオフの105円コーナーとかなら別だけど。図書館も新しく入れないだろうしなあ。となるとそのくらいは本屋で立ち読みすれば?みたいに言われそうだけれど、立ち読みをネットで公言するのは気が引ける。でもこれを書いた時点でアウト。

地の文章は巧いとは思わないし、キャラクターに愛着を感じる程情報は与えられない。特にこれといって魅力は感じず、ほどほどに続きが気になるという構造がLamp of Sugar『Hello,good-bye』の体験版とも似ている。正直かなり期待していたんだけれどがっかり。もっとロリ……じゃないや、幼子(ねこねこソフト公式サイト内MMR日記12月16日分参照【マイクローンデカルチャー萌え(中略)日記 (http://cgi.din.or.jp/~nekoneko/cgi-bin/nikki/nikki.cgi)】)が云々なオハナシだと思ったのに、幼子が出てきても幼子独自の精神性とか性質、それに触れて大人がどう感じるかが文章に表れていない。実際にテキストで語られなくても予感させてくれる程度に無垢の世界の片鱗でも見せてくれればまた違った感想になったかもしれないが。
幼子が出てくるとぼくはどうしてもスティーヴン・デッドマンの「目覚めたる目には、見えることのなく」を思い出してしまうし、先日に長谷敏司の「allo,toi,toi」を読んだばかりでどうしても比較してしまう。タイミングも悪かったと言える。そういうのとは違うんだから比較対象として間違ってると言われそうだけど、ギャグや設定の強みがなければ思弁的内容に期待しちゃうのも無理ないんだよ。尤もこれらを参考にしてしまうと、エロゲーの中でエロゲーならではの描写をしつつも非エロゲー的結論になってしまうことはあるだろう。つまり「イエス、ロリータ。ノータッチ」。でもそういうの大切だよね。タッチしちゃった人の過酷な運命を書くとしてもさ。
キャラクターに愛着を覚える程ではないけれど、東京到着後の制服キメポーズのエピソードは結構好きだ。完全体ワロタ。最近になって漸くエロゲーでキャラクターが気に入るかどうかの基準がだんだんと明らかになってきた。ギャグの時に思い切り常識を飛び抜けてくれるキャラクターがいるといいのかもしれない。たとえば『グリザイアの果実』では蒔奈と幸とみちるが愉快な空気を牽引してくれるし、『俺の彼女はヒトでなし』でもボケとツッコミの激しい応酬が見られる。それに比して『のーぶる☆わーくす』や『Hello,good-bye』、『ヨスガノソラ』に『AQUA』(これはちょっと合わなさすぎたので感想は書かない)と言った作品は大人しすぎて、そういうダイアローグが描かれても退屈に思ってしまう。『White』はぽんこつと常識知らずなマリカとブリジットがいてくれるのでキャラクターを見る場合にはそれなりに楽しめたりもする。あと『グリザイアの果実』ではみちる、『俺の彼女はヒトでなし』では衣緒を気に入っているところからすると、強気ながらも弄られてしまうキャラが好きなんじゃないだろうか、たぶん。
今回は「2009年度英米SF受賞作特集」。つまらなくはないんだけれど、特別おもしろいわけではない微妙な号。
●p4 オールタイム・SF映画ベスト50座談会(高橋良平、柳下毅一郎、鷲巣義明、渡辺麻紀、添野知生)
映画って読書なんかと比べると随分お金が必要な趣味だと思うんだよね。特に映画館で観ると高い。レンタルで観ても本と比べて金がかかる気がする。まあ、ぼくが普段は本を図書館か古本かのどちらかで入手して読んでいるから安上がりに済んでいるんであって、新品を買うとなると本も結構高いけれど。でもよくよく考えれば映画も図書館に置いてあるし、もうちょっと積極的に視聴してもいいのかもしれない。
というわけであまり映画を観ていないのにこんな特集を観てもおもしろいのかと最初は気後れ気味だったが、なんだかんだで楽しめた。というか、意外と観たことある映画が多く話題に挙がっていたんだよね。自分は映画をあんまり観ないと言っていても、何だかんだで自称映画が好きな人(マニアに非ず)に話を合わせられるくらいは観ているからか。『ブレードランナー』や『2001年宇宙の旅』とかは今日日、普通の人たちは観ていなくても仕方ないと思うが『ゴジラ』、『スター・ウォーズ』、『エイリアン』を観たことがないって人は以外と多いんだよね。『スター・ウォーズ』は特に映画もSFも、ついでにVFXが好きじゃなくてもみんなが観ているという印象がある映画だったから、人と話して観たことがないと言われてとても驚いたことがある。でも自分の映画に限らずゲーム、アニメ、読書、諸々の遍歴も人からしたら変に思えることがあるんでしょうな。それが個性としておもしろくもあるんだけれど、人と同じものを自分の視点から視るということも大切だと思うので、とりあえずは今回の座談会で(限定して)決定されたベスト50を参考に映画を観てみたいと思う。
[ベスト50リスト]
1.ブレードランナー(1982)リドリースコット
2.キング・モング(1933)メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック
3.メトロポリス(1927)フリッツ・ラング
4.スター・ウォーズ(1980)アーヴィン・カーシュナー
5.2001年宇宙の旅(1968)スタンリー・キューブリック
6.エイリアン(1979)リドリー・スコット
7.ヴィデオドローム(1983)デヴィッド・クローネンバーグ
8.ターミネーター(1984)ジェームズ・キャメロン
9.ゴジラ(1985)本多猪四郎
10.未来世紀ブラジル(1985)テリー・ギリアム
11.ダーク・スター(1974)ジョン・カーペンター
12.遊星からの物体X(1982)ジョン・カーペンター
13.バットマン・リターンズ(1992)ティム・バートン
14.マトリックス(1999)ウォシャウスキー兄弟
15.マッドマックス2(1981)ジョージ・ミラー
16.バーバレラ(1968)ロジェ・ヴァディム
17.博士の異常な愛情(1964)スタンリー・キューブリック
18.時計じかけのオレンジ(1971)スタンリー・キューブリック
19.アンブレイカブル(2000)M・ナイト・シャマラン
20.ロード・オブ・ザ・リング(2001)ピーター・ジャクソン
21.アイアン・ジャイアント(1999)ブラッド・バ0ド
22.ボディ・スナッチャー 恐怖の街(1956)ドン・シーゲル
23.原子怪獣現る(1953)ユージン・ローリー
24.スキャナー・ダークリー(2006)リチャード・リンクレイター
25.禁断の惑星(1956)フレッド・マクロード・ウィルコックス
26.ゾンビ(1978)ジョージ・A・ロメロ
27.宇宙戦争(2006)スティーヴン・スピルバーグ
28.ロボコップ(1987)ポール・ヴァーホーヴェン
29.猿の惑星(1968)フランクリン・J・シャフナー
30.遊星よりの物体X(1951)クリスチャン・ナイビー
31.ダーククリスタル(1982)ジム・ヘンソン、フランク・オズ
32.ガメラ2 レギオン襲来(1996)金子修介
33.宇宙水爆戦(1955)ジョセフ・M・ニューマン
34.フランケンシュタインの花嫁(1935)ジェームズ・ホエール
35.地球最後の男(未)(1964)シドニー・サルコウ、ウバルド・ラゴーナ
36.原子人間(1955)ヴァル・ゲスト
37.機動警察パトレイバー THE MOVIE(1986)押井守
38.惑星ソラリス(1972)アンドレイ・タルコフスキー
39.アルゴ探検隊の大冒険(1963)ドン・チャフィ
40.去年マリエンバートで(1961)アラン・レネ
41.放射能X(1954)ゴードン・ダグラス
42.アイアンマン(2008)ジョン・ファヴロー
43.地球の静止する日(1951)ロバート・ワイズ
44.キング・コング(2005)ピーター・ジャクソン
45.ピクニック at ハンギング・ロック(1975)ピーター・ウェア
46.地球爆破作戦(1970)ジョゼフ・サージェント
47.ゴジラ対へドラ(1971)坂野義光
48.ダークマン(1990)サム・ライミ
49.ギャラクシー・クエスト(1999)ディーン・パリソット
50.恋はデジャ・ブ(1993)ハロルド・ライミス
●p9 ナンシー・クレス「アードマン連結体」(田中一江訳)
紹介文:
老物理学者ヘンリー・アードマンを突如襲った身体的異変。それは大いなる異変の前触れだった……。
ネビュラ賞のノヴェラ部門受賞作品。選考に納得いかないのは毎度のことなので最早どうでもよろしい。タイトルがギブスンの「ガーンズバック連続体」っぽくてかっこいいけど、内容を読むとガッカリする。間違っちゃいないんだけどあまりにも捻りがない。エキストラにまでいちいち名前がついているのはクレスらしい。
所謂『幼年期の終わり』系で、昨今の世界的な平均寿命の延びから来る老人の増加に目を付けたところにオリジナリティがあるのかもしれないが、物語としての真新しさはない。ナンシー・クレスの作品としては『ベガーズ・イン・スペイン』収録作品の方がよっぽど面白い。《プロバビリティ》シリーズと本作を読んで、この作家は専門的な物理学に対して憧れはもっているんだけれどそれをイーガンやストロスのように使いこなせていないんだと感じた。小説としてそれなりに楽しんで読ませる力はあるのに、ハードSFとして見ると山本弘とか小川一水のレベルに留まる。
しかし相変わらず人物を描くのが巧い。読んでいる時は特に何も感じることはないんだけれど、これを読んだ後に他人と会話を交えているときにふと小説内に書かれていたことを、身を以て体験できる。ウザキャラのイヴリンですら然るべき存在理由を与えられていると思う。個人的体験としては相手がこちらの事情を無視して偉そうに語る時などは、別段そのことについて語りたいのでも、こちらに語りかけたいのでもなく、ただ単に己の中に溜まっている未消化な思念を言葉にしているだけだということがこの作品を通してすごく実感できた。だからそういう時は相手の話の瑕疵を指摘したり論理的な弁明をしても無駄で疲れるだけだから、ウンウンと頷いていればいいのだ。この柵から抜け出た統一的な存在の一部になりたい。早く船が来てくれればいいのに。
近著短編集に表題作として収録されている。
[メモ]
1.【ジョン・ドライデン - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3)】
2.p24の“真空フラックスを縦横にはねまわっている”はフラックスの言葉の使い方として正しいのだろうか。知り合いの理系二人に聞いたけどわかんなかった。この超越存在について焦点を当てたパラグラフでは宇宙時間云々の記述もあるけれど、単なる雰囲気作りっぽいような。
参考:【フラックス (物理学) - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9_(%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6))】
[作家詳細]
【ナンシー・クレス(Nancy Kress) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfk/kress.htm)】
●p73 2009年度・英米SF受賞作特集 特集解説:橋本輝幸 + 2009年度受賞作リスト
内容は各URLを参照。
[ヒューゴー賞]
【The Hugo Awards : 2009 Hugo Awards (http://www.thehugoawards.org/hugo-history/2009-hugo-awards/)】
[ネビュラ賞]
【Nebula Award Final Ballots from the 2000s (http://dpsinfo.com/awardweb/nebulas/00s.html#2008)】
[ローカス賞]
【The Locus Index to SF Awards: 2009 Locus Awards (http://www.locusmag.com/SFAwards/Db/Locus2009.html)】
[アシモフ誌読者賞]
[アナログ誌読者賞]
【SF Site News ≫ Asimov’s and Anlab Readers’ Polls (http://www.sfsite.com/news/2009/04/29/asimovs-and-anlab-readers-polls/)】
[英国SF協会賞]
【2008 Winners (http://www.bsfa.co.uk/BSFAAward/2008Winners.aspx)】
[アーサー・C・クラーク賞]
【Previous Winners (http://www.clarkeawards.com/PreviousWinners/tabid/60/ctl/Details/mid/411/ItemID/22/Default.aspx)】
[英国幻想文学賞]
【The British Fantasy Awards: a Short History (http://www.britishfantasysociety.org/index.php/british-fantasy-awards/history-of-the-bfas)】
[ブラム・ストーカー賞]
【ブラム・ストーカー賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E8%B3%9E#2009.E5.B9.B4)】
[世界幻想文学大賞]
【世界幻想文学大賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%B9%BB%E6%83%B3%E6%96%87%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E8%B3%9E#2000.E5.B9.B4.E4.BB.A3)】
[フィリップ・K・ディック賞]
【The Philip K. Dick Award - winners by year (http://www.philipkdick.com/links_pkdaward.html)】
[ジョン・W・キャンベル賞]
【ジョン・W・キャンベル記念賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BBW%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A8%98%E5%BF%B5%E8%B3%9E)】
[シオドア・スタージョン記念賞]
【シオドア・スタージョン記念賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%89%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E8%A8%98%E5%BF%B5%E8%B3%9E)】
[ジョン・W・キャンベル新人賞]
【ジョン・W・キャンベル新人賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BBW%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E6%96%B0%E4%BA%BA%E8%B3%9E)】
●p82 ジェフリー・A・ランディス「マン・イン・ザ・ミラー」(小野田和子訳)
紹介文:
採掘のため降り立った小惑星に存在する異様な地形。好奇心にかられた男はそこを訪れるが……
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作品。マイケル・ジャクソンも『ジョジョ』も関係ない。
異星人の作ったものだと思わしき巨大な凹面鏡に落っこちて、そこから脱出する男の話。脱出すると言っても、摩擦がごく少ない鏡の上を楕円運動を繰り返しつつ、どうやって上に出るかというだけで、特に異星人が語りかけてきたり急なピンチに陥ったりはしない。ブランコの容量で重心移動をさせて運動エネルギーを増加させて出るだけの話なんだけど面白く読める。人のこと言えないけれど、これが読者賞とは、アナログ誌読者は変態揃いである。
[作家詳細]
【ジェフリー・A・ランディス(Geoffrey A. Landis) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfl/landis.htm)】
●p99 テッド・チャン・インタビュウ (インタビュアー&構成:大森望)
チャンがギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』をベタ褒め。
●p113 SF BOOK SCOPE
今号は気になるものが少ないと思ったが、よくよく思い返せば二月号もそこまで惹かれた本は多くはなかった。しかしながらそれは既にチェックしているものも紹介されているからで、自分のウィッシュリストと重複しないものを紹介して欲しいという思いが、このコーナーに寄せられてしまうからでしかない。
毎回ラノベを紹介するのは些か無理矢理にも思えるが、タニグチリウイチのラノベ紹介枠では準ラノベの壁井ユカコ『カスタム・チャイルド 罪と罰』に目を止めた。所謂デザイナーズ・チルドレンが親から受けた歪んだ気持ちの受け取り方を描く物語らしい。
細井威男の紹介しているものは海外SFなので殆どチェック済みだが、マイク・アシュレイ編の『シャーロック・ホームズの大冒険』はホームズもののアンソロながらもSF作家が多く寄稿していて、例えばバクスターの短編なんかも載せられているということで要チェック。
ホラー紹介担当笹川吉晴の紹介する三冊のうち一冊、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE』は都市恐怖譚で退廃的なパンク系ホラーな匂いがする。
あとは純文学から牧眞司が紹介するジョルジュ・ペレック『煙滅』は、原文フランス語では再頻出文字のEを一切使わずに書き上げた小説ということで、それだけなら暗号解読技術の頻度分析が効かないという程度で話は終わるが、内容は普通のミステリでなくメタ世界に迫ったSFとしても読めるという少しだけ気になるかもしれない。
●p126 飛浩隆「零號琴」連載第二回
紹介文:
磐記の街で開催される假劇に参加したトロムボノクたちを待ち受けているものとは?
先月号で次回はカスタトロフが起こると紹介されていたので、惑星一個くらい消滅するのかと思ったけど、假劇に乗じたテロだった。ちょっとショボいよ。内容自体は前回に引き続きおもしろい。
[作家詳細]
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p148 小林泰三 《天獄と地国との狭間》第八話「シャヘラザード」
紹介文:
カムロギたちの前に姿を現したウインナー村の長老・ザビタンは、若い少女だった。
ザビタン「ザビたん言うな!」
↓
ザビタン「わたしは今よりザビたんと名乗る」
カムロギ、ナタ、ヨシュアという空賊たちがダイソン球の外郭で冒険をする話らしいんだけど、今回は未読の七話で交戦したらしきザビタンの過去エピソードだから単体でもごく普通に読めた。シリーズの途中参入者としては良いタイミングで入れたかな。
巨大な特殊兵器――天使――というのがあるという背景はわかった。しかしシャヘラザード=レギオンが登場したときに、戦闘艇と核融合弾頭の使用をすすんで選択した家老が天使であるカルラの出撃を拒んだ理由はあまり合理的には思えなかった。結局レギオンが天使であれば戦闘艇も核融合弾頭も効果はなく、最終的にはカルラの出番になり、レギオンが天使でなければ天使のカルラで圧倒できる筈なんじゃないのか。ここらへんは六話以前をちゃんと読んでないから違和感があるだけかな?
[作家詳細]
【小林泰三 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%B3%B0%E4%B8%89)】
●p166 樺山三英「世界最終戦論」
紹介文:
戦争は一度も途絶えたことがないのだという戦争は。今も、そしてこれからも――
有名作品を別の視点から捉え直したシリーズで、今までもオーウェル『一九八四年』、シャルル・フーリエ『愛の新世界』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、ウィリアム・モリス『ユートピアだより』、ハクスリー『すばらしい新世界』を扱っていたらしい。今回は石原莞爾の『世界最終戦論』が題材。ところで『愛の新世界』の値段がAmazonのマケプレですごいコトになってる。九万て……
全体的にわかりにくいというか、ストーリー性はないとまでは言えないけれどまともにストーリー性や設定を評価するタイプの小説じゃなくて主張だけがある……んだと思う。戦争と平和は境界線で区切られて別のもののように思えるけれど、平和もまた戦争の一形態というオハナシ……だと思う。
[作家詳細]
【樺山三英 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%BA%E5%B1%B1%E4%B8%89%E8%8B%B1)】
●p202 SENSE OF REALITY
金子隆一のエッセイは毎回面白い。昔からこのコーナーを持ってるのかなと疑問に思って本棚にある九七年十一月号を見てみると、書評をしていた。今のエッセイの数が溜まったら本にして出して頂きたいところ。
●p236 MAGAZINE REVIEW 東茅子 〈アナログ〉誌《20099.7/8-2009.11》
〈アナログ〉誌は〈アシモフ〉誌よりもアイデアやビジョンは地味だったり昔のSFでありそうな話ながらも、だからこそ実は骨太な作品が載ってるという感じなのかな。「マン・イン・ザ・ミラー」もそんなんだったし。だからあらすじを紹介されても特定の作品が読みたくなるようなことはないんだけれど、実際に読んだら楽しいんだろうな。
●p246 キジ・ジョンスン「26モンキーズ、そして時の裂け目」(三角和代訳)
紹介文:
エイミーは、一ドルと引き替えに手に入れた26匹の猿たちとショーをして旅していた。
世界幻想文学大賞短篇部門、アシモフ誌読者賞ショート・ストーリー部門受賞作品。
短めだし悪くはないんだけれど、個人的にはそこまで。そういえばぼくは数年もの間、バスタブというか浴槽に浸かって風呂に入っていないんだな。ユニットバスだからどうしてもシャワーしか使わなくなってしまう。バスタブに浸かればどこかへ行けるわけでもないし、別にいいんだけど。
[作家詳細]
【キジ・ジョンスン(Kij Johnson) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfj/johnso30.htm)】
●p258 ジェイムズ・アラン・ガードナー「光線銃――ある愛の物語」(金子浩訳)
紹介文:
ある日森で光線銃を見つけてから、内気な少年だったジャックの人生は大きく変わった。
シオドア・スタージョン記念賞、アシモフ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作品。
光線銃はぶっちゃけどうでも良かったね。動機付けの対象としては確かに特殊ではあるんだけれど、SFだったらもっとすごいのいくらでもあるし。物語の流れ自体はオーソドックスながらもユーモアのツボを付いていておもしろい。SFのガジェットを利用した非SF的な作品。
[作家詳細]
【ジェイムズ・アラン・ガードナー(James Alan Gardner) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfg/gardner.htm)】

「先輩って何者なんですか?」
「我は、我であるッス」
『Hello,good-bye』と並んで十二月のダークホース(『Hello,good-bye』はもう発売されて感想も書かれ始めているけれど、この短期間でクリアした人の感想をぼくはあまり信用してない)。タイトルとビジュアルが地味なのであんまり盛り上がりそうにないが、チェックしておきたい作品。どことなく漂うチープなイメージを覆されるわけではないけれど、キャラクターの魅了はなかなかで、意外とおもしろい。製品版で補足されるであろう部分が大量に省略されているので仕方ないのけれど、ここまで流れをメチャクチャにしてもエロゲーの雰囲気ってそれなりに成り立つのを実感させられた。抜け落ちているエピソードがあるので気持ち悪さが残るが、その足りないところを補完したいという欲求を呼び起こさせる力はある。ギャグの掛け合い、登場人物のアクの強さに加え、仄めかされる謎などで、ビジュアルや音楽などの安っぽさを十分にカバーできている。
強烈な設定の登場人物たちの物語をどう説明できるかが製品版でのひとつのポイントになるのではないだろうか。まずプロローグからしても全員の正体がいっせいに明かされるのは偶然にしては出来すぎ。後半に提示されるであろう各人の課題――要するにシリアス展開に於ける問題、障害のこと――も、問題解決能力に優れたメンバーですら困難に感じるようなものを持ってこないといけないと思う。盟依と燈は超越的な力を使えるっぽいし、衣緒は拡張性がある……というよりはマッドが開発能力ありすぎだし、さらに学長は『ドラゴンボール』の世界の人だし、クラスメイトはプレコグ。それでいて権力と財力もそれなりに備わっている。宇宙規模の問題すら解決できそうな連中にどんな困難が与えられるのだろう。『のーぶる☆わーくす』の登場人物たちは権力や財力もある良家の人間でも、結局は社会の構造の中に閉じ込められているし病気や事故などには叶わないが、この作品の登場人物はそんな普通の障害は容易く乗り越えられそう。もしも後半のシリアス場面で「魔法使えよ……」みたいになってしまうとせっかくの熱が冷めてしまうことは予想できるので、そのあたりどうなるか気になります。あ、でも電子レンジがなくなったら魔法使えないのか。じゃあ仕方ないか!
ヒロインたちの外見と正体の不一致ぷりは爽快に既成観念を崩してくれる。魔女はこの中で誰かと問われれば名前と外見しか情報を与えられなければ殆どの人がアリスだと言うだろうし、ヴァンパイアは衣緒。残る選択肢でわかりやすいライカンスロープとアンドロイドは日向か燈に当て嵌めて、消去法で盟依が空気……そんなわけで全員の正体を開始十分もせずに明かしてくれるこのゲームだけれど、限定された情報だけ与えられるとおもしろいくらいに正体がわからなかったりすると思う。だから何だってワケじゃないけれど、こういうところにスタッフの業界テンプレに対抗する意志が垣間見えたりもしているのかも。アリスの私服もエロゲーじゃ標準ちゃあ標準なのに突っ込まれまくりだし。突っ込むところそこじゃねぇから。
また、文学的或いは民俗学的なバックボーンがありそうなメンバーなのにそういうことが一切語られないのも意外。衣緒はマッドの独自開発(つーのも本当にすごすぎだけど)だし、燈は正体不明だから良いとして、魔女とヴァンパイアとライカンスロープの由来については体験版でまったく触れられていなかった。盟依は後天的に能力を身につけ、日向は長い年月を生き、アリスは親からの遺伝という話だけはちょっと語られていたけれど、それぞれの特殊な形質がどういう由来を持つかという点についてはびっくりするくらい説明がないし、主人公も求めない。これも製品版で補完されるのかもしれないけれど、やっぱりもう少しゲーム世界の設定情報を与えて欲しかった。謎が残っているようで、残ってないのかもしれなくて、だからこそダークホースなんだけれども。
最後に好きなキャラクターについて。SF者としては当然ながら衣緒が好きなんだけれど、作中ではアンドロイドなんだから数学ができなきゃダメだろと突っ込まれている。違うよ、全然違うよ。彼女の性質は計算機械であるコンピュータとは異なり、あくまでも人工的に造られた人間の模造品というところにある。ブースターとかレーダーとかの拡張性は大して重要じゃなくて、あれは人間がブースターやレーダーや他の色々な道具を使うのと基本的には変わらない。彼女はヒューマンフォーム・ロボットでありヒューマンシミュレーションモデルでもある。wikipediaの人造人間エントリ【人造人間 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89)】にも“アンドロイドという物は人造物で、人間と同じ物を構成して「ほら、人間が出来ただろう」と言う為の試行的産物であり、生体医工学の極致である。それは発生当初から「人の代わりに働くもの」として定義されているロボットとは、そのアーキテクチャにおいて一線を画し、道具としての意味はもたない。”とある。あまり人付き合いが得意でない日向が衣緒をポンコツとかスクラップとかクズ鉄と呼ぶのはある種の友情を含んでいるのだろうけれども、「クリスタルの夜」とか「灰色の車輪」を読んでいると、その呼称はちょっとひどいと思っちゃう。がんばれ、衣緒。

フラウエンちゃんのセル・オートマトン講座!クロとシロがそれっぽくない?ぽくないですね、ハイ。SF好きとしてはこういう複製、反復、停止のモデルがあって、尚かつその対象が意志を持っているとなると一本くらいは短編が出来ちゃいそうな気がしてならないんだけれど……話を本線へ乗せましょう。『ヴァニタスの羊』体験版について。
当たり前なオハナシなんだけれども、やっぱりエロゲーというのはキャラクターが大事だということを再認識するに到る。アニメ、マンガ、ゲーム等々のサブカル系作品を総称してキャラクター・メディアと呼んでいた人がいて、かなり乱暴な呼び方ではあるものの一応正解の一つなんだろうな、などと思ったり。まあ正確にはメディアというよりもコンテンツだと思いますが。本作はけっこう真面目にファンタジーをやっていてエロゲーっぽくないのが良くない方向に作用した。エロゲーじゃなくていいと言われる作品と言えばやっぱり桜井光のスチパンシリーズがあるが、あれらではちゃんとキャラクターに魅力があって画も音楽もそれぞれがそれぞれに楽しませてくれる。確かに全年齢対象でもいいんだろうけれど、少なくともゲームである必要は感じる。『ヴァニタスの羊』の体験版ははっきり言ってキャラクターに魅力を感じない。それに面白い会話もなく、設定も魔術について色々語られるが特に目新しさはない。本編でフラウエンがデレたり隙を見せたりしたらニヤけることが出来そうだけれど、体験版はあまりにも堅い内容で、終始無表情で読み進めていた。特にアルマとエリファスの会話は戯曲や演劇のような一連のクリシェによるやり取りが多く、文字が順々に表示されてそれに声が重なるようなエロゲースタイルでやられると冗長に感じる。濡れ場でもこれが続けばある意味では面白いかもしれないと思ったけれど残念ながらカット。ここまで生真面目な作品だと、もういっそのことマーティンとかル=グウィンとか、そういう本家ファンタジー小説家(SF作家かファンタジー作家かと言う話はトモカク)の作品でも読もうかと思ってしまうくらい。だって世界観が~とか言っちゃったら、そういう小説を読む方が絶対に楽しいもん。
そうして退屈を感じつつもクライマックスだけは胸に響くものがあった。クロードやテレーゼの年齢にあって慕っていた親との突然の別離ってのは辛いよなあ。彼ら自身と歳は離れていて既にそういう心境になるようなことはないけれど、悲しみの大きさというのはそれを感じた者が子供だからと言って軽く扱えるようなものでもない。声優さんの演技と音楽も相まった演出は逸品でした。そこで唐突にも体験版が終わっちゃったからびっくりしたけれど。あそこで終わって良かったのかどうかは……判断しかねる。一番良いところで終わったとも言える一方で、本編の彼らを見せてくれないと話にならないとも言える。
この体験版は公式サイトの表示によると「体験版(脱出編)」とあるから次があったりするのかもしれない。帰還編とかね。今回は製品版で主に描かれる時間から九年遡って主人公達の幼少期を描いている。これこれこういう過去があるために現在の彼らはこういうことをしていますという話は重要だけれど、最初にそれを提示されるよりも物語の中で自然にテーブルに載せてくれたら良かったのに。これで発売日に突撃する人は体験版などやらなくとも突撃してたんじゃないだろうか。個人的な問題は上記までの感想に加え、『グリザイアの果実』と同日発売だと言うことです。ごめん、オレ『グリカジ』買うから……
あと作中のちょっとしたところにケチを付けるようでアレなんだけれど、魔術を研究する者という意味で魔術師を名乗るエリファスとその弟子のクロードなら、アルマとテレーゼが不出の魔術の効果を受けた際にもっと試行錯誤があっても良かったんじゃないかと思う。もしかしたら既に敵に察知されている恐れがあることからエリファスが警戒して最小限のテストに留めたのかもしれないけれど、アルマを伴わずにテレーゼだけで門に近づいたらどうなるかとか、方角や時間や被験者の意識状態等の要素を含めた各近づき方なんかを考えずに、不出の魔術の使い手を捜して〈石のパン〉の影響下に入れ不出の魔術の無効化を優先させるという結論を出すのは傍から見ていると短絡的なのね。どんな作品でもそういう手落ちっていうのはあるんだけれど、何らかのフォローはして欲しいと思ってしまう。

さすがに情報が少なすぎるので、これは評判聞いてからかな。サントラとマキシシングルの特典は欲しい気がするけど、それでも突撃するまでにはいかない。体験版とはいえ、数時間付き合ったわけだから何かないかと言われても……体感的には面白くないですと言ってしまっていいのか?製品版で化けるかもしれないよ、と予防線を貼りつつ……
所謂日常シーン部分は『のーぶる☆わーくす』ってもしかして面白かったんじゃなかろうか、などと思わせるものです。キャラクターの声はエロゲーのメインストリームから悪くない意味で外れていて印象的だったけれど、台詞読みのスピードがすごくゆっくりだったり、読点でいかにも台詞読んでます的な切れ方をするのが気になるところだった。オーガストのゲームでもあるような演技っぽさ。
これも主人公は正規の学生ではなく、軍人の潜入工作として学生になりすましているというものだけれど、その辺のネタをあまり使ってなかったから大人しいだけの会話文になってしまったのではなかろうか。潜入が上手く行えているということなんだろうけれど馴染みすぎです。所々では周囲にはバレない程度に軍人らしさが出しながらもギャグにまで発展させない控えめっぷりを発揮。一方で学生に馴染めなくてテンパってしまうんだけれど、軍での禁欲的な生活が長かったのか、一度箍が外れると子供のように熱中してしまう棗はテンプレ以上にダメな軍人で人気は出た模様。彼女が人気が出るのも当然で、それは他のキャラクターのカラーがわからなさすぎるからだ。メイは不思議ちゃん、すぐりは友人のような元気っ子、コハルは全然わからん状態で、テンプレの域を出ていない及び未詳。メイもすぐりも転入してきた主人公と棗を随分気にかけて面倒を見てくれるすごく良い子なんだけれど、各人物の個別の人格から自覚的にそういう行動を取ったというよりも、脚本に書かれているからそうなっているような予定調和的な不自然さが感じ取れる。もうちょっと動機が欲しいと思ってしまうんだろうな。メイはわからないけれどもすぐりは主人公に対して動機があるようにも思えるが、棗にも手をさしのべている様子からすると元々本人が持つ性質がそうさせているようである。なんだろうなー(ここまで書いておいて何だけど結論は出てない)……良い人たちすぎてちょっと引いちゃってるのかもしれない。キャラクターに対する好感度としてはだから、棗>メイ=すぐり≧コハルになるのは殆ど明白なことなのでは。見た目ではコハルが一番だと思うんだけれど、前述の通りあまりにも出番が少ない。そしてやはりテンパリ少女に我々は惹かれてしまう。割と表情多彩であるが、最初は潜入に緊張していたのか人付き合いが苦手なような大人しさを見せ、主人公とメイとすぐりに触れ合う中で子供のような素顔を見せてくれる棗はぼくも好ましく思う。問題は「このゲームの中で」という制限を課すれば棗が可愛いと断言可能だけれど、例えば『のーぶる☆わーくす』と比して尚それが言えるかと問われると口を閉ざすしかなくなる。
しかし救いは単体キャラクターよりも気になる陰謀や謎の存在だ。そちらに意識を移して自分を偽っているんじゃねーの?と言われれば……ごめんなさいするしかないんだけれど、これがもしかしたら本当に面白くなるかもしれないという意味で期待。寧ろここに期待するしかない。残念ながら体験版ではどこまで希望を見ていいのか足がかりになるようなものはなかったが、それでも残された光はここにある。
物語の流れは主人公が別命あるまで学院に潜入せよとの命を賜る場面から開始し、順調に周囲に馴染み一ヶ月程が経過する。しかし冷戦時代のドイツや今の朝鮮半島のように日本を二分(所謂歴史改変[alternate history]モノです)する片側の勢力の過激派により主人公が留まり、学院の人々と軍内では得られなかった友情を育んだ街は破壊され、彼自身も市街地に対する攻撃により命を落とす。意識を失う前に見たのは、炎上する街の瓦礫の中にあっても涼しげな顔をする自分と瓜二つの人間だった。しばしの幕間を挟んで主人公の意識は戻る。そこではまたゲームスタート時と同じ状況を体験するが、主人公はあの凄惨な情景を覚えている。メイと出会ったところで主人公は、主観的には再会を果たしたこの少女たちとの生活を、記憶にあるような形で終わらせないことを決意する……というもの。幕間でループは人為的なものだと仄めかされている点にプレイヤーは興味を持つだろう。実際にウェブでの評判も「名作になるかもしれない」としたものが多い。なんか必死に体験版のつまらなさを誤魔化している自分と重ねて視えてしまうのは穿ちすぎか。
人為的にループ状現象が発生させられている設定に魅力を感じるのは本当で、つまりそれは『涼宮ハルヒの憂鬱』の「エンドレスエイト」や『CROSS†CHANNEL』、ウェルズ「奇蹟を起した男」のように原理が説明不能な超自然現象ではなく手段が存在するということでSFマインドを刺激される。ループしているように見せている手法として一番現実的なのは、舞台の守乃と同じような劇場を用意して人物もクローンを配置したというものだが、これは早々にバレる可能性が高いので却下。短サイクルでループ回数も少なければこれも可能だが、一ヶ月程の長さが必要になると気象環境を再現した環境を用意しなくてはならなくなる。気象条件とループ回数を考慮して様々な場所に守乃の再現ステージを用意すれば可能だが、動植物の侵入や気候状況など地域差から生じる諸々の情報により被験者に察知される恐れもあり、それ考慮すると物理的にある程度閉じた場所を用意しなくてはならなくなるが、そこまでの特殊且つ大型の施設を建設するような世界観にも思えない。あとはメタ宇宙などが考えられるし、実際にプログラマブルなメタ宇宙が生成/操作できなくても主人公の脳さえ弄ってしまえばその中で全てが事足りる。最後の案は『ユービック』や『マトリックス』っぽいが、これなら他の人物も主人公と同じレベル(愛する対象がAIでも構わないと思うけどね)で実在が可能なので現実味がありそうな気がする。あ、ちなみにコハルが視ていたのは予測シミュレーションね(これも予想だけど)。てなわけで、もしかしたら面白いSF的展開があるのではないかと期待する部分もあります。
ところで主観的な意味に於ける実在のコピーが存在するにせよ、メタ宇宙で世界が繰り返されているにせよ、主人公や周りの全ての人物という現象自体は死しても再現される。ループものに於ける目的は大抵はループから脱することだけれど、ここで意識され難いのは被ループ対象は再現性があるから一定区間内で死を体験しても、また特定期間が来れば再現が確定している不死の存在なんだよね。そういう場合では、果たしてループから脱するのは幸せか否かという問題にぼくはいつも直面するんだけれどこの問題は大抵の物語で無視される。永遠に繰り返す夏休みとかマジ羨ましいし!『鋼の錬金術師』で人間は生まれた時のままの身体が最も自然なもので最良だとされるイメージがあったが、そのように感覚的な自然を尊重する理由がぼくはわからない。(嫌いな作家だけれど、)こういうイメージに対して否を唱えた山本弘「地球から来た男」はその自然崇拝に対するアンチテーゼとして評価できるでしょう。本作も落としどころはどうなるかわからないけれど、納得できるかどうかもまた大きな問題だ。本来は不可能な個人の拡張というこの問題をエロゲに持ち込んで、しかもそれを解決できたら嬉しいことこの上ないのだが。

ゆずソフトのゲームは久々にプレイしたなあ。体験版だけど。実に『E×E』以来となる。過去のゲームになるが『夏空カナタ』などは設定が気になるのでこちらの体験版も近いうちにやって、良さそうなら買いたいところだ。『天神乱漫 LUCKY or UNLUCKY!?』は……気力体力その他諸々余裕がある時にでも。
本作に関してはエロスケのトップページ等の多くのサイトでバナーが貼ってあって事前に公式サイトは訪れており、発売一ヶ月前というかなり緊張したスケジュールの中に公開された体験版で期待していたのだけどダメだった。自分の嗜好に著しく合っていないとまでは言わないけれど、どうしても不条理・不合理に思えてしまう部分が多い。貧乏学生が金持ち学生に瓜二つだから突然レクチャーも資料もなしにデコイを演じるというところで既に受け付けない。いや受け付けられないところはを挙げるとゲーム開始後一分もせずに主人公が街中で空に吠えるところでもうダメなんだが。こういうトコロに整合性を求めないのが最近人気のアニメやラノベの風潮だとは思っているんだけれど、馴染めないな。仮に影武者として潜入するならそうだね……ジェス・ウェドンの『ドールハウス』みたいなのでやれば個人的には面白いと思う。記憶や人格をオーバーライドしたり、あとは神経インプラントで最低限必要な知識を得て臨機応変に場面に対応するとか。で、ヒロインと仲良くなったのに最後は記憶消去されちゃったり、影武者から本物の方に記憶転移(コピペじゃなくてカット・アンド・ペースト)されちゃうんだけれど、あくまで自分の行動の結果が残るから一時的且つ主観的には悲しいけれど、最初から予想していたことではあったし過去時間に於ける自分の行動は本物に継続されるから本物の朱里もまた俺であり、拡張された匠という存在が消えるわけではない……とかそういうお話だったら良かったんじゃないかな。誰にも共感してもらえそうにないけれどね!まあ、どこそこがおかしいというくらいなら簡単に言えるのでこのくらいはスルーして楽しいところだけを抽出できるのがおそらくは正しいエロゲーマーのスキルなんでしょう。敢えて非整合性をライターが書くのは……んー、どういう理由かはわかりかねるが。
キャラクターの見せ方としても少しパンチが弱いか。クールな外見や学年主席という肩書き、初めての邂逅に際しては悪に毅然と立ち向かう気丈さを持ちつつも、方言テンパリストとして愛でたくなる麻夜はそれなりだとしても、後はひなたの善性に少し当てられたくらい。特にメインを張ってる明里が体験版の時点ではテンプレキャラなのが残念に思える。行く末に不安がない彼女たちだから先の展開を知りたくなるようなこともないんだよね。
他にはセレビィ量産型のSDイラストが『グリザイアの果実』に比べて良かったくらいしか特筆すべきことはない。
次は「はろー★わーくすバナーキャンペーン」繋がりでLymp of Sugarの『Hello,good-bye』の体験版もやってみようと思う。これは……たまれんみたいなモンか?親会社が一緒とか?
前号に引き続き「創刊50周年記念特大号」のPART・Ⅱで日本SF篇でかなりボリューミー。日本人作家は海外作家よりも知らない人が多いので、カタログ的な読み方も出来た。既に読んだことがあって気に入っている作家は神林長平と上田早夕里。堀晃がいないのが残念です。既に読んだことがあって気に入っていない作家は……これは触れなくていいか。単品コメントでは触れてしまっているかもしれないけれど。日本人の作家は円城塔は別として「わけがわからない……」状態にならないので一応全てそれなりに楽しめるところが良い。好き嫌いは別の話になってしまうけれどね。ともかく、わけわかめな状況に陥らない安心感がある。
●p4 第21回「SFマガジン読者賞」発表
――内約
海外部門:
一位 パオロ・バチガルピ「フルーテッド・ガールズ」(中原尚哉訳)二月号掲載
二位 グレッグ・イーガン「暗黒整数」(山岸真訳)三月号掲載
三位 バリントン・J・ベイリー「蟹は試してみなきゃいけない」(中村融訳)五月号掲載
四位 チャイナ・ミエヴィル「鏡」(田中一江訳)八月号掲載
五位 アンドレイ・サロマトフ「祝宴」(宮風耕治訳)十月号掲載
国内部門:
一位 新城カズマ「雨ふりマージ」十月号掲載
二位 山本弘「地球移動作戦」連載第七回~最終回(九月号)
三位 伊藤計劃「屍者の帝国」七月号
四位 谷甲州「星魂転生」十月号掲載
五位 樺山三英「小惑星物語」二月号掲載
イラストレーター部門
一位 田中光
二位 シライシユウコ
三位 鷲尾直広
四位 尾関裕隆 / スカイエマ
海外部門ではバチガルピが一位。なるほど、先月号の「第六ポンプ」も面白かったし、伊達じゃないってことでしょう。邦訳本の刊行が待たれるところ。イーガンとミエヴィルは上位に食い込むのが当たり前の作家なので、特に驚きはないですが、五位を受賞したアンドレイ・サロマトフという名前は初めて聞きました。日本語では殆ど情報がないのですが、どうやらロシアのお人らしく。邦訳刊行は期待できずとも、せめて英語に翻訳された本があればなぁと思います。そんなに読みたきゃロシア語なり何なり勉強しろってハナシですが。
●p10 飛浩隆「零號琴」(連載第一回)
紹介文:
都市をまるごと覆う巨大楽器の秘密とは?――超特大総天然色活劇、新連載開始!
導入なのに既に面白い件。異種知性体が残したオーバーテクノロジーの類を扱ってこれからどんなことが起きるのか期待。どことなく漂うオリエンタルな雰囲気もツボを突いている。
作家詳細:
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p34 山田正紀「フェイス・ゼロ」
紹介文:
人形浄瑠璃の人間国宝が夢見た究極の表情とは? そしてそれが実現したとき……。
人形浄瑠璃とロボット工学と表情に対する認知を主題にした作品。単純に昔の言葉って格好良いよな。「根ざしはかくと知られけり」とか。
SFとしても一応通用するけど、主な内容としては怪奇小説とかサイコサスペンスとしたいところ。ガジェットの〈フェイス・ゼロ〉はまさにホラー小説のガジェットが与える恐怖であり、SF的面白みがあまりない。
作家詳細:
【山田正紀 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E6%AD%A3%E7%B4%80)】
●p52 椎名誠「問題食堂」
紹介文:
定食屋「いたみや」の常連であるおれの前にそいつは身の程知らずにも現れたのだ!
これはないわー。基本となるシチュエーションを、背景を変えて何度も上演するという作品だが、どうにも面白さがわからん。要するに、【ラヴクラフト風味の『侵略!イカ娘』文章記述 :Syu's quiz blog (http://www.syu-ta.com/blog/2010/11/12/222011.shtml)】みたいなネタ系だとは思うんだけれど、冗長かつ興味が沸かない。
作家詳細:
【椎名誠 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8E%E5%90%8D%E8%AA%A0)】
●p70 瀬名秀明「ロボ」
紹介文:
ぼくはウィニペグに向かった。自然史家となった、かつてのロボット画文家に話を聞くために
『パラサイト・イヴ』の作者で、日経サイエンスでも呼ばれていたりしているお人。初めて読む。良い。
作家詳細:
【瀬名秀明 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E5%90%8D%E7%A7%80%E6%98%8E)】
●p90 上田早夕里「マグネフィオ」
紹介文:
昏睡状態の夫の内面を知るために、妻の取った選択とは――。
上田早夕里は『魚舟・獣舟』が面白かったので安心できる作家。今回もそれなりに愉しませてくれたが……うーん。
人工神経細胞を利用した生体チップをアタマに埋め込んで、感覚記憶を特定のトリガーにより再現させる。そんなことをしなくても普通に記憶を再現することは可能だが、その感覚強化はより精密にその感覚を蘇らせることができる。こういうガジェットは好きだが、それは未来のこととして話に出るだけで、実際は劇中では用いられない。個人的な好みの話ではあるが、感覚を再現させた人物が、それが現実の感覚であるか人工の記憶であるか判別不能になるわけだから、作中の視点をめちゃくちゃにしてわけわかんないようにして欲しかった。認知感覚を弄くるのを内面から書かないなんて勿体ない。外面から弄ればホラーにはなるんだけどね。
作家詳細:
【上田早夕里 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E6%97%A9%E5%A4%95%E9%87%8C)】
●p116 谷甲州「航空宇宙軍史 ザナドゥ高地」
紹介文:
男はタイタンのザナドゥ高地を再訪する――航空宇宙軍史、十五年ぶりの新作登場
長い劇の一つの段落として見たら十分に読めたし愉しませてもらったけれど、《航空宇宙軍史》シリーズを読んだことがないので何とも。ちょっとだけ《雪風》っぽい。未読者に長編シリーズに取りかからせるにはもうワンパンチ足りないかと。
作家詳細:
【谷甲州 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E7%94%B2%E5%B7%9E)】
●p136 牧野修「小指の思い出」
紹介文:
そこは老人だけの島。朦朧とした記憶をたよりに、妄執に駆られた男が一人訪れる。
老人モノ。このジャンル誰得だよ。
現代日本が抱える高齢化問題やらそれに伴う年金問題とかをもっと扱ってもらっても良かったような気がするけれど、あくまで内容は一人の男の復讐譚。
作家詳細:
【牧野修 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A7%E9%87%8E%E4%BF%AE)】
●p174 Media Showcase ANIMATION
小林治が“固定イメージを打ち砕いてくれる2本”として『あにゃまる探偵キルミンずぅ』と『聖剣の刀鍛冶』を紹介。どんな固定イメージだ。
●p177 SF BOOK SCOPE
香月祥宏の紹介する川端裕人『算数宇宙の冒険 アリスメトリック!』は誉めていいのか。“作者が最新の理論を理解した上で、さらなる飛躍や解釈を加えるタイプの作品とは違い、わからないところはわからないまま、想像力を駆使して、数学への憧れのようなものも含めて小説家しているところがおもしろい”って、単純なリサーチ・知識不足で書かれたってことじゃないか。
卯月鮎の紹介ではブックオフの105円棚にあっても避けていた『シュガーダーク 埋められた闇と少女』は読みたくなってきた。今度見つけたら、という程度のプライオリティではあるが。墓を掘る仕事をしていたらいつの間にか墓穴に怪物の屍体が入ってました、なんてどうしても気になっちゃうじゃないか。
あとはタニグチリウイチが紹介している瀬尾つかさ『円環のパラダイム』はそのうち読もうと思っていたし、三村美衣が紹介する『ラウィーニア』はアーシェラ・K・ル=グウィンなので言われなくとも勝手に読むであろう作品。
牧眞司が紹介している純文学系の小説『エクスタシーの湖』は気になるところ。手法のごった煮感に振り回されてみたい。
ノンフィクション系では森山和道が紹介する石黒浩『ロボットとは何か 人の心を映す鏡』がベタながら気になる。わざわざ読むまではないと思うけれど、感じるところはあった。これはロボット研究を通して人間について改めて考えたことを記したものらしい。認知科学的に人間を研究する分野とロボット研究は相互作用し合うものなんだと思う。例えばデネットの『解明される意識』で載っていたシェーキーとかね。AIまでいかなくても、特定の人間の認識能力、つまり視ることだとか聞くことなんかをロボットの入力としてシミュレーションしようとすると、当然人間が普段自然にこなしている認識というものはいったいどういう仕組みなのかということを考え出す。引用の引用になりそうだけれど、このレビューでは“著者によれば、人間に心があるかどうかはわからないが、人間は互いに相手に心があると信じて振る舞っており、それによって社会が生まれ、また社会によって自己が生まれているのだということになる。人は全ての能力を機会に置き換えたあとに何が残るのかを見ようとしており、そんなことをし続けてきた「人間」とはどういうものか理解するために格好の存在、それが「ロボット」なのだという”とあり、なかなか納得できるところ。ホフスタッターやデネットとはまた違ったアプローチが見えるならば読んでみたくはある。
●p188 Media Showcase
宮昌太朗の紹介でアトラスの『ユグドラ・ユニゾン』が載っている。おもしろいSRPGという紹介だけど、この時期にSRPGの紹介としてこんなものを読んでも白けるだけ。何たって『タクティクスオウガ 運命の輪』がこの前発売されましたからね!現在ぼくが所持しているゲーム機はDCと360なので、『TO』をプレイするにはPSPを購入しなくてはならないのだけど、値段を調べてみると最安値で買えば『TO』と合わせても二万円するかしないか程度。更に言うとPSPを型落ち中古に妥協すれば、もっと安くなる。今はゲームに時間を割く余裕が殆どなく、エロゲも溜まっているし、次から次にやらなければいけないものが出てくるから、買っても出来なさそうなので購入は控えたが、『TO』以上にPSPを買わせるゲームが今後出てこないだろうとも思ってます。『TO』絶対にやりたいので、来年中には買うかなあという感じ。エロゲーマー的性質としては何か良さ気な初回/予約特典が付いてくれば即買いだったんだけど、タロットカードとか誰得だ。サントラとかラフ集みたいなもっと魅力的なものをさァ……いつの間にか『TO』の話になってしまった。
●p190 神林長平「確かな自己、固定・変換・解放」
紹介文:
とある惑星で発掘された〈国家〉と呼ばれる人工物。そこに隠された真実とは?
今回のSFマガジンで一番楽しみにしていた作品。やっぱり面白かった。グヘヘ。神林長平は日本人SF作家では一番好きです。ガッツリしたハードSFっぷりが楽しめる。
作家詳細:
【神林長平 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%9E%97%E9%95%B7%E5%B9%B3)】
●p212 林讓治「古の軛」
紹介文:
彼はなぜ、ストリンガーの死体を食べたのか!?
タイトルが伝奇っぽくて良いですね。ありすはちの首木を、なんてフレーズも『Omegaの視界』にあることだし。内容は科学用語を使わないで異種知性体との交流を画く良質な短編だった。シリーズものだけど、これだけ読んでも全く問題なかったし、この作家の他の作品は読んでおきたいと思った。
他の個体と思考内容のベースが著しく異なると、同期を取った際に軋轢が起きて死んでしまうストリンガー。まるで同期する容量が大きいと、同期先ハードが破損してしまうバグがあるバックアップソフトウェアのようです。この設定は作中で語られない部分も妄想させてくれる。彼らを作り出したイースがどうしてこのような制限機能を態々付加したかというと、おそらくは被造物たる彼らがその在り方に疑問を持った個体の思考が広まって半旗を翻したり、そうでなくともニート的な個体の思考が伝播して全体の仕事量が減ったり、とにかくコントロール不能な状態になることを抑える為だろう。状態を変化させないことを義務付けられた生命体だったわけだ。本気で考えると、その思考内容をどうやってパラメーター化して、生死判別する生化学反応になるのかとか謎だけど。新しい知識を得た後の個体のニューロン状態なんかがコンフリクト要因なら、新しい知識は母集団に全く入力されずに外界に適合できない生命体というわけだし。既存の記憶に新しいものを付け加える形ではなく、消去や上書きが多くなるとエラーが出ると考えるとなんとかなるだろうか。このへんは認知脳科学の知識がないと話が進められなさそう。
それとグラースの獲得した認識は他の個体に感覚器を通して伝えられると、受信側個体は死んでしまうけれど、母集団の各々にストリンガーの感覚器を用いた伝達方法以外で、その認識に至る事実を伝えたら問題なくミームは伝播するんじゃねーのとか無粋なことを考えたり。
亜門は、最終的にグラースがストリンガー母体に対して毒性を持ち、ストリンガーの認識からすると非ストリンガーたるものに変化した故に、彼は種族の軛から解放されたと言った。その種族であれば生きながらに知り得なかったことを知ったし、不変であるという造物主の命令をいつの間にか無効化していたわけだから。そしてわれわれ人間よりも自由だったと言っている。まあドーキンスあたりをご参照下さいという感じだけれど、人間も生存と繁殖の本能という命令が組み込まれた存在で、それに抗うことは難しい。特に極限状態などに於いてはそうだと思うのね。餓死しそうな人間が目の前に松屋の豚丼とかケンタッキーのチキンとかを置かれたら宗教上の理由とか関係なしにかっ食らうのではなかろうか(例:『そらのおとしものf』第七話アバンのアストレア)。生存せよという命令は理性によってのみ覆せる。ぼくは多分世間一般の人よりも生存したいという欲求が強い。なんたって、SFを読んでるからね。それとは別に、死という現象を体験することに対しても興味がある。それはいったいどのような感覚を伴う体験なのかは、死ぬ者にしかわからない。死というものに惹かれて種の継承を危うくするような表現形の遺伝を妨げる為に、自殺という選択肢が元来生命に宿っているならばともかく、そうでなければ自殺は本能の生存せよという命令を超えた知性に由来する行動であるのではなかろうか。亜門は一度、自らも死のうとしたが、衰弱死という難しい死に方を選んだせいで失敗してしまった。そこで自分もまた、軛を課せられていると感じた。だが彼はまた別の機会に死ぬことができる。軛は全ての生命に課せられているが、知性体であればそれを外すこともできるだろう。アストレアみたいにね。アストレア好きだなあ、オレ。
まあ自己が自己である故に背負わされている軛や、それから解放される自由というレイヤーで自由/不自由ということを考えると、そもそも我々に意識があったり実体があったりする状態、つまり存在している段階で既に一定の不自由さに縛られてしまう筈だ。これは『エヴァンゲリオン』の最終回を思い出しますなあ。
作家詳細:
【林讓治とは - はてなキーワード (http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%D3%EC%AA%BC%A3)】
●p234 梶尾真治《怨讐星域》第十三話「減速の蹉跌」
紹介文:
宇宙船を減速する手段が失われ、ノアズ・アーク計画は瓦解しかかっていた。
止まれなくなっちゃった宇宙船といえばポール・アンダースンの『タウ・ゼロ』。その中で不安を感じながら暮らす人々は少年少女たちではないけれど、『無限のリヴァイアス』のような空気を感じた。まあ内容はTwitterの140文字でなくとも要約できるくらいなので特に何か感じるところのある作品というわけではないし、むしろ突っ込みどころが多い。ご都合主義すぎやしないだろうか。《怨讐星域》っていうタイトルは格好いいなあとか思いました。
作家詳細:
【梶尾真治 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%B6%E5%B0%BE%E7%9C%9F%E6%B2%BB)】
●p254 新城カズマ《あたらしいもの》第2話「議論の余地はございましょうが」
紹介文:
夏の参議院選挙に立候補した田楽政樹候補。しかし、その街頭演説の背後では?
Twitterやらセカイカメラやらベーシック・インカムやらのキーワードに加えて、文章自体も今時の流行ものという感じ。好きじゃないです。そっちが書きたいなら社会派小説でもどうぞ、という感じ。ライトノベル畑の作家らしく、紹介文では『15×24』という作品が紹介されているが、ぼくは集英社スーパーダッシュ文庫は核地雷級の駄作しか読んだことがないので信用ならんレーベルという印象しか。
作家詳細:
【新城カズマ - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%9F%8E%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%83%9E)】
●p272 北野勇作「路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日」
紹介文:
私は路面電車でこの街に帰ってきた。王宮と温泉で知られる懐かしいこの街に。
“王は、王宮のあらゆる点に遍在しているのだ”。かっけぇ……巫山戯たタイトルとは裏腹にかなり気に入った。端的に場面や情報を切り取った文章もいいし、全体に漂う幻想的な雰囲気も素晴らしい。レイルソフトというか希テキストというか、イメージとしてはそんな感じ。他の著作も読んでみたい。
作家詳細:
【北野勇作 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E9%87%8E%E5%8B%87%E4%BD%9C)】
●p286 小林泰三「囚人の両刀論法」
紹介文:
古典的命題「囚人のジレンマ」の、究極的解決法とは?
ヤスミンは短編集を三冊読んだけれど、未だに実力が図りかねる作家。内容がよく理解できないとか、そういうわかりにくさではない。読んだ直後は面白いと思うんだけれど、冷静に思い返すと特に好きなものはなかったりして、どのあたりに評価すればいいのか迷ってしまうということで。いや、今回の「囚人の両刀論法」は面白かったですよ。だからまた困惑させられているんだけれど。
触発されてブルーバックスで刊行されているM・D・デービスの『ゲームの理論入門』を買ってしまった。〈囚人のジレンマ〉を拡張した問題は昨今話題のフリーミアムの問題にも関連するような気がしました。
ところでイデアルとペンドラゴンの会話なんだけれど……
「これは?」ペンドラゴンは尋ねた。
「リングだ。この段階ではニーヴンのリングと言ってもいい」
「リングワールドは力学的に不安定だ」
……って、こいつらSF者だろ。
作家詳細:
【小林泰三 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%B3%B0%E4%B8%89)】
●p312 田中啓文「カッパの王」
紹介文:
正彦がカッパを目撃した日から、周囲ではさまざまな超常現象が起きて――
うわ、すげーバカSFだ。『時間衝突』なんかを「バカっぷりが面白い」と言われてもよくわからないけれど、これはワロス。かっぱ寿司関係ないだろwww……と、ついつい「ワロス」とか草を使ってしまう程に愉快。全然行く機会がないけれど、かっぱ寿司に行ったらこれを思い出してにやついてしまうだろう。色々と無茶があるけれど、たまにはこういうのも悪くない。
作家詳細:
【田中啓文 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E5%95%93%E6%96%87)】
●p331 SENSE OF REALITY - PSYCHOLOGY 香山リカ「突然“キレる”子どもたち」
流石にこれには反駁しなくてはならない。我々人類は香山リカが(本気か建前かは兎も角として)夢想している程には平和的で余裕のある存在ではない。小学生の方が喧嘩をするし、大人と子供よりも子供同士でやり合う方が多いに決まっている。喧嘩をしてしまうのは幼児性から起因する万能感でも何でもない。交渉が決裂したからぶん殴るしか解決方法がなかっただけ。それは政治と同じでシステムの問題だ。それを心理の問題として「等身大の自分」とか、わけのわからない点に着地させる信仰のようなものこそが、ぼくに言わせれば害悪だ。心理の問題なら暴力行為を行うと頭痛が生まれる(ナンシー・クレスの《プロバビリティ》シリーズの〈共有現実〉みたいな)ようなロボトミーでも全人類に施せばよかろう。喧嘩してしまうのは先ず、片方がもう一方のルールを侵してしまうことからはじまる。そこで交渉が始まるが、どちらも譲れないラインがあるから手を上げる。我々が大人となって社会を形成し、個人なり組織なりで暴力行為に及ばないのは、ペナルティとリスクがあるからに過ぎない。多くの場合、子供には大したペナルティもないし、リスク計算もする必要がないし、監視する大人も大してよく見てないし、制裁も適当。そんな状況で個人が必要を感じた暴力が抑制できるとは思わない方が良い。非暴力の信仰は暴力で暴力を抑える現実よりも悲惨なものを呼び込みかねないからだ。
●p362 冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
紹介文:
メトセラ第一世代を妊娠した我が嫁は、プラスチックの夢を見るように――
子供が三百歳程度の寿命になるからって心配しすぎじゃねぇの?とは思うが、親というのはそういうものか。悪い意味じゃなくて寧ろ良い意味でね。この生まれてくる子供たちは三百歳の寿命があっても、それすら短いと思うようになるんだろうな。それが人間ってモンです。
作家詳細:
【冲方丁 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B2%E6%96%B9%E4%B8%81)】
●p374 小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
紹介文:
小国の王子アリスマは醜悪で身体も弱かったが、恐るべき算術の才があった。
短編集『老ヴォールの惑星』がいまいち馴染めなかったので、あんまり積極的に読もうとは思わない作家。とは言えつまらないとかわからないとか、そういうのではなく優先順位が低いだけ。この人の作品は軽口というか、悪く言えば底が浅い。これは文系が書いた理系への憧れが込められているような内容だったな(小川一水が文系か理系かどうかは知らないし、実際に勉強すりゃ関係ないんだけれど、あくまで感覚としての話)。だから数理SFというジャンルには入らない。
読みながら従者の正体はホエバトティホルの化身かとも思っていたがどうにも違う様子。明確には語られないけれど、“それの精”とあるからラッカーの「ピュタゴラスの平方根」(〈S-Fマガジン〉二〇〇二年七月号に収録)に出てくるアペイロンの生物のようなものなのだろう。
作家詳細:
【小川一水 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B7%9D%E4%B8%80%E6%B0%B4)】
●p394 円城塔「エデン逆行」
紹介文:
わたしには祖母が六人ある。わたしが祖母その人なのでそうなっている――。
キィィ!わからん。日本語でOK状態であるが、これは楽しめなきゃ負けな気がしないでもないし。どなたか解説やらヒントをお願い致しますよ。最後に書かれている『シェルピンスキー=マズルキーウィチ辞典』たる万能辞書の説明はボルヘスの〈バベルの図書館〉っぽくもあり、且つそれをデジタル情報として収蔵されたもののようにも思えるが、だからと言って答が出るようなものでもない。しかしわからないながらも、つまらなさを感じさせないのは流石だ。これが短篇じゃなかったらちょっと怖いけれど。
作家詳細:
【円城塔 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E5%9F%8E%E5%A1%94)】
●p406 山本弘「地球から来た男」
紹介文:
その密航者は、いまどき抗老化処置も受けていない非近代的な男だった。
山本弘は大評判の『アイの物語』が甚だしく受容できない内容だったので信頼感がない。むしろ「もう二度と読むことはないだろう」の域にある作家……ですが一応読んでおきますか。
『アイの物語』に収録されていたどんなものよりもマシだった。古臭さは相変わらず。肉体改造やARに対するキッチュとも言えそうなパルプSF的な楽観描写が好みじゃない。基本的に「善いお話」を書く作家なんだろうし、今回もそうであった。それが悪いように作用して不快感しかなかった『アイの物語』と比べて、こちらは自然信仰が技術による個人の権利を抑制することに対するプロパガンダ小説的なもので、どちらかと言えば好ましい。自分で読んでも何とも思わないけれど。
作家詳細:
【山本弘 (作家) - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%BC%98_(%E4%BD%9C%E5%AE%B6))】
●p429 創刊50周年記念エッセイ 新井素子「SFマガジンと私」
新井素子の本を読んだことはないが、この前何かが復刊したということで復刊ドットコムから紹介のメールが届いていた。このエッセイを読んでもともと高くなかった優先順位がさらに落ちた。ぼくも人のコトを言えないくらい読点を用いるが、この人の頻度は並じゃねえ。一ページのエッセイなのに読んでいて辛い。
●p430 森岡浩之「気まぐれな宇宙にて」
紹介文:
「ポジション」の発見は人類に新たな宇宙時代をもたらした。ただしちょっと歪な。
うわ、面白いな森岡浩之!《星界》シリーズ読もう……
ランダム性のあるワープゲートでギブスンの「辺境」を思い出しました。ワープゲート自体はよくあるアイデアだけれど、ランダム性があってどこに行くのかわからないし何が出てくるかもわからないっていう方が愉快。異種知性体の素っ気ない態度も面白い。お前らの未発達な文明には興味ないから、みたいな。でも中にはヒッチハイクさせてくれる種族もいたり。
作家詳細:
【森岡浩之 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E5%B2%A1%E6%B5%A9%E4%B9%8B)】
●p448 菅浩江「夢」
紹介文:
SFが好きな僕はよく言われる。「夢を見ろ」あるいは「夢ばかり見るな」と。
ぼくもSFが好きだ。そして世界が早くSFになればいいと思う。
内容はカイパーベルトで発見された二酸化炭素レーザーのパターンを見つけ出すサヴァンの話。そういえばぼくが通っていた小学校には障害者学級というものがあった。ぼくらの普通の学級とは授業内容も教室も違ったんだけれど、ごく稀に同じ部屋で給食を食べさせられたりしたんだが迷惑この上なかったことを覚えている。子供の頃は特にそう思うものだ。ぼくの年齢でも障害者を嫌う人はいるし、確かに涎をかけられたりするのは嫌だし、彼らの会話に付き合うのは難しいけれど、基本的に彼らが悪いわけではないからぼくは無駄な差別はしない。あるのは区別と同情だけだ。脳の物理的な機能障害でしかないとわかっているから不当に虐げることはしない。同情するなんてひどいと思われるかもしれないから一応書いておくけれど、そう言う人は同情という言葉の悪い側面に捕らえられているんだろうな。あくまでぼくは、ぼくら大勢とわかり合えない人は寂しいと思うし、不便も多いだろうという事実から同情しているだけ。例えば世界で一番普及している英語という言語を扱うことのできない人を英語話者が同情するのはある面で正しいとぼくは思っている。そういうこと。今回の話に登場するサヴァンたちも、その特異な能力を持ちつつも社会適応できた方が大抵の場合は幸せだろうし。
作家詳細:
【菅浩江 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E6%B5%A9%E6%B1%9F)】
●p474 野尻抱介「コンビニエンスなピアピア動画」
紹介文:
プロジェクトは地方のコンビニから始まった――星雲賞受賞短篇の姉妹篇登場
クモとニコ動とファミマSF。ニコ厨は楽しめるのか?ぼくはニコ動を見ないので何とも。2ch、ふたば、はてな、ニコ動……色々なところには色々な空気(ノリ)があるが、その中で馴染めてないものの一つがニコ動。そのノリを小説に多いに鏤められているわけじゃないけれど……わかるでしょう?
ご都合主義進化した節足動物を宇宙に射出したら大抵思い通りに動いてくれないのがテンプレだ。それをどう使うかは別問題で。
作家詳細:
【野尻抱介 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%B0%BB%E6%8A%B1%E4%BB%8B)】
●p531 今月の執筆者紹介
金子隆一はエッセイもおもしろかったけど、このコメントも面白いな―。以下引用
出張で十日ほど家を空けていた間に空き巣に入られた。賊はネコの出入口から浸入し、キャットフードを平らげた上、机の上にあったカンロ飴の包み紙を全部むいて食いやがった。くそっ、アライグマめ
以上。トリの野尻抱介を食ったぞ!
- <S-Fマガジン>二〇一〇年四月号
- ねこねこソフト『White ~blanche comme la lune~』体験版
- <S-Fマガジン>二〇一〇年三月号
- ホエール『俺の彼女はヒトでなし』体験版
- RococoWorks『ヴァニタスの羊』体験版(脱出編)
- Lump of Sugar『Hello,good-bye』体験版
- ゆずソフト『のーぶる☆わーくす』体験版
- <S-Fマガジン>二〇一〇年二月号
2010年12月26日日曜日
<S-Fマガジン>二〇一〇年四月号
三月号とは何だったのかというくらいに力強い作品が多い今号でした。ミエヴィルええのぅ。文章が美しいです。ストロスはいつも通りのストロスクオリティだと思った。日本人作家の作品はやはり海外勢よりも物語として――というよりSF的なるものの書き方かな――劣る気がしてならないのですが、現代に生きる日本人の感覚のツボを突いてくるものが多い。今回特に長谷敏司と菅浩江の作品でそう思わされました。
●p9 長谷敏司「allo,toi,toi」
紹介文:
8歳の少女を性的虐待のうえ殺害し、刑務所で終身刑に服す男。その脳裏に響く声とは?
巻頭から三月号涙目クラスの作品が。脳神経ネタを巧く用いつつ、あらゆる人間社会の歪みが描かれているところに注目したい。児童性愛者の着地点はやっぱりソコだよなーという感じで割とどうでもよろしい。ロリコンってレベルじゃねぇし。デッドマンのロリコンはノータッチが信条だけど、こっちは殺害しちゃってるし小児性虐待者(チャイルド・マレスター)でしょ、これは。ロリコンとチャイルド・マレスターは対象がロリっ子なだけで同列に並べるのは無理矢理な気がするけれど、対象になるものが重要なのかな。でもレイプ犯や痴漢やらの性犯罪者と、普通のヘテロは違うということにされているよね。ここにマジョリティの怖さがあるけれど、同列でも別物でもないというバランスの取り方が重要なんだろう。というか、このタイミングでねこねこソフトの『White ~blanche comme la lune~』の体験版をやった自分はクソすぎると思った。そりゃ無垢の世界とか見られないのも無理はない。
メグの親は虐待を繰り返していながらも我が子を殺されたことに怒りを感じるし、囚人たちは凶悪犯罪を犯していながらも性犯罪者を忌み嫌う。他人に対して生きる権利があると思っている人間でも犯罪者は死んでしまえばいいと思う。これらが健全だか正常だからはわからないけれど、普通なことなんだと思う。この普通的相対視点を絶対的普遍性だと誤読すると『デスノート』でLや警察の人々がしたようにキラを悪として、自分たちを正義だとする自己肥大につながる。尤もそういう随時相対化される関係性から離れるとライトみたいになるパターンが多くてだいたい失敗するんだけれど、それでもオレはライトやヒトラーや石原慎太郎が主流の歴史的観点からすれば否定すべき人物像だということは認めつつも、彼らの行いを知る環境が違えば肯定的に捕らえられるということも覚えておくべきだと思っているから、健全/正常が真か偽かという判断は保留にしておきたい。たぶんそういう人間の主観感覚に真偽の正解はないんだろうけれど。保留にしながらも社会の通常状態から逸脱した状態でも当人なりの義が社会的に適宜機能しているのがしっかりと書かれているのは好ましいと思う。
ガジェットはソフトな神経インプラントである〈ITP〉(Image Transfer Protocol)。長篇『あなたのための物語』でも使われているし、それを開発している〈ニューロロジカル〉社も同作品に登場。アンソロジー『ゼロ年代SF傑作選』(ゼロ年代とかタイトルにあると読む気しねぇ)にもITPを題材にした「地には豊饒」が収録されている。今作では特殊用途に改編されたITP=アニマのみが登場。たぶん今までの作品のITPとは違った性質のものなんじゃないかな。一見『宇宙消失』に出てきた死んじゃった奥さん再現AR装置(MOD)。このITP神経構造体〈アニマ〉の本来の目的は児童性愛者に現実の少女よりも報酬が大きいビジョンを提示することにある。エロゲーじゃなイカ!被験者の感覚的な好き嫌いを整理し、ストレスが掛かればそれを緩和させる。つまりほぼ想像しうる限り完璧な少女が語りかけてくれるのだが、限界値が人間の想像力によって定められてしまうのは残念。文章作品だからこそ想像を超えた非人間的な美少女を描いて欲しかったと思うのはぼくがアレなオタクだからってことではないだろう。男性はもちろん、女性だって美少女が好きだと思うのだが。ぼくらの社会の現実的な問題はその対象=少女なり少年なりに実体があり自己意識があることだ。この多様性のある現実世界では、犯してはならない罪を犯す人がいなくなることはない。AIではなく、あくまで被験者の反応から表現形式を生み出す〈アニマ〉だからこそ、逸脱者たちに寄り添って語り合うことが出来るのだろう。やっぱり実体のない非実在ナンタラは重要だよ。
未来技術の展望としての面白さもあった。ITPには神経発火から読み取った思考を文章として文字コミュニケータに送信する機能がある。アニマ以外の普通のITPの機能を考えれば搭載していて然るべき機能だ。つまり考えたことが自動的に文章化されるのだ。ものごとを考えるとき、ぼくらは頭の中で言語を操っている。前言語的思考は意識的に整理できないからだと思う。よく英語話者が初学者に対して「頭の中を英語化する」と言うが、これは正に特定言語による思考を意味するもので、言ってみれば当然のことのように思える。而るにこの思考言語を抽出するということは前思考を機械で制御できるようになる前に実用化はありえるのではないだろうか、などと未来に対する妄想を抱いたりした。
[作家詳細]
【長谷敏司 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E8%B0%B7%E6%95%8F%E5%8F%B8)】
●p48 チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」(日暮雅通訳)
紹介文:
ぼくはきみをさがして、この街を彷徨った。この喪われたロンドンを。
長谷敏司すげぇとか言っていたら、こっちはもっと凄かった。趣味に合っています。
(ノ∀`)アチャー、現象数式実験失敗しちゃったかーとか思わずにいられないこの作品も良い。クトゥルーとスプロールものを融合させた感じで、独白調文体の美しさが光る。ギブスンやスティーヴンスンやマーコリイといったサイバーパンクとその系譜の作家のような、世界の猥雑さと自らの孤独と絶望を感じさせるが、暗澹とした不気味さよりも吹っ切れたような心地良さがある。短篇かくあるべきみたいな物語の運びもツボに入った。
ネットで見た感想で、実際のロンドンの様子を知っていればもっと楽しめたかもというものがあって、色々考えさせられる。今回の中野善夫の連載評論でも未知なる場所との距離はどのくらいあるかという話をしているが、ファンタジイを題材にされるよりもぼくらはライアーソフトの『Forest』に於ける新宿やニトロプラスの『Chaos;Head』に於ける渋谷、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』の秋葉原と『デュラララ!!』(原作未読)の池袋の様子などを考えた方が話が早そう。一応ぼくはこれらの作品で出てきた街はそれなりに地理を把握しているが舞台となる場所を全部が全部知悉しているわけではない(私事ながら池袋は特にわからん。『デュラ』の池袋は他の作品の他の場所に比べて明らかにイメージ先行的でエッジが掛かりすぎているからあまり関係ないかもしれないが)。また、特定の街ではなくとも、首都高全域を舞台にした物語や東西ドイツ国境付近を舞台にした物語だって大量にあるわけだけれど、舞台を知っていなくても問題なく楽しめているものは多い。だからつまり、特定の場所を舞台にしているということが問題なのではなく、全ての問題は文章に委ねられるものだけれど、「ジェイクをさがして」もロンドンの地理がわからずともまったく問題がない作品だと思う。まあ物語の流れとして他人との会話とかよりも、主人公が目にした変容したロンドンの様子を認めた形になっているから言いたいコトはわからなくもないけれど、東京の状況に置き換えても大して変わらないんじゃないかな。
[作家詳細]
【チャイナ・ミエヴィル(China Mieville) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfm/mievil.htm)】
●p64 津原泰水「テルミン嬢」
紹介文:
能動的音楽治療のため脳内に“ミジンコ”を埋め込んだ眞理子を見舞う奇妙な事態――
ちょっとレトロな翻訳書っぽい特殊な文体で特殊な状況を描写するというのはおもしろいが……υ波で強制的に唄わされるアリアか。ビジョンは美しくも興味深いが、不思議な現象に見舞われた人々があんまり現象解明に迫れてないのが勿体ないと感じる(このへんの感覚が以前うなすけさんがmixiのコメントで書いてくれた感想とは真逆だったりする)。波とか人間とかの構成要素がどのように連動しているのかという話ではなく、とりあえず波が見つかった、打ち消し方も大まかにわかったという程度にしか描かれていない。ニール・スティーヴンスンなどはこういうものに説明を加えるのが巧いイメージがある。
[作家詳細]
【津原泰水 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%A5%E5%8E%9F%E6%B3%B0%E6%B0%B4)】
●p80 飛浩隆「零號琴」連載第三回
紹介文:
首都・磐記の実力者たちの宴席に呼び出されたトロムボノクは途方に暮れる。
おいおい、先月号の最後に出てきたパウル・フェアフーフェンが登場しないのかよ。今回は特に興味深い動きなどがない幕間的エピソードでした。
[作家詳細]
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p96 中野善夫 連載評論《黄昏の薄明かりの向こうへ》第二回「異世界の日常と現実の異世界」
隔月すぎる。こういう評論はコジツケと拡大解釈が横溢するからあんまり好きじゃないんだけど、おもしろいっちゃあおもしろい。SF・ファンタジイ論なんだけれどすぐさまエロゲ論やラノベ論にも援用できそう。
●p108 Media Showcase
ニール・ゲイマン原作のヘンリー・セリック『コララインとボタンの魔女3D』は観たい。アーニー・バーバラッシュ『ハードワイヤー 奪われた記憶』も。
●p113 SF BOOK SCOPE
三村美衣が紹介するファンタジイ紹介ページではリー・エディングスの本がちょっと読みたくなった。《アルサラスの贖罪》シリーズは入門に向いてるらしい。
宮昌太郎がゲームの紹介。『Steins;Gate』、『極限脱出 9時間9人9の扉』、『ラストウィンドウ 真夜中の約束』を紹介。『シュタゲ』は兎も角、残りの二つは『慟哭』や『REVIVE ~蘇生~』を思い出させてくれる懐かしいタイプのゲームっぽい。そこで発売前にちょっと気になっていた『密室のサクリファイス』がどうなったのかなあとか思ったりして、エロスケを除いてみた。難易度が高い為にか、中央点は65とエロスケ基準としてはやや低めだが、文句を言ってるレビュアーの文章を読むに自分には向いてるかもしれないと思ったり。まずはPSP買うのが先だけどね!
●p126 椎名誠のニュートラル・コーナー「なぜパンク頭の地球はダルマ型惑星になっていったのか」
紹介文:
宇宙エレベーターが林立する未来では、静止衛星軌道当たりが騒がしくなるかもね。
椎名誠が嫌いなオレは二度とこれを読まないように話の流れだけ以下に記載する。
軌道エレベーターが完成する→エレベーター間の移動の方が空気抵抗諸々ないので船や飛行機を使うことはなくなる。移動用ネット完成(天涯ネット化)→ネット上にさらにエレベーターを建設し地球 - 第一次天涯ネット - 第二次天涯ネットの形式が完成。月が近いので方法はわからないが月の自転も静止させてネットに加える(ダルマ型巨大惑星化)
●p132 チャールズ・ストロス「ミサイル・ギャップ」(酒井昭伸訳)
紹介文:
一九五二年十月二日、運命の日。冷戦構造はそのままに新たな人類史が始まった……
新たな人類史が始まったと思ったら終わってしまった……「ジェイクをさがして」とは対照的な純娯楽SF。ストロスなのに金子浩訳じゃないんだとか、訳者解説に“「これがストロス?」と驚くほど娯楽性が高い”とか書かれていて、いやいやストロスはいつもエンタメ分多いでしょとか思ったり。
やっぱりストロスは人間の内面を特定の個人から抽出するより、人間全体を書く作家だ。SF小説の最近の流行はディックっぽいところから派生した個人の内面を描く脳科学系だと思うんだけど、昔ながらの大規模現象モノをしっかりと書いてくれるところが好印象。その中でもすごいのはやっぱり歴史ある巨匠のダン・シモンズで、「小僧共オレに着いてきな!」ってな感じで巨編を書き上げてくれるんだけれど(小僧共、と若造のぼくが書くのも変だけど、あくまでシモンズがアメリカンなオッチャンだと想定した台詞ね)、あの人のはまた特殊だしな。ストロスはオーソドックスながらレベルが高い。似たテーマとしては先月号のナンシー・クレス「アードマン連結体」もそういった全人類を俯瞰した作品だったけれど、「ミサイル・ギャップ」の方が圧倒的におもしろい。冷戦時代だから極端に先進的なガジェット――ナノマシン構造体とか神経インプラントなど――は登場しないが、当時の先進的な工業製品や自然科学解釈による物語でもここまでのものが出来るということを見せつけてくれる。
ところで『アッチェレランド』は文庫化したら読もうと思ってるんだけどそろそろ出る頃かなあ。ハヤカワSF文庫は最近はアンソロと売れなさそうなシリーズものが殆どだし。JA文庫は元気ありますが。
[作家詳細]
【チャールズ・ストロス(Charles Stross) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/stross.htm)】
●p198 大野典宏 《サイバーカルチャートレンド》連載10「タブレットPC元年は、アラン・ケイの夢の実現か?」
iPadを扱うにしてもその使い易さとか単なる機器紹介にならないところがこの雑誌らしい。一九九二年にMSから発表されたWindows for Pen Computingをはじめ、IBMのPen for OS/2、AppleのNewton、二〇〇二年のWindows XP Tablet PC Editionといったレガシーデバイスの名前も挙がるところがおもしろい。タブレットPCとPDAの境界線というのが曖昧になりつつあるよね、などと思った。
●p200 鹿野司《サはサイエンスのサ》連載179「柴野拓美さんのこと」/p236 大森望《大森望の新SF観光局》第11回
二十歳くらいになってSF小説を読み出した身としてはあんまり馴染がないが、柴野拓美を偲ぶ文がいくらか掲載されており、故人の業績に想いを馳せる。担当された翻訳書は『無常の月』と『時間泥棒』くらいしか持ってないので、名前を聞いてもパッとわからない。このお人がいなければ日本SF史が今の発展がなかったというくらいの方なので、覚えておこう。SFをもっと読んでいけばまた出会うだろうし。
●p218 大森望×中村融×山岸真《[新版]世界SF全集を編む》連載座談会・第2回
やっぱりこういった過去のSF小説史を俯瞰するとなると、ぼくは全体像をまばらにしか捉えられていないから知らない作家、知らない作品などがある。そうやって新しい作家を知っていくわけ。それ以上に既知の作家の作品で知ってるけど読んでないモノっていうのもかなりあって、ここで俎上に持ち上がってなくともアレ読んどかなきゃなあという気持ちにさせられた。
まあ何にせよこんな全集とかよりも絶版になってるものをなんとかしろと思うんだけど。ああ、つまり図書館でってコトなのかしら。出版社は自分の首を絞めるのがお好きで。
●p228 MAGAZINE REVIWE 川口晃太朗 〈インターゾン〉誌《2009.9/11~2009.11/12》
二頁しかないコラムなのに翻訳家のパワーを見せつけてくれる。“Sublimation Angels”が「昇華天使」、“No Longer You”が「もはやあなたではない」、“Shucked”が「スパムの恐怖」、“The Festival of Tethselem”が「テスセレムの祝祭」、“Here We Are, Falling Through Shadows”が「影を抜けて、我らここにあり」、“By Starlight”が「星明かりのそばで」、“The Killing Streets”が「人殺し道路」。最後に挙げたもののタイトルは“Hothouse”を「地球の長い午後」(The Long Afternoon of Earth)くらいに改変しないと安っぽいタイトルから抜け出せないだろうが、「影を抜けて、我らここにあり」とか痺れるくらい格好いい!原書をそのまま訳したカタカナ題や、創元の四文字熟語風(今回の作品の中では「昇華天使」がそれにあたる)もいいけれど、こういうやや大仰というか古めかしい日本語題もいいよね。あとはグィンの『所有せざる人々』やSFじゃないけどウォレスの『ヴィトゲンシュタインの箒』とかも格好いいですよね。たぶんアレだ、『Magic: The Gathering』やってたから、ソレっぽい翻訳に惹き付けられるんだ。
●p240 菅浩江「コントローロ」
紹介文:
〈コスメディック・ビッキー〉の男性向け化粧品発表会。その予想外の展開とは?
人間存在と外界との境界そのものである“美容+医療=コスメディック”をテーマに展開しているシリーズの最新作。
上は解説より引用。今回はその第八話らしい。内容はミステリー風のメガカンパニー陰謀モノといったところ。今回は医療よりも美容寄りの内容で、それだけに日常でのファッション意識にも通じるところがある。物語としてはそれほどだけれど扱う内容は身近で、ガジェットがいくら先進的、未来的だろうと意識的な地続きを感じさせる。そういう知り合いはいないんだけれど、コスプレをする人なんかが読んでも割と楽しめるのではないかと。敢えてかどうか知らないけれど、現代の大衆的ファッション感覚をそのままに未来的な美容技術……変身とすら呼べるほどのものを扱っているところが作品を読んで色々と思わせるところがあるんだろうな。
[作家詳細]
【菅浩江 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E6%B5%A9%E6%B1%9F)】
●p277 今月の執筆者紹介/p280 編集後記
飛浩隆のコメントと編集後記で浅倉久志が亡くなったことが書かれていた。誌面では柴田拓美のことばかりだったけれど、どちらかと言うとぼくは浅倉久志のことの方が知っていたから重大な翻訳家の死去があったというニュースはこちらの方で覚えている。あとは翻訳家ではないけれど最近のSFの重鎮の訃報はホーガンか。この前同誌で追悼特集みたいなのも組まれましたね。
あと山岸真のコメントでトールサイズ化重版した『あなたの人生の物語』と『順列都市』で解説/あとがきを書き足したと書いてある。マジかよ。山岸真好きなんで読みたいけど、わざわざ買い直したくはないなあ。ブックオフの105円コーナーとかなら別だけど。図書館も新しく入れないだろうしなあ。となるとそのくらいは本屋で立ち読みすれば?みたいに言われそうだけれど、立ち読みをネットで公言するのは気が引ける。でもこれを書いた時点でアウト。
2010年12月22日水曜日
ねこねこソフト『White ~blanche comme la lune~』体験版

地の文章は巧いとは思わないし、キャラクターに愛着を感じる程情報は与えられない。特にこれといって魅力は感じず、ほどほどに続きが気になるという構造がLamp of Sugar『Hello,good-bye』の体験版とも似ている。正直かなり期待していたんだけれどがっかり。もっとロリ……じゃないや、幼子(ねこねこソフト公式サイト内MMR日記12月16日分参照【マイクローンデカルチャー萌え(中略)日記 (http://cgi.din.or.jp/~nekoneko/cgi-bin/nikki/nikki.cgi)】)が云々なオハナシだと思ったのに、幼子が出てきても幼子独自の精神性とか性質、それに触れて大人がどう感じるかが文章に表れていない。実際にテキストで語られなくても予感させてくれる程度に無垢の世界の片鱗でも見せてくれればまた違った感想になったかもしれないが。
幼子が出てくるとぼくはどうしてもスティーヴン・デッドマンの「目覚めたる目には、見えることのなく」を思い出してしまうし、先日に長谷敏司の「allo,toi,toi」を読んだばかりでどうしても比較してしまう。タイミングも悪かったと言える。そういうのとは違うんだから比較対象として間違ってると言われそうだけど、ギャグや設定の強みがなければ思弁的内容に期待しちゃうのも無理ないんだよ。尤もこれらを参考にしてしまうと、エロゲーの中でエロゲーならではの描写をしつつも非エロゲー的結論になってしまうことはあるだろう。つまり「イエス、ロリータ。ノータッチ」。でもそういうの大切だよね。タッチしちゃった人の過酷な運命を書くとしてもさ。
キャラクターに愛着を覚える程ではないけれど、東京到着後の制服キメポーズのエピソードは結構好きだ。完全体ワロタ。最近になって漸くエロゲーでキャラクターが気に入るかどうかの基準がだんだんと明らかになってきた。ギャグの時に思い切り常識を飛び抜けてくれるキャラクターがいるといいのかもしれない。たとえば『グリザイアの果実』では蒔奈と幸とみちるが愉快な空気を牽引してくれるし、『俺の彼女はヒトでなし』でもボケとツッコミの激しい応酬が見られる。それに比して『のーぶる☆わーくす』や『Hello,good-bye』、『ヨスガノソラ』に『AQUA』(これはちょっと合わなさすぎたので感想は書かない)と言った作品は大人しすぎて、そういうダイアローグが描かれても退屈に思ってしまう。『White』はぽんこつと常識知らずなマリカとブリジットがいてくれるのでキャラクターを見る場合にはそれなりに楽しめたりもする。あと『グリザイアの果実』ではみちる、『俺の彼女はヒトでなし』では衣緒を気に入っているところからすると、強気ながらも弄られてしまうキャラが好きなんじゃないだろうか、たぶん。
2010年12月21日火曜日
<S-Fマガジン>二〇一〇年三月号
今回は「2009年度英米SF受賞作特集」。つまらなくはないんだけれど、特別おもしろいわけではない微妙な号。
●p4 オールタイム・SF映画ベスト50座談会(高橋良平、柳下毅一郎、鷲巣義明、渡辺麻紀、添野知生)
映画って読書なんかと比べると随分お金が必要な趣味だと思うんだよね。特に映画館で観ると高い。レンタルで観ても本と比べて金がかかる気がする。まあ、ぼくが普段は本を図書館か古本かのどちらかで入手して読んでいるから安上がりに済んでいるんであって、新品を買うとなると本も結構高いけれど。でもよくよく考えれば映画も図書館に置いてあるし、もうちょっと積極的に視聴してもいいのかもしれない。
というわけであまり映画を観ていないのにこんな特集を観てもおもしろいのかと最初は気後れ気味だったが、なんだかんだで楽しめた。というか、意外と観たことある映画が多く話題に挙がっていたんだよね。自分は映画をあんまり観ないと言っていても、何だかんだで自称映画が好きな人(マニアに非ず)に話を合わせられるくらいは観ているからか。『ブレードランナー』や『2001年宇宙の旅』とかは今日日、普通の人たちは観ていなくても仕方ないと思うが『ゴジラ』、『スター・ウォーズ』、『エイリアン』を観たことがないって人は以外と多いんだよね。『スター・ウォーズ』は特に映画もSFも、ついでにVFXが好きじゃなくてもみんなが観ているという印象がある映画だったから、人と話して観たことがないと言われてとても驚いたことがある。でも自分の映画に限らずゲーム、アニメ、読書、諸々の遍歴も人からしたら変に思えることがあるんでしょうな。それが個性としておもしろくもあるんだけれど、人と同じものを自分の視点から視るということも大切だと思うので、とりあえずは今回の座談会で(限定して)決定されたベスト50を参考に映画を観てみたいと思う。
[ベスト50リスト]
1.ブレードランナー(1982)リドリースコット
2.キング・モング(1933)メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック
3.メトロポリス(1927)フリッツ・ラング
4.スター・ウォーズ(1980)アーヴィン・カーシュナー
5.2001年宇宙の旅(1968)スタンリー・キューブリック
6.エイリアン(1979)リドリー・スコット
7.ヴィデオドローム(1983)デヴィッド・クローネンバーグ
8.ターミネーター(1984)ジェームズ・キャメロン
9.ゴジラ(1985)本多猪四郎
10.未来世紀ブラジル(1985)テリー・ギリアム
11.ダーク・スター(1974)ジョン・カーペンター
12.遊星からの物体X(1982)ジョン・カーペンター
13.バットマン・リターンズ(1992)ティム・バートン
14.マトリックス(1999)ウォシャウスキー兄弟
15.マッドマックス2(1981)ジョージ・ミラー
16.バーバレラ(1968)ロジェ・ヴァディム
17.博士の異常な愛情(1964)スタンリー・キューブリック
18.時計じかけのオレンジ(1971)スタンリー・キューブリック
19.アンブレイカブル(2000)M・ナイト・シャマラン
20.ロード・オブ・ザ・リング(2001)ピーター・ジャクソン
21.アイアン・ジャイアント(1999)ブラッド・バ0ド
22.ボディ・スナッチャー 恐怖の街(1956)ドン・シーゲル
23.原子怪獣現る(1953)ユージン・ローリー
24.スキャナー・ダークリー(2006)リチャード・リンクレイター
25.禁断の惑星(1956)フレッド・マクロード・ウィルコックス
26.ゾンビ(1978)ジョージ・A・ロメロ
27.宇宙戦争(2006)スティーヴン・スピルバーグ
28.ロボコップ(1987)ポール・ヴァーホーヴェン
29.猿の惑星(1968)フランクリン・J・シャフナー
30.遊星よりの物体X(1951)クリスチャン・ナイビー
31.ダーククリスタル(1982)ジム・ヘンソン、フランク・オズ
32.ガメラ2 レギオン襲来(1996)金子修介
33.宇宙水爆戦(1955)ジョセフ・M・ニューマン
34.フランケンシュタインの花嫁(1935)ジェームズ・ホエール
35.地球最後の男(未)(1964)シドニー・サルコウ、ウバルド・ラゴーナ
36.原子人間(1955)ヴァル・ゲスト
37.機動警察パトレイバー THE MOVIE(1986)押井守
38.惑星ソラリス(1972)アンドレイ・タルコフスキー
39.アルゴ探検隊の大冒険(1963)ドン・チャフィ
40.去年マリエンバートで(1961)アラン・レネ
41.放射能X(1954)ゴードン・ダグラス
42.アイアンマン(2008)ジョン・ファヴロー
43.地球の静止する日(1951)ロバート・ワイズ
44.キング・コング(2005)ピーター・ジャクソン
45.ピクニック at ハンギング・ロック(1975)ピーター・ウェア
46.地球爆破作戦(1970)ジョゼフ・サージェント
47.ゴジラ対へドラ(1971)坂野義光
48.ダークマン(1990)サム・ライミ
49.ギャラクシー・クエスト(1999)ディーン・パリソット
50.恋はデジャ・ブ(1993)ハロルド・ライミス
●p9 ナンシー・クレス「アードマン連結体」(田中一江訳)
紹介文:
老物理学者ヘンリー・アードマンを突如襲った身体的異変。それは大いなる異変の前触れだった……。
ネビュラ賞のノヴェラ部門受賞作品。選考に納得いかないのは毎度のことなので最早どうでもよろしい。タイトルがギブスンの「ガーンズバック連続体」っぽくてかっこいいけど、内容を読むとガッカリする。間違っちゃいないんだけどあまりにも捻りがない。エキストラにまでいちいち名前がついているのはクレスらしい。
所謂『幼年期の終わり』系で、昨今の世界的な平均寿命の延びから来る老人の増加に目を付けたところにオリジナリティがあるのかもしれないが、物語としての真新しさはない。ナンシー・クレスの作品としては『ベガーズ・イン・スペイン』収録作品の方がよっぽど面白い。《プロバビリティ》シリーズと本作を読んで、この作家は専門的な物理学に対して憧れはもっているんだけれどそれをイーガンやストロスのように使いこなせていないんだと感じた。小説としてそれなりに楽しんで読ませる力はあるのに、ハードSFとして見ると山本弘とか小川一水のレベルに留まる。
しかし相変わらず人物を描くのが巧い。読んでいる時は特に何も感じることはないんだけれど、これを読んだ後に他人と会話を交えているときにふと小説内に書かれていたことを、身を以て体験できる。ウザキャラのイヴリンですら然るべき存在理由を与えられていると思う。個人的体験としては相手がこちらの事情を無視して偉そうに語る時などは、別段そのことについて語りたいのでも、こちらに語りかけたいのでもなく、ただ単に己の中に溜まっている未消化な思念を言葉にしているだけだということがこの作品を通してすごく実感できた。だからそういう時は相手の話の瑕疵を指摘したり論理的な弁明をしても無駄で疲れるだけだから、ウンウンと頷いていればいいのだ。この柵から抜け出た統一的な存在の一部になりたい。早く船が来てくれればいいのに。
近著短編集に表題作として収録されている。
[メモ]
1.【ジョン・ドライデン - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%87%E3%83%B3)】
2.p24の“真空フラックスを縦横にはねまわっている”はフラックスの言葉の使い方として正しいのだろうか。知り合いの理系二人に聞いたけどわかんなかった。この超越存在について焦点を当てたパラグラフでは宇宙時間云々の記述もあるけれど、単なる雰囲気作りっぽいような。
参考:【フラックス (物理学) - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9_(%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6))】
[作家詳細]
【ナンシー・クレス(Nancy Kress) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfk/kress.htm)】
●p73 2009年度・英米SF受賞作特集 特集解説:橋本輝幸 + 2009年度受賞作リスト
内容は各URLを参照。
[ヒューゴー賞]
【The Hugo Awards : 2009 Hugo Awards (http://www.thehugoawards.org/hugo-history/2009-hugo-awards/)】
[ネビュラ賞]
【Nebula Award Final Ballots from the 2000s (http://dpsinfo.com/awardweb/nebulas/00s.html#2008)】
[ローカス賞]
【The Locus Index to SF Awards: 2009 Locus Awards (http://www.locusmag.com/SFAwards/Db/Locus2009.html)】
[アシモフ誌読者賞]
[アナログ誌読者賞]
【SF Site News ≫ Asimov’s and Anlab Readers’ Polls (http://www.sfsite.com/news/2009/04/29/asimovs-and-anlab-readers-polls/)】
[英国SF協会賞]
【2008 Winners (http://www.bsfa.co.uk/BSFAAward/2008Winners.aspx)】
[アーサー・C・クラーク賞]
【Previous Winners (http://www.clarkeawards.com/PreviousWinners/tabid/60/ctl/Details/mid/411/ItemID/22/Default.aspx)】
[英国幻想文学賞]
【The British Fantasy Awards: a Short History (http://www.britishfantasysociety.org/index.php/british-fantasy-awards/history-of-the-bfas)】
[ブラム・ストーカー賞]
【ブラム・ストーカー賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC%E8%B3%9E#2009.E5.B9.B4)】
[世界幻想文学大賞]
【世界幻想文学大賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%B9%BB%E6%83%B3%E6%96%87%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E8%B3%9E#2000.E5.B9.B4.E4.BB.A3)】
[フィリップ・K・ディック賞]
【The Philip K. Dick Award - winners by year (http://www.philipkdick.com/links_pkdaward.html)】
[ジョン・W・キャンベル賞]
【ジョン・W・キャンベル記念賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BBW%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E8%A8%98%E5%BF%B5%E8%B3%9E)】
[シオドア・スタージョン記念賞]
【シオドア・スタージョン記念賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%AA%E3%83%89%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E8%A8%98%E5%BF%B5%E8%B3%9E)】
[ジョン・W・キャンベル新人賞]
【ジョン・W・キャンベル新人賞 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BBW%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%99%E3%83%AB%E6%96%B0%E4%BA%BA%E8%B3%9E)】
●p82 ジェフリー・A・ランディス「マン・イン・ザ・ミラー」(小野田和子訳)
紹介文:
採掘のため降り立った小惑星に存在する異様な地形。好奇心にかられた男はそこを訪れるが……
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作品。マイケル・ジャクソンも『ジョジョ』も関係ない。
異星人の作ったものだと思わしき巨大な凹面鏡に落っこちて、そこから脱出する男の話。脱出すると言っても、摩擦がごく少ない鏡の上を楕円運動を繰り返しつつ、どうやって上に出るかというだけで、特に異星人が語りかけてきたり急なピンチに陥ったりはしない。ブランコの容量で重心移動をさせて運動エネルギーを増加させて出るだけの話なんだけど面白く読める。人のこと言えないけれど、これが読者賞とは、アナログ誌読者は変態揃いである。
[作家詳細]
【ジェフリー・A・ランディス(Geoffrey A. Landis) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfl/landis.htm)】
●p99 テッド・チャン・インタビュウ (インタビュアー&構成:大森望)
チャンがギレルモ・デル・トロの『パンズ・ラビリンス』をベタ褒め。
●p113 SF BOOK SCOPE
今号は気になるものが少ないと思ったが、よくよく思い返せば二月号もそこまで惹かれた本は多くはなかった。しかしながらそれは既にチェックしているものも紹介されているからで、自分のウィッシュリストと重複しないものを紹介して欲しいという思いが、このコーナーに寄せられてしまうからでしかない。
毎回ラノベを紹介するのは些か無理矢理にも思えるが、タニグチリウイチのラノベ紹介枠では準ラノベの壁井ユカコ『カスタム・チャイルド 罪と罰』に目を止めた。所謂デザイナーズ・チルドレンが親から受けた歪んだ気持ちの受け取り方を描く物語らしい。
細井威男の紹介しているものは海外SFなので殆どチェック済みだが、マイク・アシュレイ編の『シャーロック・ホームズの大冒険』はホームズもののアンソロながらもSF作家が多く寄稿していて、例えばバクスターの短編なんかも載せられているということで要チェック。
ホラー紹介担当笹川吉晴の紹介する三冊のうち一冊、ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE』は都市恐怖譚で退廃的なパンク系ホラーな匂いがする。
あとは純文学から牧眞司が紹介するジョルジュ・ペレック『煙滅』は、原文フランス語では再頻出文字のEを一切使わずに書き上げた小説ということで、それだけなら暗号解読技術の頻度分析が効かないという程度で話は終わるが、内容は普通のミステリでなくメタ世界に迫ったSFとしても読めるという少しだけ気になるかもしれない。
●p126 飛浩隆「零號琴」連載第二回
紹介文:
磐記の街で開催される假劇に参加したトロムボノクたちを待ち受けているものとは?
先月号で次回はカスタトロフが起こると紹介されていたので、惑星一個くらい消滅するのかと思ったけど、假劇に乗じたテロだった。ちょっとショボいよ。内容自体は前回に引き続きおもしろい。
[作家詳細]
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p148 小林泰三 《天獄と地国との狭間》第八話「シャヘラザード」
紹介文:
カムロギたちの前に姿を現したウインナー村の長老・ザビタンは、若い少女だった。
ザビタン「ザビたん言うな!」
↓
ザビタン「わたしは今よりザビたんと名乗る」
カムロギ、ナタ、ヨシュアという空賊たちがダイソン球の外郭で冒険をする話らしいんだけど、今回は未読の七話で交戦したらしきザビタンの過去エピソードだから単体でもごく普通に読めた。シリーズの途中参入者としては良いタイミングで入れたかな。
巨大な特殊兵器――天使――というのがあるという背景はわかった。しかしシャヘラザード=レギオンが登場したときに、戦闘艇と核融合弾頭の使用をすすんで選択した家老が天使であるカルラの出撃を拒んだ理由はあまり合理的には思えなかった。結局レギオンが天使であれば戦闘艇も核融合弾頭も効果はなく、最終的にはカルラの出番になり、レギオンが天使でなければ天使のカルラで圧倒できる筈なんじゃないのか。ここらへんは六話以前をちゃんと読んでないから違和感があるだけかな?
[作家詳細]
【小林泰三 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%B3%B0%E4%B8%89)】
●p166 樺山三英「世界最終戦論」
紹介文:
戦争は一度も途絶えたことがないのだという戦争は。今も、そしてこれからも――
有名作品を別の視点から捉え直したシリーズで、今までもオーウェル『一九八四年』、シャルル・フーリエ『愛の新世界』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、ウィリアム・モリス『ユートピアだより』、ハクスリー『すばらしい新世界』を扱っていたらしい。今回は石原莞爾の『世界最終戦論』が題材。ところで『愛の新世界』の値段がAmazonのマケプレですごいコトになってる。九万て……
全体的にわかりにくいというか、ストーリー性はないとまでは言えないけれどまともにストーリー性や設定を評価するタイプの小説じゃなくて主張だけがある……んだと思う。戦争と平和は境界線で区切られて別のもののように思えるけれど、平和もまた戦争の一形態というオハナシ……だと思う。
[作家詳細]
【樺山三英 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%BA%E5%B1%B1%E4%B8%89%E8%8B%B1)】
●p202 SENSE OF REALITY
金子隆一のエッセイは毎回面白い。昔からこのコーナーを持ってるのかなと疑問に思って本棚にある九七年十一月号を見てみると、書評をしていた。今のエッセイの数が溜まったら本にして出して頂きたいところ。
●p236 MAGAZINE REVIEW 東茅子 〈アナログ〉誌《20099.7/8-2009.11》
〈アナログ〉誌は〈アシモフ〉誌よりもアイデアやビジョンは地味だったり昔のSFでありそうな話ながらも、だからこそ実は骨太な作品が載ってるという感じなのかな。「マン・イン・ザ・ミラー」もそんなんだったし。だからあらすじを紹介されても特定の作品が読みたくなるようなことはないんだけれど、実際に読んだら楽しいんだろうな。
●p246 キジ・ジョンスン「26モンキーズ、そして時の裂け目」(三角和代訳)
紹介文:
エイミーは、一ドルと引き替えに手に入れた26匹の猿たちとショーをして旅していた。
世界幻想文学大賞短篇部門、アシモフ誌読者賞ショート・ストーリー部門受賞作品。
短めだし悪くはないんだけれど、個人的にはそこまで。そういえばぼくは数年もの間、バスタブというか浴槽に浸かって風呂に入っていないんだな。ユニットバスだからどうしてもシャワーしか使わなくなってしまう。バスタブに浸かればどこかへ行けるわけでもないし、別にいいんだけど。
[作家詳細]
【キジ・ジョンスン(Kij Johnson) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfj/johnso30.htm)】
●p258 ジェイムズ・アラン・ガードナー「光線銃――ある愛の物語」(金子浩訳)
紹介文:
ある日森で光線銃を見つけてから、内気な少年だったジャックの人生は大きく変わった。
シオドア・スタージョン記念賞、アシモフ誌読者賞ノヴェレット部門受賞作品。
光線銃はぶっちゃけどうでも良かったね。動機付けの対象としては確かに特殊ではあるんだけれど、SFだったらもっとすごいのいくらでもあるし。物語の流れ自体はオーソドックスながらもユーモアのツボを付いていておもしろい。SFのガジェットを利用した非SF的な作品。
[作家詳細]
【ジェイムズ・アラン・ガードナー(James Alan Gardner) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfg/gardner.htm)】
2010年12月19日日曜日
ホエール『俺の彼女はヒトでなし』体験版

「先輩って何者なんですか?」
「我は、我であるッス」
『Hello,good-bye』と並んで十二月のダークホース(『Hello,good-bye』はもう発売されて感想も書かれ始めているけれど、この短期間でクリアした人の感想をぼくはあまり信用してない)。タイトルとビジュアルが地味なのであんまり盛り上がりそうにないが、チェックしておきたい作品。どことなく漂うチープなイメージを覆されるわけではないけれど、キャラクターの魅了はなかなかで、意外とおもしろい。製品版で補足されるであろう部分が大量に省略されているので仕方ないのけれど、ここまで流れをメチャクチャにしてもエロゲーの雰囲気ってそれなりに成り立つのを実感させられた。抜け落ちているエピソードがあるので気持ち悪さが残るが、その足りないところを補完したいという欲求を呼び起こさせる力はある。ギャグの掛け合い、登場人物のアクの強さに加え、仄めかされる謎などで、ビジュアルや音楽などの安っぽさを十分にカバーできている。
強烈な設定の登場人物たちの物語をどう説明できるかが製品版でのひとつのポイントになるのではないだろうか。まずプロローグからしても全員の正体がいっせいに明かされるのは偶然にしては出来すぎ。後半に提示されるであろう各人の課題――要するにシリアス展開に於ける問題、障害のこと――も、問題解決能力に優れたメンバーですら困難に感じるようなものを持ってこないといけないと思う。盟依と燈は超越的な力を使えるっぽいし、衣緒は拡張性がある……というよりはマッドが開発能力ありすぎだし、さらに学長は『ドラゴンボール』の世界の人だし、クラスメイトはプレコグ。それでいて権力と財力もそれなりに備わっている。宇宙規模の問題すら解決できそうな連中にどんな困難が与えられるのだろう。『のーぶる☆わーくす』の登場人物たちは権力や財力もある良家の人間でも、結局は社会の構造の中に閉じ込められているし病気や事故などには叶わないが、この作品の登場人物はそんな普通の障害は容易く乗り越えられそう。もしも後半のシリアス場面で「魔法使えよ……」みたいになってしまうとせっかくの熱が冷めてしまうことは予想できるので、そのあたりどうなるか気になります。あ、でも電子レンジがなくなったら魔法使えないのか。じゃあ仕方ないか!
ヒロインたちの外見と正体の不一致ぷりは爽快に既成観念を崩してくれる。魔女はこの中で誰かと問われれば名前と外見しか情報を与えられなければ殆どの人がアリスだと言うだろうし、ヴァンパイアは衣緒。残る選択肢でわかりやすいライカンスロープとアンドロイドは日向か燈に当て嵌めて、消去法で盟依が空気……そんなわけで全員の正体を開始十分もせずに明かしてくれるこのゲームだけれど、限定された情報だけ与えられるとおもしろいくらいに正体がわからなかったりすると思う。だから何だってワケじゃないけれど、こういうところにスタッフの業界テンプレに対抗する意志が垣間見えたりもしているのかも。アリスの私服もエロゲーじゃ標準ちゃあ標準なのに突っ込まれまくりだし。突っ込むところそこじゃねぇから。
また、文学的或いは民俗学的なバックボーンがありそうなメンバーなのにそういうことが一切語られないのも意外。衣緒はマッドの独自開発(つーのも本当にすごすぎだけど)だし、燈は正体不明だから良いとして、魔女とヴァンパイアとライカンスロープの由来については体験版でまったく触れられていなかった。盟依は後天的に能力を身につけ、日向は長い年月を生き、アリスは親からの遺伝という話だけはちょっと語られていたけれど、それぞれの特殊な形質がどういう由来を持つかという点についてはびっくりするくらい説明がないし、主人公も求めない。これも製品版で補完されるのかもしれないけれど、やっぱりもう少しゲーム世界の設定情報を与えて欲しかった。謎が残っているようで、残ってないのかもしれなくて、だからこそダークホースなんだけれども。
最後に好きなキャラクターについて。SF者としては当然ながら衣緒が好きなんだけれど、作中ではアンドロイドなんだから数学ができなきゃダメだろと突っ込まれている。違うよ、全然違うよ。彼女の性質は計算機械であるコンピュータとは異なり、あくまでも人工的に造られた人間の模造品というところにある。ブースターとかレーダーとかの拡張性は大して重要じゃなくて、あれは人間がブースターやレーダーや他の色々な道具を使うのと基本的には変わらない。彼女はヒューマンフォーム・ロボットでありヒューマンシミュレーションモデルでもある。wikipediaの人造人間エントリ【人造人間 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89)】にも“アンドロイドという物は人造物で、人間と同じ物を構成して「ほら、人間が出来ただろう」と言う為の試行的産物であり、生体医工学の極致である。それは発生当初から「人の代わりに働くもの」として定義されているロボットとは、そのアーキテクチャにおいて一線を画し、道具としての意味はもたない。”とある。あまり人付き合いが得意でない日向が衣緒をポンコツとかスクラップとかクズ鉄と呼ぶのはある種の友情を含んでいるのだろうけれども、「クリスタルの夜」とか「灰色の車輪」を読んでいると、その呼称はちょっとひどいと思っちゃう。がんばれ、衣緒。
2010年12月10日金曜日
RococoWorks『ヴァニタスの羊』体験版(脱出編)

フラウエンちゃんのセル・オートマトン講座!クロとシロがそれっぽくない?ぽくないですね、ハイ。SF好きとしてはこういう複製、反復、停止のモデルがあって、尚かつその対象が意志を持っているとなると一本くらいは短編が出来ちゃいそうな気がしてならないんだけれど……話を本線へ乗せましょう。『ヴァニタスの羊』体験版について。
当たり前なオハナシなんだけれども、やっぱりエロゲーというのはキャラクターが大事だということを再認識するに到る。アニメ、マンガ、ゲーム等々のサブカル系作品を総称してキャラクター・メディアと呼んでいた人がいて、かなり乱暴な呼び方ではあるものの一応正解の一つなんだろうな、などと思ったり。まあ正確にはメディアというよりもコンテンツだと思いますが。本作はけっこう真面目にファンタジーをやっていてエロゲーっぽくないのが良くない方向に作用した。エロゲーじゃなくていいと言われる作品と言えばやっぱり桜井光のスチパンシリーズがあるが、あれらではちゃんとキャラクターに魅力があって画も音楽もそれぞれがそれぞれに楽しませてくれる。確かに全年齢対象でもいいんだろうけれど、少なくともゲームである必要は感じる。『ヴァニタスの羊』の体験版ははっきり言ってキャラクターに魅力を感じない。それに面白い会話もなく、設定も魔術について色々語られるが特に目新しさはない。本編でフラウエンがデレたり隙を見せたりしたらニヤけることが出来そうだけれど、体験版はあまりにも堅い内容で、終始無表情で読み進めていた。特にアルマとエリファスの会話は戯曲や演劇のような一連のクリシェによるやり取りが多く、文字が順々に表示されてそれに声が重なるようなエロゲースタイルでやられると冗長に感じる。濡れ場でもこれが続けばある意味では面白いかもしれないと思ったけれど残念ながらカット。ここまで生真面目な作品だと、もういっそのことマーティンとかル=グウィンとか、そういう本家ファンタジー小説家(SF作家かファンタジー作家かと言う話はトモカク)の作品でも読もうかと思ってしまうくらい。だって世界観が~とか言っちゃったら、そういう小説を読む方が絶対に楽しいもん。
そうして退屈を感じつつもクライマックスだけは胸に響くものがあった。クロードやテレーゼの年齢にあって慕っていた親との突然の別離ってのは辛いよなあ。彼ら自身と歳は離れていて既にそういう心境になるようなことはないけれど、悲しみの大きさというのはそれを感じた者が子供だからと言って軽く扱えるようなものでもない。声優さんの演技と音楽も相まった演出は逸品でした。そこで唐突にも体験版が終わっちゃったからびっくりしたけれど。あそこで終わって良かったのかどうかは……判断しかねる。一番良いところで終わったとも言える一方で、本編の彼らを見せてくれないと話にならないとも言える。
この体験版は公式サイトの表示によると「体験版(脱出編)」とあるから次があったりするのかもしれない。帰還編とかね。今回は製品版で主に描かれる時間から九年遡って主人公達の幼少期を描いている。これこれこういう過去があるために現在の彼らはこういうことをしていますという話は重要だけれど、最初にそれを提示されるよりも物語の中で自然にテーブルに載せてくれたら良かったのに。これで発売日に突撃する人は体験版などやらなくとも突撃してたんじゃないだろうか。個人的な問題は上記までの感想に加え、『グリザイアの果実』と同日発売だと言うことです。ごめん、オレ『グリカジ』買うから……
あと作中のちょっとしたところにケチを付けるようでアレなんだけれど、魔術を研究する者という意味で魔術師を名乗るエリファスとその弟子のクロードなら、アルマとテレーゼが不出の魔術の効果を受けた際にもっと試行錯誤があっても良かったんじゃないかと思う。もしかしたら既に敵に察知されている恐れがあることからエリファスが警戒して最小限のテストに留めたのかもしれないけれど、アルマを伴わずにテレーゼだけで門に近づいたらどうなるかとか、方角や時間や被験者の意識状態等の要素を含めた各近づき方なんかを考えずに、不出の魔術の使い手を捜して〈石のパン〉の影響下に入れ不出の魔術の無効化を優先させるという結論を出すのは傍から見ていると短絡的なのね。どんな作品でもそういう手落ちっていうのはあるんだけれど、何らかのフォローはして欲しいと思ってしまう。
2010年12月5日日曜日
Lump of Sugar『Hello,good-bye』体験版
さすがに情報が少なすぎるので、これは評判聞いてからかな。サントラとマキシシングルの特典は欲しい気がするけど、それでも突撃するまでにはいかない。体験版とはいえ、数時間付き合ったわけだから何かないかと言われても……体感的には面白くないですと言ってしまっていいのか?製品版で化けるかもしれないよ、と予防線を貼りつつ……
所謂日常シーン部分は『のーぶる☆わーくす』ってもしかして面白かったんじゃなかろうか、などと思わせるものです。キャラクターの声はエロゲーのメインストリームから悪くない意味で外れていて印象的だったけれど、台詞読みのスピードがすごくゆっくりだったり、読点でいかにも台詞読んでます的な切れ方をするのが気になるところだった。オーガストのゲームでもあるような演技っぽさ。
これも主人公は正規の学生ではなく、軍人の潜入工作として学生になりすましているというものだけれど、その辺のネタをあまり使ってなかったから大人しいだけの会話文になってしまったのではなかろうか。潜入が上手く行えているということなんだろうけれど馴染みすぎです。所々では周囲にはバレない程度に軍人らしさが出しながらもギャグにまで発展させない控えめっぷりを発揮。一方で学生に馴染めなくてテンパってしまうんだけれど、軍での禁欲的な生活が長かったのか、一度箍が外れると子供のように熱中してしまう棗はテンプレ以上にダメな軍人で人気は出た模様。彼女が人気が出るのも当然で、それは他のキャラクターのカラーがわからなさすぎるからだ。メイは不思議ちゃん、すぐりは友人のような元気っ子、コハルは全然わからん状態で、テンプレの域を出ていない及び未詳。メイもすぐりも転入してきた主人公と棗を随分気にかけて面倒を見てくれるすごく良い子なんだけれど、各人物の個別の人格から自覚的にそういう行動を取ったというよりも、脚本に書かれているからそうなっているような予定調和的な不自然さが感じ取れる。もうちょっと動機が欲しいと思ってしまうんだろうな。メイはわからないけれどもすぐりは主人公に対して動機があるようにも思えるが、棗にも手をさしのべている様子からすると元々本人が持つ性質がそうさせているようである。なんだろうなー(ここまで書いておいて何だけど結論は出てない)……良い人たちすぎてちょっと引いちゃってるのかもしれない。キャラクターに対する好感度としてはだから、棗>メイ=すぐり≧コハルになるのは殆ど明白なことなのでは。見た目ではコハルが一番だと思うんだけれど、前述の通りあまりにも出番が少ない。そしてやはりテンパリ少女に我々は惹かれてしまう。割と表情多彩であるが、最初は潜入に緊張していたのか人付き合いが苦手なような大人しさを見せ、主人公とメイとすぐりに触れ合う中で子供のような素顔を見せてくれる棗はぼくも好ましく思う。問題は「このゲームの中で」という制限を課すれば棗が可愛いと断言可能だけれど、例えば『のーぶる☆わーくす』と比して尚それが言えるかと問われると口を閉ざすしかなくなる。
しかし救いは単体キャラクターよりも気になる陰謀や謎の存在だ。そちらに意識を移して自分を偽っているんじゃねーの?と言われれば……ごめんなさいするしかないんだけれど、これがもしかしたら本当に面白くなるかもしれないという意味で期待。寧ろここに期待するしかない。残念ながら体験版ではどこまで希望を見ていいのか足がかりになるようなものはなかったが、それでも残された光はここにある。
物語の流れは主人公が別命あるまで学院に潜入せよとの命を賜る場面から開始し、順調に周囲に馴染み一ヶ月程が経過する。しかし冷戦時代のドイツや今の朝鮮半島のように日本を二分(所謂歴史改変[alternate history]モノです)する片側の勢力の過激派により主人公が留まり、学院の人々と軍内では得られなかった友情を育んだ街は破壊され、彼自身も市街地に対する攻撃により命を落とす。意識を失う前に見たのは、炎上する街の瓦礫の中にあっても涼しげな顔をする自分と瓜二つの人間だった。しばしの幕間を挟んで主人公の意識は戻る。そこではまたゲームスタート時と同じ状況を体験するが、主人公はあの凄惨な情景を覚えている。メイと出会ったところで主人公は、主観的には再会を果たしたこの少女たちとの生活を、記憶にあるような形で終わらせないことを決意する……というもの。幕間でループは人為的なものだと仄めかされている点にプレイヤーは興味を持つだろう。実際にウェブでの評判も「名作になるかもしれない」としたものが多い。なんか必死に体験版のつまらなさを誤魔化している自分と重ねて視えてしまうのは穿ちすぎか。
人為的にループ状現象が発生させられている設定に魅力を感じるのは本当で、つまりそれは『涼宮ハルヒの憂鬱』の「エンドレスエイト」や『CROSS†CHANNEL』、ウェルズ「奇蹟を起した男」のように原理が説明不能な超自然現象ではなく手段が存在するということでSFマインドを刺激される。ループしているように見せている手法として一番現実的なのは、舞台の守乃と同じような劇場を用意して人物もクローンを配置したというものだが、これは早々にバレる可能性が高いので却下。短サイクルでループ回数も少なければこれも可能だが、一ヶ月程の長さが必要になると気象環境を再現した環境を用意しなくてはならなくなる。気象条件とループ回数を考慮して様々な場所に守乃の再現ステージを用意すれば可能だが、動植物の侵入や気候状況など地域差から生じる諸々の情報により被験者に察知される恐れもあり、それ考慮すると物理的にある程度閉じた場所を用意しなくてはならなくなるが、そこまでの特殊且つ大型の施設を建設するような世界観にも思えない。あとはメタ宇宙などが考えられるし、実際にプログラマブルなメタ宇宙が生成/操作できなくても主人公の脳さえ弄ってしまえばその中で全てが事足りる。最後の案は『ユービック』や『マトリックス』っぽいが、これなら他の人物も主人公と同じレベル(愛する対象がAIでも構わないと思うけどね)で実在が可能なので現実味がありそうな気がする。あ、ちなみにコハルが視ていたのは予測シミュレーションね(これも予想だけど)。てなわけで、もしかしたら面白いSF的展開があるのではないかと期待する部分もあります。
ところで主観的な意味に於ける実在のコピーが存在するにせよ、メタ宇宙で世界が繰り返されているにせよ、主人公や周りの全ての人物という現象自体は死しても再現される。ループものに於ける目的は大抵はループから脱することだけれど、ここで意識され難いのは被ループ対象は再現性があるから一定区間内で死を体験しても、また特定期間が来れば再現が確定している不死の存在なんだよね。そういう場合では、果たしてループから脱するのは幸せか否かという問題にぼくはいつも直面するんだけれどこの問題は大抵の物語で無視される。永遠に繰り返す夏休みとかマジ羨ましいし!『鋼の錬金術師』で人間は生まれた時のままの身体が最も自然なもので最良だとされるイメージがあったが、そのように感覚的な自然を尊重する理由がぼくはわからない。(嫌いな作家だけれど、)こういうイメージに対して否を唱えた山本弘「地球から来た男」はその自然崇拝に対するアンチテーゼとして評価できるでしょう。本作も落としどころはどうなるかわからないけれど、納得できるかどうかもまた大きな問題だ。本来は不可能な個人の拡張というこの問題をエロゲに持ち込んで、しかもそれを解決できたら嬉しいことこの上ないのだが。
2010年12月2日木曜日
ゆずソフト『のーぶる☆わーくす』体験版

ゆずソフトのゲームは久々にプレイしたなあ。体験版だけど。実に『E×E』以来となる。過去のゲームになるが『夏空カナタ』などは設定が気になるのでこちらの体験版も近いうちにやって、良さそうなら買いたいところだ。『天神乱漫 LUCKY or UNLUCKY!?』は……気力体力その他諸々余裕がある時にでも。
本作に関してはエロスケのトップページ等の多くのサイトでバナーが貼ってあって事前に公式サイトは訪れており、発売一ヶ月前というかなり緊張したスケジュールの中に公開された体験版で期待していたのだけどダメだった。自分の嗜好に著しく合っていないとまでは言わないけれど、どうしても不条理・不合理に思えてしまう部分が多い。貧乏学生が金持ち学生に瓜二つだから突然レクチャーも資料もなしにデコイを演じるというところで既に受け付けない。いや受け付けられないところはを挙げるとゲーム開始後一分もせずに主人公が街中で空に吠えるところでもうダメなんだが。こういうトコロに整合性を求めないのが最近人気のアニメやラノベの風潮だとは思っているんだけれど、馴染めないな。仮に影武者として潜入するならそうだね……ジェス・ウェドンの『ドールハウス』みたいなのでやれば個人的には面白いと思う。記憶や人格をオーバーライドしたり、あとは神経インプラントで最低限必要な知識を得て臨機応変に場面に対応するとか。で、ヒロインと仲良くなったのに最後は記憶消去されちゃったり、影武者から本物の方に記憶転移(コピペじゃなくてカット・アンド・ペースト)されちゃうんだけれど、あくまで自分の行動の結果が残るから一時的且つ主観的には悲しいけれど、最初から予想していたことではあったし過去時間に於ける自分の行動は本物に継続されるから本物の朱里もまた俺であり、拡張された匠という存在が消えるわけではない……とかそういうお話だったら良かったんじゃないかな。誰にも共感してもらえそうにないけれどね!まあ、どこそこがおかしいというくらいなら簡単に言えるのでこのくらいはスルーして楽しいところだけを抽出できるのがおそらくは正しいエロゲーマーのスキルなんでしょう。敢えて非整合性をライターが書くのは……んー、どういう理由かはわかりかねるが。
キャラクターの見せ方としても少しパンチが弱いか。クールな外見や学年主席という肩書き、初めての邂逅に際しては悪に毅然と立ち向かう気丈さを持ちつつも、方言テンパリストとして愛でたくなる麻夜はそれなりだとしても、後はひなたの善性に少し当てられたくらい。特にメインを張ってる明里が体験版の時点ではテンプレキャラなのが残念に思える。行く末に不安がない彼女たちだから先の展開を知りたくなるようなこともないんだよね。
他にはセレビィ量産型のSDイラストが『グリザイアの果実』に比べて良かったくらいしか特筆すべきことはない。
次は「はろー★わーくすバナーキャンペーン」繋がりでLymp of Sugarの『Hello,good-bye』の体験版もやってみようと思う。これは……たまれんみたいなモンか?親会社が一緒とか?
2010年12月1日水曜日
<S-Fマガジン>二〇一〇年二月号
前号に引き続き「創刊50周年記念特大号」のPART・Ⅱで日本SF篇でかなりボリューミー。日本人作家は海外作家よりも知らない人が多いので、カタログ的な読み方も出来た。既に読んだことがあって気に入っている作家は神林長平と上田早夕里。堀晃がいないのが残念です。既に読んだことがあって気に入っていない作家は……これは触れなくていいか。単品コメントでは触れてしまっているかもしれないけれど。日本人の作家は円城塔は別として「わけがわからない……」状態にならないので一応全てそれなりに楽しめるところが良い。好き嫌いは別の話になってしまうけれどね。ともかく、わけわかめな状況に陥らない安心感がある。
●p4 第21回「SFマガジン読者賞」発表
――内約
海外部門:
一位 パオロ・バチガルピ「フルーテッド・ガールズ」(中原尚哉訳)二月号掲載
二位 グレッグ・イーガン「暗黒整数」(山岸真訳)三月号掲載
三位 バリントン・J・ベイリー「蟹は試してみなきゃいけない」(中村融訳)五月号掲載
四位 チャイナ・ミエヴィル「鏡」(田中一江訳)八月号掲載
五位 アンドレイ・サロマトフ「祝宴」(宮風耕治訳)十月号掲載
国内部門:
一位 新城カズマ「雨ふりマージ」十月号掲載
二位 山本弘「地球移動作戦」連載第七回~最終回(九月号)
三位 伊藤計劃「屍者の帝国」七月号
四位 谷甲州「星魂転生」十月号掲載
五位 樺山三英「小惑星物語」二月号掲載
イラストレーター部門
一位 田中光
二位 シライシユウコ
三位 鷲尾直広
四位 尾関裕隆 / スカイエマ
海外部門ではバチガルピが一位。なるほど、先月号の「第六ポンプ」も面白かったし、伊達じゃないってことでしょう。邦訳本の刊行が待たれるところ。イーガンとミエヴィルは上位に食い込むのが当たり前の作家なので、特に驚きはないですが、五位を受賞したアンドレイ・サロマトフという名前は初めて聞きました。日本語では殆ど情報がないのですが、どうやらロシアのお人らしく。邦訳刊行は期待できずとも、せめて英語に翻訳された本があればなぁと思います。そんなに読みたきゃロシア語なり何なり勉強しろってハナシですが。
●p10 飛浩隆「零號琴」(連載第一回)
紹介文:
都市をまるごと覆う巨大楽器の秘密とは?――超特大総天然色活劇、新連載開始!
導入なのに既に面白い件。異種知性体が残したオーバーテクノロジーの類を扱ってこれからどんなことが起きるのか期待。どことなく漂うオリエンタルな雰囲気もツボを突いている。
作家詳細:
【飛浩隆 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E6%B5%A9%E9%9A%86)】
●p34 山田正紀「フェイス・ゼロ」
紹介文:
人形浄瑠璃の人間国宝が夢見た究極の表情とは? そしてそれが実現したとき……。
人形浄瑠璃とロボット工学と表情に対する認知を主題にした作品。単純に昔の言葉って格好良いよな。「根ざしはかくと知られけり」とか。
SFとしても一応通用するけど、主な内容としては怪奇小説とかサイコサスペンスとしたいところ。ガジェットの〈フェイス・ゼロ〉はまさにホラー小説のガジェットが与える恐怖であり、SF的面白みがあまりない。
作家詳細:
【山田正紀 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E6%AD%A3%E7%B4%80)】
●p52 椎名誠「問題食堂」
紹介文:
定食屋「いたみや」の常連であるおれの前にそいつは身の程知らずにも現れたのだ!
これはないわー。基本となるシチュエーションを、背景を変えて何度も上演するという作品だが、どうにも面白さがわからん。要するに、【ラヴクラフト風味の『侵略!イカ娘』文章記述 :Syu's quiz blog (http://www.syu-ta.com/blog/2010/11/12/222011.shtml)】みたいなネタ系だとは思うんだけれど、冗長かつ興味が沸かない。
作家詳細:
【椎名誠 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A4%8E%E5%90%8D%E8%AA%A0)】
●p70 瀬名秀明「ロボ」
紹介文:
ぼくはウィニペグに向かった。自然史家となった、かつてのロボット画文家に話を聞くために
『パラサイト・イヴ』の作者で、日経サイエンスでも呼ばれていたりしているお人。初めて読む。良い。
作家詳細:
【瀬名秀明 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E5%90%8D%E7%A7%80%E6%98%8E)】
●p90 上田早夕里「マグネフィオ」
紹介文:
昏睡状態の夫の内面を知るために、妻の取った選択とは――。
上田早夕里は『魚舟・獣舟』が面白かったので安心できる作家。今回もそれなりに愉しませてくれたが……うーん。
人工神経細胞を利用した生体チップをアタマに埋め込んで、感覚記憶を特定のトリガーにより再現させる。そんなことをしなくても普通に記憶を再現することは可能だが、その感覚強化はより精密にその感覚を蘇らせることができる。こういうガジェットは好きだが、それは未来のこととして話に出るだけで、実際は劇中では用いられない。個人的な好みの話ではあるが、感覚を再現させた人物が、それが現実の感覚であるか人工の記憶であるか判別不能になるわけだから、作中の視点をめちゃくちゃにしてわけわかんないようにして欲しかった。認知感覚を弄くるのを内面から書かないなんて勿体ない。外面から弄ればホラーにはなるんだけどね。
作家詳細:
【上田早夕里 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E6%97%A9%E5%A4%95%E9%87%8C)】
●p116 谷甲州「航空宇宙軍史 ザナドゥ高地」
紹介文:
男はタイタンのザナドゥ高地を再訪する――航空宇宙軍史、十五年ぶりの新作登場
長い劇の一つの段落として見たら十分に読めたし愉しませてもらったけれど、《航空宇宙軍史》シリーズを読んだことがないので何とも。ちょっとだけ《雪風》っぽい。未読者に長編シリーズに取りかからせるにはもうワンパンチ足りないかと。
作家詳細:
【谷甲州 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E7%94%B2%E5%B7%9E)】
●p136 牧野修「小指の思い出」
紹介文:
そこは老人だけの島。朦朧とした記憶をたよりに、妄執に駆られた男が一人訪れる。
老人モノ。このジャンル誰得だよ。
現代日本が抱える高齢化問題やらそれに伴う年金問題とかをもっと扱ってもらっても良かったような気がするけれど、あくまで内容は一人の男の復讐譚。
作家詳細:
【牧野修 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%A7%E9%87%8E%E4%BF%AE)】
●p174 Media Showcase ANIMATION
小林治が“固定イメージを打ち砕いてくれる2本”として『あにゃまる探偵キルミンずぅ』と『聖剣の刀鍛冶』を紹介。どんな固定イメージだ。
●p177 SF BOOK SCOPE
香月祥宏の紹介する川端裕人『算数宇宙の冒険 アリスメトリック!』は誉めていいのか。“作者が最新の理論を理解した上で、さらなる飛躍や解釈を加えるタイプの作品とは違い、わからないところはわからないまま、想像力を駆使して、数学への憧れのようなものも含めて小説家しているところがおもしろい”って、単純なリサーチ・知識不足で書かれたってことじゃないか。
卯月鮎の紹介ではブックオフの105円棚にあっても避けていた『シュガーダーク 埋められた闇と少女』は読みたくなってきた。今度見つけたら、という程度のプライオリティではあるが。墓を掘る仕事をしていたらいつの間にか墓穴に怪物の屍体が入ってました、なんてどうしても気になっちゃうじゃないか。
あとはタニグチリウイチが紹介している瀬尾つかさ『円環のパラダイム』はそのうち読もうと思っていたし、三村美衣が紹介する『ラウィーニア』はアーシェラ・K・ル=グウィンなので言われなくとも勝手に読むであろう作品。
牧眞司が紹介している純文学系の小説『エクスタシーの湖』は気になるところ。手法のごった煮感に振り回されてみたい。
ノンフィクション系では森山和道が紹介する石黒浩『ロボットとは何か 人の心を映す鏡』がベタながら気になる。わざわざ読むまではないと思うけれど、感じるところはあった。これはロボット研究を通して人間について改めて考えたことを記したものらしい。認知科学的に人間を研究する分野とロボット研究は相互作用し合うものなんだと思う。例えばデネットの『解明される意識』で載っていたシェーキーとかね。AIまでいかなくても、特定の人間の認識能力、つまり視ることだとか聞くことなんかをロボットの入力としてシミュレーションしようとすると、当然人間が普段自然にこなしている認識というものはいったいどういう仕組みなのかということを考え出す。引用の引用になりそうだけれど、このレビューでは“著者によれば、人間に心があるかどうかはわからないが、人間は互いに相手に心があると信じて振る舞っており、それによって社会が生まれ、また社会によって自己が生まれているのだということになる。人は全ての能力を機会に置き換えたあとに何が残るのかを見ようとしており、そんなことをし続けてきた「人間」とはどういうものか理解するために格好の存在、それが「ロボット」なのだという”とあり、なかなか納得できるところ。ホフスタッターやデネットとはまた違ったアプローチが見えるならば読んでみたくはある。
●p188 Media Showcase
宮昌太朗の紹介でアトラスの『ユグドラ・ユニゾン』が載っている。おもしろいSRPGという紹介だけど、この時期にSRPGの紹介としてこんなものを読んでも白けるだけ。何たって『タクティクスオウガ 運命の輪』がこの前発売されましたからね!現在ぼくが所持しているゲーム機はDCと360なので、『TO』をプレイするにはPSPを購入しなくてはならないのだけど、値段を調べてみると最安値で買えば『TO』と合わせても二万円するかしないか程度。更に言うとPSPを型落ち中古に妥協すれば、もっと安くなる。今はゲームに時間を割く余裕が殆どなく、エロゲも溜まっているし、次から次にやらなければいけないものが出てくるから、買っても出来なさそうなので購入は控えたが、『TO』以上にPSPを買わせるゲームが今後出てこないだろうとも思ってます。『TO』絶対にやりたいので、来年中には買うかなあという感じ。エロゲーマー的性質としては何か良さ気な初回/予約特典が付いてくれば即買いだったんだけど、タロットカードとか誰得だ。サントラとかラフ集みたいなもっと魅力的なものをさァ……いつの間にか『TO』の話になってしまった。
●p190 神林長平「確かな自己、固定・変換・解放」
紹介文:
とある惑星で発掘された〈国家〉と呼ばれる人工物。そこに隠された真実とは?
今回のSFマガジンで一番楽しみにしていた作品。やっぱり面白かった。グヘヘ。神林長平は日本人SF作家では一番好きです。ガッツリしたハードSFっぷりが楽しめる。
作家詳細:
【神林長平 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E6%9E%97%E9%95%B7%E5%B9%B3)】
●p212 林讓治「古の軛」
紹介文:
彼はなぜ、ストリンガーの死体を食べたのか!?
タイトルが伝奇っぽくて良いですね。ありすはちの首木を、なんてフレーズも『Omegaの視界』にあることだし。内容は科学用語を使わないで異種知性体との交流を画く良質な短編だった。シリーズものだけど、これだけ読んでも全く問題なかったし、この作家の他の作品は読んでおきたいと思った。
他の個体と思考内容のベースが著しく異なると、同期を取った際に軋轢が起きて死んでしまうストリンガー。まるで同期する容量が大きいと、同期先ハードが破損してしまうバグがあるバックアップソフトウェアのようです。この設定は作中で語られない部分も妄想させてくれる。彼らを作り出したイースがどうしてこのような制限機能を態々付加したかというと、おそらくは被造物たる彼らがその在り方に疑問を持った個体の思考が広まって半旗を翻したり、そうでなくともニート的な個体の思考が伝播して全体の仕事量が減ったり、とにかくコントロール不能な状態になることを抑える為だろう。状態を変化させないことを義務付けられた生命体だったわけだ。本気で考えると、その思考内容をどうやってパラメーター化して、生死判別する生化学反応になるのかとか謎だけど。新しい知識を得た後の個体のニューロン状態なんかがコンフリクト要因なら、新しい知識は母集団に全く入力されずに外界に適合できない生命体というわけだし。既存の記憶に新しいものを付け加える形ではなく、消去や上書きが多くなるとエラーが出ると考えるとなんとかなるだろうか。このへんは認知脳科学の知識がないと話が進められなさそう。
それとグラースの獲得した認識は他の個体に感覚器を通して伝えられると、受信側個体は死んでしまうけれど、母集団の各々にストリンガーの感覚器を用いた伝達方法以外で、その認識に至る事実を伝えたら問題なくミームは伝播するんじゃねーのとか無粋なことを考えたり。
亜門は、最終的にグラースがストリンガー母体に対して毒性を持ち、ストリンガーの認識からすると非ストリンガーたるものに変化した故に、彼は種族の軛から解放されたと言った。その種族であれば生きながらに知り得なかったことを知ったし、不変であるという造物主の命令をいつの間にか無効化していたわけだから。そしてわれわれ人間よりも自由だったと言っている。まあドーキンスあたりをご参照下さいという感じだけれど、人間も生存と繁殖の本能という命令が組み込まれた存在で、それに抗うことは難しい。特に極限状態などに於いてはそうだと思うのね。餓死しそうな人間が目の前に松屋の豚丼とかケンタッキーのチキンとかを置かれたら宗教上の理由とか関係なしにかっ食らうのではなかろうか(例:『そらのおとしものf』第七話アバンのアストレア)。生存せよという命令は理性によってのみ覆せる。ぼくは多分世間一般の人よりも生存したいという欲求が強い。なんたって、SFを読んでるからね。それとは別に、死という現象を体験することに対しても興味がある。それはいったいどのような感覚を伴う体験なのかは、死ぬ者にしかわからない。死というものに惹かれて種の継承を危うくするような表現形の遺伝を妨げる為に、自殺という選択肢が元来生命に宿っているならばともかく、そうでなければ自殺は本能の生存せよという命令を超えた知性に由来する行動であるのではなかろうか。亜門は一度、自らも死のうとしたが、衰弱死という難しい死に方を選んだせいで失敗してしまった。そこで自分もまた、軛を課せられていると感じた。だが彼はまた別の機会に死ぬことができる。軛は全ての生命に課せられているが、知性体であればそれを外すこともできるだろう。アストレアみたいにね。アストレア好きだなあ、オレ。
まあ自己が自己である故に背負わされている軛や、それから解放される自由というレイヤーで自由/不自由ということを考えると、そもそも我々に意識があったり実体があったりする状態、つまり存在している段階で既に一定の不自由さに縛られてしまう筈だ。これは『エヴァンゲリオン』の最終回を思い出しますなあ。
作家詳細:
【林讓治とは - はてなキーワード (http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CE%D3%EC%AA%BC%A3)】
●p234 梶尾真治《怨讐星域》第十三話「減速の蹉跌」
紹介文:
宇宙船を減速する手段が失われ、ノアズ・アーク計画は瓦解しかかっていた。
止まれなくなっちゃった宇宙船といえばポール・アンダースンの『タウ・ゼロ』。その中で不安を感じながら暮らす人々は少年少女たちではないけれど、『無限のリヴァイアス』のような空気を感じた。まあ内容はTwitterの140文字でなくとも要約できるくらいなので特に何か感じるところのある作品というわけではないし、むしろ突っ込みどころが多い。ご都合主義すぎやしないだろうか。《怨讐星域》っていうタイトルは格好いいなあとか思いました。
作家詳細:
【梶尾真治 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%B6%E5%B0%BE%E7%9C%9F%E6%B2%BB)】
●p254 新城カズマ《あたらしいもの》第2話「議論の余地はございましょうが」
紹介文:
夏の参議院選挙に立候補した田楽政樹候補。しかし、その街頭演説の背後では?
Twitterやらセカイカメラやらベーシック・インカムやらのキーワードに加えて、文章自体も今時の流行ものという感じ。好きじゃないです。そっちが書きたいなら社会派小説でもどうぞ、という感じ。ライトノベル畑の作家らしく、紹介文では『15×24』という作品が紹介されているが、ぼくは集英社スーパーダッシュ文庫は核地雷級の駄作しか読んだことがないので信用ならんレーベルという印象しか。
作家詳細:
【新城カズマ - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E5%9F%8E%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%83%9E)】
●p272 北野勇作「路面電車で行く王宮と温泉の旅一泊二日」
紹介文:
私は路面電車でこの街に帰ってきた。王宮と温泉で知られる懐かしいこの街に。
“王は、王宮のあらゆる点に遍在しているのだ”。かっけぇ……巫山戯たタイトルとは裏腹にかなり気に入った。端的に場面や情報を切り取った文章もいいし、全体に漂う幻想的な雰囲気も素晴らしい。レイルソフトというか希テキストというか、イメージとしてはそんな感じ。他の著作も読んでみたい。
作家詳細:
【北野勇作 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E9%87%8E%E5%8B%87%E4%BD%9C)】
●p286 小林泰三「囚人の両刀論法」
紹介文:
古典的命題「囚人のジレンマ」の、究極的解決法とは?
ヤスミンは短編集を三冊読んだけれど、未だに実力が図りかねる作家。内容がよく理解できないとか、そういうわかりにくさではない。読んだ直後は面白いと思うんだけれど、冷静に思い返すと特に好きなものはなかったりして、どのあたりに評価すればいいのか迷ってしまうということで。いや、今回の「囚人の両刀論法」は面白かったですよ。だからまた困惑させられているんだけれど。
触発されてブルーバックスで刊行されているM・D・デービスの『ゲームの理論入門』を買ってしまった。〈囚人のジレンマ〉を拡張した問題は昨今話題のフリーミアムの問題にも関連するような気がしました。
ところでイデアルとペンドラゴンの会話なんだけれど……
「これは?」ペンドラゴンは尋ねた。
「リングだ。この段階ではニーヴンのリングと言ってもいい」
「リングワールドは力学的に不安定だ」
……って、こいつらSF者だろ。
作家詳細:
【小林泰三 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9E%97%E6%B3%B0%E4%B8%89)】
●p312 田中啓文「カッパの王」
紹介文:
正彦がカッパを目撃した日から、周囲ではさまざまな超常現象が起きて――
うわ、すげーバカSFだ。『時間衝突』なんかを「バカっぷりが面白い」と言われてもよくわからないけれど、これはワロス。かっぱ寿司関係ないだろwww……と、ついつい「ワロス」とか草を使ってしまう程に愉快。全然行く機会がないけれど、かっぱ寿司に行ったらこれを思い出してにやついてしまうだろう。色々と無茶があるけれど、たまにはこういうのも悪くない。
作家詳細:
【田中啓文 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E5%95%93%E6%96%87)】
●p331 SENSE OF REALITY - PSYCHOLOGY 香山リカ「突然“キレる”子どもたち」
流石にこれには反駁しなくてはならない。我々人類は香山リカが(本気か建前かは兎も角として)夢想している程には平和的で余裕のある存在ではない。小学生の方が喧嘩をするし、大人と子供よりも子供同士でやり合う方が多いに決まっている。喧嘩をしてしまうのは幼児性から起因する万能感でも何でもない。交渉が決裂したからぶん殴るしか解決方法がなかっただけ。それは政治と同じでシステムの問題だ。それを心理の問題として「等身大の自分」とか、わけのわからない点に着地させる信仰のようなものこそが、ぼくに言わせれば害悪だ。心理の問題なら暴力行為を行うと頭痛が生まれる(ナンシー・クレスの《プロバビリティ》シリーズの〈共有現実〉みたいな)ようなロボトミーでも全人類に施せばよかろう。喧嘩してしまうのは先ず、片方がもう一方のルールを侵してしまうことからはじまる。そこで交渉が始まるが、どちらも譲れないラインがあるから手を上げる。我々が大人となって社会を形成し、個人なり組織なりで暴力行為に及ばないのは、ペナルティとリスクがあるからに過ぎない。多くの場合、子供には大したペナルティもないし、リスク計算もする必要がないし、監視する大人も大してよく見てないし、制裁も適当。そんな状況で個人が必要を感じた暴力が抑制できるとは思わない方が良い。非暴力の信仰は暴力で暴力を抑える現実よりも悲惨なものを呼び込みかねないからだ。
●p362 冲方丁「メトセラとプラスチックと太陽の臓器」
紹介文:
メトセラ第一世代を妊娠した我が嫁は、プラスチックの夢を見るように――
子供が三百歳程度の寿命になるからって心配しすぎじゃねぇの?とは思うが、親というのはそういうものか。悪い意味じゃなくて寧ろ良い意味でね。この生まれてくる子供たちは三百歳の寿命があっても、それすら短いと思うようになるんだろうな。それが人間ってモンです。
作家詳細:
【冲方丁 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%B2%E6%96%B9%E4%B8%81)】
●p374 小川一水「アリスマ王の愛した魔物」
紹介文:
小国の王子アリスマは醜悪で身体も弱かったが、恐るべき算術の才があった。
短編集『老ヴォールの惑星』がいまいち馴染めなかったので、あんまり積極的に読もうとは思わない作家。とは言えつまらないとかわからないとか、そういうのではなく優先順位が低いだけ。この人の作品は軽口というか、悪く言えば底が浅い。これは文系が書いた理系への憧れが込められているような内容だったな(小川一水が文系か理系かどうかは知らないし、実際に勉強すりゃ関係ないんだけれど、あくまで感覚としての話)。だから数理SFというジャンルには入らない。
読みながら従者の正体はホエバトティホルの化身かとも思っていたがどうにも違う様子。明確には語られないけれど、“それの精”とあるからラッカーの「ピュタゴラスの平方根」(〈S-Fマガジン〉二〇〇二年七月号に収録)に出てくるアペイロンの生物のようなものなのだろう。
作家詳細:
【小川一水 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B7%9D%E4%B8%80%E6%B0%B4)】
●p394 円城塔「エデン逆行」
紹介文:
わたしには祖母が六人ある。わたしが祖母その人なのでそうなっている――。
キィィ!わからん。日本語でOK状態であるが、これは楽しめなきゃ負けな気がしないでもないし。どなたか解説やらヒントをお願い致しますよ。最後に書かれている『シェルピンスキー=マズルキーウィチ辞典』たる万能辞書の説明はボルヘスの〈バベルの図書館〉っぽくもあり、且つそれをデジタル情報として収蔵されたもののようにも思えるが、だからと言って答が出るようなものでもない。しかしわからないながらも、つまらなさを感じさせないのは流石だ。これが短篇じゃなかったらちょっと怖いけれど。
作家詳細:
【円城塔 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E5%9F%8E%E5%A1%94)】
●p406 山本弘「地球から来た男」
紹介文:
その密航者は、いまどき抗老化処置も受けていない非近代的な男だった。
山本弘は大評判の『アイの物語』が甚だしく受容できない内容だったので信頼感がない。むしろ「もう二度と読むことはないだろう」の域にある作家……ですが一応読んでおきますか。
『アイの物語』に収録されていたどんなものよりもマシだった。古臭さは相変わらず。肉体改造やARに対するキッチュとも言えそうなパルプSF的な楽観描写が好みじゃない。基本的に「善いお話」を書く作家なんだろうし、今回もそうであった。それが悪いように作用して不快感しかなかった『アイの物語』と比べて、こちらは自然信仰が技術による個人の権利を抑制することに対するプロパガンダ小説的なもので、どちらかと言えば好ましい。自分で読んでも何とも思わないけれど。
作家詳細:
【山本弘 (作家) - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%BC%98_(%E4%BD%9C%E5%AE%B6))】
●p429 創刊50周年記念エッセイ 新井素子「SFマガジンと私」
新井素子の本を読んだことはないが、この前何かが復刊したということで復刊ドットコムから紹介のメールが届いていた。このエッセイを読んでもともと高くなかった優先順位がさらに落ちた。ぼくも人のコトを言えないくらい読点を用いるが、この人の頻度は並じゃねえ。一ページのエッセイなのに読んでいて辛い。
●p430 森岡浩之「気まぐれな宇宙にて」
紹介文:
「ポジション」の発見は人類に新たな宇宙時代をもたらした。ただしちょっと歪な。
うわ、面白いな森岡浩之!《星界》シリーズ読もう……
ランダム性のあるワープゲートでギブスンの「辺境」を思い出しました。ワープゲート自体はよくあるアイデアだけれど、ランダム性があってどこに行くのかわからないし何が出てくるかもわからないっていう方が愉快。異種知性体の素っ気ない態度も面白い。お前らの未発達な文明には興味ないから、みたいな。でも中にはヒッチハイクさせてくれる種族もいたり。
作家詳細:
【森岡浩之 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E5%B2%A1%E6%B5%A9%E4%B9%8B)】
●p448 菅浩江「夢」
紹介文:
SFが好きな僕はよく言われる。「夢を見ろ」あるいは「夢ばかり見るな」と。
ぼくもSFが好きだ。そして世界が早くSFになればいいと思う。
内容はカイパーベルトで発見された二酸化炭素レーザーのパターンを見つけ出すサヴァンの話。そういえばぼくが通っていた小学校には障害者学級というものがあった。ぼくらの普通の学級とは授業内容も教室も違ったんだけれど、ごく稀に同じ部屋で給食を食べさせられたりしたんだが迷惑この上なかったことを覚えている。子供の頃は特にそう思うものだ。ぼくの年齢でも障害者を嫌う人はいるし、確かに涎をかけられたりするのは嫌だし、彼らの会話に付き合うのは難しいけれど、基本的に彼らが悪いわけではないからぼくは無駄な差別はしない。あるのは区別と同情だけだ。脳の物理的な機能障害でしかないとわかっているから不当に虐げることはしない。同情するなんてひどいと思われるかもしれないから一応書いておくけれど、そう言う人は同情という言葉の悪い側面に捕らえられているんだろうな。あくまでぼくは、ぼくら大勢とわかり合えない人は寂しいと思うし、不便も多いだろうという事実から同情しているだけ。例えば世界で一番普及している英語という言語を扱うことのできない人を英語話者が同情するのはある面で正しいとぼくは思っている。そういうこと。今回の話に登場するサヴァンたちも、その特異な能力を持ちつつも社会適応できた方が大抵の場合は幸せだろうし。
作家詳細:
【菅浩江 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8F%85%E6%B5%A9%E6%B1%9F)】
●p474 野尻抱介「コンビニエンスなピアピア動画」
紹介文:
プロジェクトは地方のコンビニから始まった――星雲賞受賞短篇の姉妹篇登場
クモとニコ動とファミマSF。ニコ厨は楽しめるのか?ぼくはニコ動を見ないので何とも。2ch、ふたば、はてな、ニコ動……色々なところには色々な空気(ノリ)があるが、その中で馴染めてないものの一つがニコ動。そのノリを小説に多いに鏤められているわけじゃないけれど……わかるでしょう?
ご都合主義進化した節足動物を宇宙に射出したら大抵思い通りに動いてくれないのがテンプレだ。それをどう使うかは別問題で。
作家詳細:
【野尻抱介 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E5%B0%BB%E6%8A%B1%E4%BB%8B)】
●p531 今月の執筆者紹介
金子隆一はエッセイもおもしろかったけど、このコメントも面白いな―。以下引用
出張で十日ほど家を空けていた間に空き巣に入られた。賊はネコの出入口から浸入し、キャットフードを平らげた上、机の上にあったカンロ飴の包み紙を全部むいて食いやがった。くそっ、アライグマめ
以上。トリの野尻抱介を食ったぞ!
登録:
投稿 (Atom)
![S-Fマガジン 2010年 04月号 [雑誌] S-Fマガジン 2010年 04月号 [雑誌]](http://lh5.ggpht.com/_6Qxc00hG1GI/TRdUbB-JaWI/AAAAAAAABUk/lq7lAA8-Wlg/s800/S-Fmagazine2010-04.jpg)
![S-Fマガジン 2010年 03月号 [雑誌] S-Fマガジン 2010年 03月号 [雑誌]](http://lh3.ggpht.com/_6Qxc00hG1GI/TQ_lHPrf24I/AAAAAAAABUI/VIOqdfoWH4Y/s800/S-Fmagazine2010-03.jpg)
![S-Fマガジン 2010年 02月号 [雑誌] S-Fマガジン 2010年 02月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/519prsJ1hsL.jpg)