2010年12月19日日曜日

ホエール『俺の彼女はヒトでなし』体験版

俺の彼女はヒトでなし

「先輩って何者なんですか?」
「我は、我であるッス」

 『Hello,good-bye』と並んで十二月のダークホース(『Hello,good-bye』はもう発売されて感想も書かれ始めているけれど、この短期間でクリアした人の感想をぼくはあまり信用してない)。タイトルとビジュアルが地味なのであんまり盛り上がりそうにないが、チェックしておきたい作品。どことなく漂うチープなイメージを覆されるわけではないけれど、キャラクターの魅了はなかなかで、意外とおもしろい。製品版で補足されるであろう部分が大量に省略されているので仕方ないのけれど、ここまで流れをメチャクチャにしてもエロゲーの雰囲気ってそれなりに成り立つのを実感させられた。抜け落ちているエピソードがあるので気持ち悪さが残るが、その足りないところを補完したいという欲求を呼び起こさせる力はある。ギャグの掛け合い、登場人物のアクの強さに加え、仄めかされる謎などで、ビジュアルや音楽などの安っぽさを十分にカバーできている。
 強烈な設定の登場人物たちの物語をどう説明できるかが製品版でのひとつのポイントになるのではないだろうか。まずプロローグからしても全員の正体がいっせいに明かされるのは偶然にしては出来すぎ。後半に提示されるであろう各人の課題――要するにシリアス展開に於ける問題、障害のこと――も、問題解決能力に優れたメンバーですら困難に感じるようなものを持ってこないといけないと思う。盟依と燈は超越的な力を使えるっぽいし、衣緒は拡張性がある……というよりはマッドが開発能力ありすぎだし、さらに学長は『ドラゴンボール』の世界の人だし、クラスメイトはプレコグ。それでいて権力と財力もそれなりに備わっている。宇宙規模の問題すら解決できそうな連中にどんな困難が与えられるのだろう。『のーぶる☆わーくす』の登場人物たちは権力や財力もある良家の人間でも、結局は社会の構造の中に閉じ込められているし病気や事故などには叶わないが、この作品の登場人物はそんな普通の障害は容易く乗り越えられそう。もしも後半のシリアス場面で「魔法使えよ……」みたいになってしまうとせっかくの熱が冷めてしまうことは予想できるので、そのあたりどうなるか気になります。あ、でも電子レンジがなくなったら魔法使えないのか。じゃあ仕方ないか!
 ヒロインたちの外見と正体の不一致ぷりは爽快に既成観念を崩してくれる。魔女はこの中で誰かと問われれば名前と外見しか情報を与えられなければ殆どの人がアリスだと言うだろうし、ヴァンパイアは衣緒。残る選択肢でわかりやすいライカンスロープとアンドロイドは日向か燈に当て嵌めて、消去法で盟依が空気……そんなわけで全員の正体を開始十分もせずに明かしてくれるこのゲームだけれど、限定された情報だけ与えられるとおもしろいくらいに正体がわからなかったりすると思う。だから何だってワケじゃないけれど、こういうところにスタッフの業界テンプレに対抗する意志が垣間見えたりもしているのかも。アリスの私服もエロゲーじゃ標準ちゃあ標準なのに突っ込まれまくりだし。突っ込むところそこじゃねぇから。
 また、文学的或いは民俗学的なバックボーンがありそうなメンバーなのにそういうことが一切語られないのも意外。衣緒はマッドの独自開発(つーのも本当にすごすぎだけど)だし、燈は正体不明だから良いとして、魔女とヴァンパイアとライカンスロープの由来については体験版でまったく触れられていなかった。盟依は後天的に能力を身につけ、日向は長い年月を生き、アリスは親からの遺伝という話だけはちょっと語られていたけれど、それぞれの特殊な形質がどういう由来を持つかという点についてはびっくりするくらい説明がないし、主人公も求めない。これも製品版で補完されるのかもしれないけれど、やっぱりもう少しゲーム世界の設定情報を与えて欲しかった。謎が残っているようで、残ってないのかもしれなくて、だからこそダークホースなんだけれども。
 最後に好きなキャラクターについて。SF者としては当然ながら衣緒が好きなんだけれど、作中ではアンドロイドなんだから数学ができなきゃダメだろと突っ込まれている。違うよ、全然違うよ。彼女の性質は計算機械であるコンピュータとは異なり、あくまでも人工的に造られた人間の模造品というところにある。ブースターとかレーダーとかの拡張性は大して重要じゃなくて、あれは人間がブースターやレーダーや他の色々な道具を使うのと基本的には変わらない。彼女はヒューマンフォーム・ロボットでありヒューマンシミュレーションモデルでもある。wikipediaの人造人間エントリ【人造人間 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89)】にも“アンドロイドという物は人造物で、人間と同じ物を構成して「ほら、人間が出来ただろう」と言う為の試行的産物であり、生体医工学の極致である。それは発生当初から「人の代わりに働くもの」として定義されているロボットとは、そのアーキテクチャにおいて一線を画し、道具としての意味はもたない。”とある。あまり人付き合いが得意でない日向が衣緒をポンコツとかスクラップとかクズ鉄と呼ぶのはある種の友情を含んでいるのだろうけれども、「クリスタルの夜」とか「灰色の車輪」を読んでいると、その呼称はちょっとひどいと思っちゃう。がんばれ、衣緒。

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