
アニメ化ということを聞いて、放送前にプレイしておこうと思ってたら、いつの間にかアニメがはじまっちゃって、ギリギリ追いつく前に終えた。アニメの方は殆ど期待されていなかったのに反して、かなり巧く出来ていて、実際に楽しく視聴している。ところがこの原作はびっくりするほどつまらんかった。奈緒と初佳のシナリオだけは許す。
なんというか、難しい題材を選択して失敗しちゃった感が。やったことがあるゲームの中では『そらうた』(ただしファンタジー的設定は抜きにして)とか『さくらむすび』とかに雰囲気が似ている。類似点は田舎が舞台で、サスペンスな展開とは縁がなく、基本的に登場人物との会話による交流に、文章のほとんどが割かれているように感じるところ。さらに謎を漂わせる発言や、それとは逆のコメディ調のやりとりもこの種のゲームとしては驚くほどに少なく、どちらかといえば、我々の生活にありそうな会話でリアリティを感じさせるところか。要するに幻想小説じゃなくて普通小説系ね。少なくとも社会派小説ではないんで。世界観の設定が物語に強く影響するもの(つまりSF、ホラー、ファンタジー等の幻想文学っぽいものを、ここではそう呼ぶことにする)はその設定自体が強みになるだろう。コメディタッチなものも普段の笑いでプレイヤーと登場人物の距離が近しくなれば、シリアスな文脈に入ったときに、対象キャラクターに救いがあってほしいという隣人愛的な感情(倫理観と言ってもいいだろう)に訴えるものがある。どのみち、同じシリアス文脈を読むときには、それ以前の文脈が物語というものでは重要になると思う。こういう大人しい物語では主要登場人物、特に主人公にどこまで感情移入できるかというのは大切な問題だが、ぶっちゃけ無理でした!きっと「上品さ」というものを目指したんだろうなあ。
以下、各シナリオについて攻略順に感想。
●奈緒:
まともなシナリオその一。人気のないヒロインだけど重要人物。不遇すぎて辛いけど、それもほとんどのプレイヤーが穹を好きな故か。ぼくは割と好きです。普通に良い人だし、穹シナリオでも大活躍だし。幼なじみの主人公が戻ってきてくれたのを素直に喜んだ彼女。昔日の逆レイプ事件は悠と互いに話題に出さぬようにして、改めて良い関係を築こうとした。けど逆レイプの現場を直に見てしまっていた穹には許せなかった。もちろん遥も奈緒も、穹に知られていないと思っていたし、自分たちが穹の世話をしていると思っていたから予想外の反撃だったわけで。その時に妊娠はしていなくても、一度でもセックスを体験した子供というのに対して、大人たちはより管理責任を重く背負わされて、それに穹も巻き込まれてしまった。知らなければ何に巻き込まれたかはわからないままでいられるけれど、知ってしまったし、そもそも第一発見者だったし、穹としては色々と辛い立場だっただろう。最後には主人公が穹を説得して、穹は奈緒を許す心境になるのだけれど、過去に何をしでかしたかを考えると、穹に対面すべきは奈緒だったのではないかと思う。ここでちゃんと穹と話し合えれば眼鏡ウザイとか言われなかったのに。もちろんそういう場を設けられなかった主人公がショボいのがいけないんだけど、それは期待しすぎか。
●一葉:
残念ながら全ヒロインのうちでもっとも頭の悪い印象を受ける。人間の付き合いに限らず、生きていく行為は須く物理的リソースの消費を伴う。一葉シナリオでは遥から離れて瑛と共にいようとした一葉。それはいいんだけど、暗に瑛は一葉からプレッシャーを与えられているようで見てられない。お前さえいなければ、とは思っていないんだろうけど結果としてはそういうこと。そういうのがわかってる瑛は自分から一芝居打つ。その芝居を真に受けて、一葉は自分の浅はかさを知る。結局、その浅はかさも(とは口に出さないけど)受け容れると言った遥と結ばれるわけなんだけど。瑛シナリオでもこの子の対人関係の感覚は極端であるのが露呈する。特に語るべきことはない。空気読めないけれど悪い人ではないという娘さん、ということで亮平とは似たもの同士の同族嫌悪みたいな感じか。
●初佳:
まともなシナリオその二。奈緒と初佳くらいしかマトモなシナリオがないというのが何とも。奈緒や一葉に比べると、主人公がかなりモノ化というかエピクロス派の形而下の欲望というか目的物みたいな。だから「悠の」/「悠と初佳の」物語ではなく、あくまで「初佳の」物語。
就職や仕事や合コンが上手くいかずにアイデンティティが損なわれた女性と言ってしまうと安っぽいけど、そんなことはない。誰だって人から見たらどうでもいいようなものにしがみついていたりする。本人としてはそういうトコロは弱くて、情けなくて、落ち込んでいる自分を他人に見せたくなくて、だから敢えて明るく振る舞ってたりするんだけど。実際に初佳ほど溌溂に振る舞うのはものすごく難しいんだけど、そこは虚構の良いところ。でもそんな風に途中から思ったりしたものだから、明るく振る舞う初佳を見ると少しだけ悲しくなる。
ちゃんとエッチできてるのかってのも気にしそうなキャラクターだから、その流れでいつもなら割とどうでもいいエッチシーンも比較的真面目に読んだりした。三回あるうちの最後のだけは流石に呆れたけど。
しかしこのシナリオの主人公はホント、奈緒とか穹に顔向けできない。穹が超怒るのも無理ないわー。セックスそれ自体が神性であったりとか、逆に猥褻なことだとは思わないけど、奈緒シナリオをやった時に、責任の取り方を重く考えていたように主人公が言っていたから、あんまり考えないうちにエッチして欲しくなかった。奈緒と一緒になって初めて幼い頃のセックスを考え直したと言われればそうかもしれないけど。しかし穹のことを考えているのが唯一の良いところだった主人公が突然朝帰りしちゃうのはなあ。気持ちはわからんでもないけど、こういう優先順位がブレまくるのも、この作品の主人公が不評な理由の一つだろう。
モトカレが絡んできたときに主人公を振る描写はある意味で一葉と似てるのだけれど、一葉は他者の存在が重要で代替不能なんだけど、初佳はここでも執拗に自分のアイデンティティを求め続けている。こういう人物はキャラゲーに合ってないんじゃないか。さらに、もしもどちらの男を逃がしてしまったとしても、酒を飲み、仕事をすれば忘れることができそうなあたり、ダメイドではあるがやはり社会人ではある。しかも実家暮らしで、特に生活自体は困っていない……つまり他のキャラクターと違って家庭環境が複雑ではない。もう何でこの人の為に一本のシナリオが書かれたのか謎なんだけれど、亮平のフォローとしてだったりするのかもしれない。亮平は馬鹿で空気が読めないけれど、決して悪い奴ではなく、馬鹿なりに善くあろうとしているということを書きたかったのかもしれない。
他のルートでも海に行く時に引率として必ず登場するけど、その時の描写がまた好きだったりする。上司抜きで適度に力を抜いたサバサバ感とか、でも年上としてなんだかんだで一行に軽いサービスをしていたりするところとか。まあ酒で記憶が飛んじゃう先輩とかいうのは往々にして厄介だったりするんだけど……これはまた別の話だ。
●瑛:
表面上は典型的なゆるキャラ(という言葉を誤用してるかもしれない)とか天然とか呼ばれるような〈うぐぅ系〉性格で、その描写方法がいちいち不愉快。「あはー」「わくわく」とか喋らせちゃう人、嫌いです。でも本当はいつも人に気を使っている。下瞼の線がくまにも見えて、ああやっぱり疲れてるのかなあとか。養父の亡くなった後は一人で神社に住んで管理もしている。境内の掃除は日課になっていて、そんなに大変ではないと言うけれど、デートで掃除機を見ていた時に庭の掃除に使えたら楽、というようなことを言っていた。そういうちょっとしたところからも苦労が伝わる。
他人を傷つけるよりは自分が傷ついた方が良いという考えは、誰にとって良いのかというとあくまでも自分にとってでしかない。ダメージの受け方が違うし、どちらの方が総ダメージ量が多いかはともかく、自分が傷つくことを選択するならば多くの場合に能動的行動を起こす必要がない。初回アクションを起こさなくていいだけラク。もちろん選択によって最終的な着陸点も大きく変わることがあって、瑛はその分岐で悩んでいて、その性質は日常にも当然のように浸透していったような気がする。とはいえ、そこまでオレオレな人でなければ彼女ほどではないにしろ、ある程度の遠慮というものは常にある。人に気を遣って、それで上手くいけば、それはそれで嬉しいことでもあるということを許容してくれる物語もまた、一つの正解だったのではないだろうか。
そもそも両親からの愛を享受したことのない十代後半の子が、今更それを求めるかという疑問がある。特に自分を今まで邪魔者のように扱っていた一葉の母親が本当は瑛の母親だとしても、互いに大きな不利益にしかならないような気もする。家族が大切な存在という感覚は、過去から現在に至るまでのきちんとした形がある上で成り立つものであって、血縁関係や同居しているという形式的なものだけからは生まれないと思う。だから瑛の親は彼女を養子として引き取ってくれた神社のお爺さんしかいないんだと思う。
そして瑛シナリオの悠はホントに何がしたいのかわからん。まったく共感できないという最悪の状況だったが、この愚者がどういった着地点に至るのか、というひどくネガティブな読み進め方をした。でも一方で、彼の気持ちを嫌味な形で理解できるようにも思える。当事者が事実関係を隠しているのは殆ど苦もなくやっていることでも、他者がそれを知ってしまうと放っておけないというのは。それこそやひろが言うようにお節介というものなんだろうけれど。自制が利かないだけ、という話かもしれない。面白半分という気持ち。だから本当はそんなことはやってはいけない。
しかもオチは、当事者たちにとって忌むべき事態が真実である可能性もあり、それを隠蔽していたが、確認をとったところそんな真実はありませんでした、というもの。ど、どこで感動すればいいんだってばよ……たぶん、隠し事に対する長年の蟠りが解消され、自由を得られたと捉えればいいのだろう。本人が最初から大した心理的圧迫を感じていたようには思えないので、下手に引っかき回したようにしか受け取れないんですが。たぶん瑛と一葉の本当の親がどちらかということがわからないままでも、エピローグの風景は画けたはず。特定の終状態に至る経路が複数あるのはわかるんだが、それにしてもねぇ……
●穹:
ソランザムなどなかった。こういう妹が出てくると近親相姦の背徳感がーと言う意見が多いと思うけれど、自分としてはそういうのは少なくとも今回はどうでもよいからせっかくの双子という設定を重視して欲しかった。ドッペルゲンガーとしての相手。自身は相手にとって同遺伝子プールから発現した別のバージョンの個体である。互いの中に、一人の人間としては決して得られない、失われた生命の源が垣間見られる……とかを希望していたんだけれど、さすがにそれは無理か。
実際にプレイする段階ではさすがにテンションが上がった。見た目がとても良い。小柄な上に、立ち絵では肩を広げないし、画面に対して身体の正面を向けていないから、上半身がとてもすらっとして見える。どう考えても本作一の美少女。下半身にも無駄な影が落ちてなくて綺麗だ。一人だけ長袖にしているのも、いかにもって感じだけど、これでプレイヤーが彼女の線の細さを勝手に補完できる。口数があまり多くないというのも巧妙な罠。プレイヤーの勝手な〈最高の美少女補完機構〉的なるものが働いて、直接に語らぬことが返って多くを語る。口を開かなければ……とはまた違うけれど、シナリオライターに余計なことを書かせなければ、みたいなところはある。
どうでもいい話。穹を見ていて思ったんだけれど、ツインテールって不思議な視覚情報を与える髪型だよね。房になっている部分は線的な輪郭を与えるけれども、細い房だから中の重みは感じさせない。房を見なければベリーショートになる。このへんの違和感はツインテールやポニーっぽい髪を描く時にも感じる。顔-身体の左右に房があるだけで、ここまで印象が変わるというのは、人間の認識能力の特徴なんじゃなかろうか。実際の量は多くなく、モニタなり視覚素子なりの面で大きく面を埋めるわけじゃないのに、パッと見て素早くショートではないと認識される。コンピュータでこういう認識ができるのだろうか、などと考えたりした。どうでもいい上に関係ない話でした。
穹√では他のシナリオではまったく活躍の場が与えられない委員長が大活躍だったり、瑛も他のシナリオ以上に神性とまでは言わないけれど、元来の洞察力による力強さを感じさせてくれるのが良い。奈緒も当たり前のように絡むが、本人のシナリオよりも強さが伺える。その一方というか、案の定というか、主人公はどーしょーもなく愚かなのであった。何度も穹と身体を重ねた後に、人に知られてしまったから、やっぱり元の兄妹に戻りましょーって……穹が仮に「そうだね、いけないことだし止めよう」と言っても、他人に知られてしまった事実は変わらないのに。何故ここまで男たちをとんまに描写するのだろうかと思う。主人公の友人役の亮平も、初佳シナリオでフォローはあるにせよ、馬鹿な男として画かれる。シナリオライターがどこまで考えてこれらを書いているかってのは、もう二度とこのシナリオライターの作品は触れないだろうし別にどうでもいいんですが、これが意図的だと男という性について否定的なんじゃないかなと邪推せずにはいられない。
多くのプレイヤーに瑛と穹の√が評価されている理由というのが気になる。ぼくはシナリオは兎も角、キャラクターとしてはこの二人は他のヒロインと比べて、自分から不幸をある程度受け容れてるところに魅力を感じる。瑛は現在進行形の不幸だし、穹は悠と関係を持ってからの未来の不幸。しかもこれらが解決不可能だと割り切ってるから迷いが少ないし、想像力があるから洞察力も鋭い。初佳はともかく奈緒と一葉もそれぞれの決意を持っているけれど、その性質が違う。各自の選択の是非はそれを知ったプレイヤー各人によって異なるけれど、決断への一途さという魅力は瑛/穹が一歩進んでいる。それとは別にやっぱり喋り片とか見た目とかは可愛い。はじめて卵が上手に割れた時の穹ちゃんスマイルでブヒった人は多いのでは?

また、クライマックスのエッチシーンの導入が唐突という意見もあるけれど、あれは別に唐突でも違和感なかったかな。つまりそういう行為が非家族たる他のヒロイン以上に二人の関係の象徴であり、互い関係の継続を了承した後のある意味で自然な行動だったのではないだろうかと。あと瑛が説明してくれたように、湖が人生の再スタートの場所という象徴として捉えられるなら、二人の関係が始まりを告げた行為を再度演じるという意味もあるんじゃなかろうか。そうでなければ、最初の会議で決まったエッチシーンの回数合わせに加え、もう絵も上がってきちゃったから濡れ場にしなきゃいけないから無理矢理入れた、という自体が予想されるわけで、そうなると唐突以外のナニモノでもないわけですが。個人的にはクライマックスの湖セックスよりも、帰省した後に口調が変化するところが気になった。主人公もある程度唐突だと感じるところだが、それにしてもちょっとやり過ぎ。寡黙とまでは言わずとも、あまりハキハキ喋るイメージが前半ではなかったのに、後半では一転して台詞を淀みなく読み上げているかのようでゲーム内世界での不自然を通り過ぎて、ライターと声優の存在感を感じさせる不自然さだった。
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