2010年11月13日土曜日
<S-Fマガジン>二〇一〇年一月号
〈S-Fマガジン〉をこんなに隅から隅まで読んだのははじめて。図書館はたまに使っていたけれど、雑誌コーナーは殆ど見ていなくて、本誌があるのを知らなかった。割と多くの図書館に置いてあったので少し驚く。以前古本で買った〈S-Fマガジン〉から十年程刊行年月が開いているが、とりあえず区切りの良い今年の一月号「創刊50周年記念特大号 PART・Ⅰ 海外SF篇」というのを借りて読んだ。以下はそのメモ、感想。
この判で五三〇ページちょいだから、平均的な文庫四冊分くらいか。かなりのボリューム。値段は二五〇〇円する。創元SF文庫とかを新品で四冊買うと四〇〇〇円だし、ハヤカワ青背でももう少し安くなる程度だから、色々読めるアンソロジーとしてはちょっとだけ安いって感覚か。
●p162 連載評論 中野善夫「黄金の薄明かりの向こうへ 第一回 理想郷への帰還と未知の世界への旅立ち」
おもしろいけどファンタジーのファンからは反撥があるだろうな。そして、それでいいのだ。肯定(定立)>否定(反定立)>否定の否定(総合)、でレベルうp。ヘーゲルのいう弁証法的発展とか否定的思考ってヤツ。
英雄が目的を達成した後の無力感はわかる。画なり文章なり何らかの技芸に於いて、仮に最高のものができてこれ以上望めなくなってしまったら、そこで全てが終わってしまう。とは言え、これは現実ではありえない状況だろう。現実的には、ゲームAをフルコンプしたら別のゲームBをプレイすればいい。無力感は孤立している状態でより一層強くなるが、開放形では緩和される。ただしゲームAに永遠に浸っていたい欲求もまた存在するので、ノスタルジーという感覚はまた別に存在する。
永遠の持続性や停滞について。状況によってその評価は変わる。それらが完全な停滞と倦怠で、何ら進歩的なものが物理的に否定される状況ならそれは打開されたい。ただしその停滞ならば、意識というものが存在しない筈なので、そもそも打開されたり否定されたりするものがない。なぜ意識というものが存在しないかというと、例えば私たちが一切の外部刺激がない空間で孤立していながら、永遠に生きられるとする。そういう場合にも思索という進歩が存在する。進歩が存在しないというのは逆に意識がないということではないだろうか。享楽にせよ苦渋にせよ、そういう状況でも意識があるなら停滞や永遠というものは肯定したい。
とは言え、そういう状況は現実にはありえないし物語にもなり得ないので、どうでもよろしい。最近のオタクカルチャーのフィクションで有名で、この永遠性を扱ったものは、『鋼の錬金術師』がそうかな。(注:先に言っておくとぼくはアンチ『ハガレン』です。これから面倒な批判をします。『ハガレン』が面白いというなら、まずその巫山戯た幻想を……あ、『禁書』も嫌いだった……)アルフォンス・エルリックは有機物の人体を失って無機物の人体を獲得している。この構造体は堅牢だし、私たちの身体のように食事や睡眠を必要としないし、劇中ではそれなりにポピュラーな技術の錬金術によって簡単に再生可能。そういうことだから、当然死というものはない。Turritopsis dohrniiより羨ましい。しかし劇中では度々、正常な人間ではないことを本人も周囲も嘆く。これはぼくにとっては完全に意味不明で、不快感すら覚えた。つまり五体満足健康ながら数十年で死ぬというのが正常な人間であって、争いがなく周囲と友愛を深めるのが正常な環境だとされ、それらが無条件で正義と変換されている。永遠性を否定しつつも、多様性という進歩も否定している。ここでは熱的死は想定されず、生命の循環こそが永遠だという無邪気さと無知がある。これは多くの人々の在り方への肯定なんだと言われても納得しない。肯定されるべきは大衆ではない。
●p10 テッド・チャン「息吹」(大森望訳)
紹介文:
今、ここに刻む。わたしがいかにして、生命の真の源を理解するにいたったかを。
テッド・チャンの滅亡ものって始めてだよね。滅亡ものだけれど、一欠片の希望は感じられる。個体の死を乗り越えた種への貢献というものに何となく似ている希望にも思える。とはいえ悲壮感があまり感じられないのは、実際にそういう描写がないからでもあり、しかも物語に登場する人々が生物として我等人類とは異なったものだからであろう。
作家詳細:
【テッド・チャン(Ted Chiang) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfc/chiang.htm)】
wikipedia:
【Exhalation (story) - Wikipedia, the free encyclopedia (http://en.wikipedia.org/wiki/Exhalation_(story))】
Online:
【Night Shade Books presents Ted Chiang's "Exhalation" (http://www.nightshadebooks.com/Downloads/Exhalation%20-%20Ted%20Chiang.html)】
Free Podcast
【Ted Chiang's story Exhalation -- free podcast - Boing Boing (http://www.boingboing.net/2009/02/26/ted-chiangs-story-ex.html)】
●p24 グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」 (Crystal Nights)(山岸真訳)
紹介文:
男の望みは、意識を持つ“真の”AIを特別なプロセッサを用いて生み出すことだった――
常温ビッグバンてなんすか……
いわゆるいつも通りのイーガンで安心のクオリティ。ネタ的にはよくあるものを、イーガンが書いたらこうなりましたって感じ。正直、あまり他の人の感想を読んでみたいとは思わない作品です。歴史上、我々が知りうる意識の発生過程は進化しかない。コンピュータ内の仮想環境において時間を加速させ進化を促し、AIを作るという内容。
マジに考えると、超高性能なプロセッサを使って生物進化を高速シミュレートするならば、原モデルの構造が正確でなければならないと思う。つまりDNA的なものの完全なモデル化。今のところ正確には脳のどういった構造が意識なるものを作り出しているのかもわからないわけだし、DNAの使われていない容量とか、不明部分が多すぎるから、簡略化なんてできない。
『順列都市』の〈コピー〉は人間の意識を完全にコピーできていた……すなわちモデル化までバイオインフォマティクスの技術が進んでいたわけで、そういったような前提条件があれば意識所持体≒知性体の原モデルを作ることは可能だと思う。
チャンの『息吹』が孤立系を内部から見た小説なら、こちらは外部から見た小説。
これを内部宇宙から見たバージョンも読んでみたい。ただし、内部宇宙の言語は我々の言語で言い表せない概念を扱ったものが多く、素粒子物理学が我々のものよりも50年程進んでいるので難しくなるが。それを書けるのがイーガンだし。
タイトルについては【水晶の夜 - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E6%99%B6%E3%81%AE%E5%A4%9C)】を参照。ここによると……引用開始――
水晶の夜(すいしょうのよる、独:Kristallnacht(クリスタル・ナハト)) とは、1938年11月9日夜から10日未明にかけてドイツの各地で発生した反ユダヤ主義暴動である。ユダヤ人の住宅、商店地域、シナゴーグなどが次々と襲撃、放火された。ナチ政権による「官製暴動」の疑惑も指摘されている。事件当時は「帝国水晶の夜(Reichskristallnacht)」と呼ばれていた[1]。後に起こるホロコーストへの転換点の一つとなった事件。
――引用終了……とのこと。
ネットで軽く他の人の感想を見ていたら黙っていられないものがあったので一つだけ。【綺譚亭 (http://f49.aaa.livedoor.jp/~kiten/sayaka/sayaka.cgi?l_no=0&act=response&m_no=299)】でAI書かせたら山本弘の方が遥かに上とか書かれているけど、個人的にそれはない。山本弘は倫理の在り方に対しても、作品の設定に対しても無邪気すぎる。『アイの物語』を駄作と思っているワタクシでありました。
参考リンク(著者サイト内【Works Online (http://gregegan.customer.netspace.net.au/BIBLIOGRAPHY/Online.html)】より):
Online:
【TTA Press - Interzone: Science Fiction & Fantasy - Crystal Nights by Greg Egan (http://ttapress.com/553/crystal-nights-by-greg-egan/)】
Free Podcast:
【Transmissions From Beyond | Transmission 7: Crystal Nights by Greg Egan(http://transmissionsfrombeyond.com/2008/09/transmission7/)】
作家詳細:
【グレッグ・イーガン(Greg Egan) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfe/egan.htm)】
●p54 テリー・ビッスン「スカウトの名誉」(中村融訳)
紹介文:
ある日突然、わたしに届き始めたメッセージは、“彼ら”に対する詳細な観察の記録だった…
テリー・ビッスンの作品にしては普通のSFで割と好きだった。この作家は、ハードSF作家じゃなくて、分類的にはスタージョンとか、ヴォネガットとか、ああいう人たちっぽい気がする。ヴォネガットはちょっと違うか。まあ『ふたりジャネット』しか読んだことがないんで、また違った一面があったりするのかもしれないけれど、ぼくにとってイマイチどこを愉しめばよいのかわかりにくい作家であります。スタージョンも同じく。一方でスターリングは難解だけど、それなりに愉しんでます。
ちなみにこの作品は今年七月に刊行された奇想コレクションの『平ら山を越えて』に収録されている。
作家詳細:
【テリー・ビッスン(Terry Bisson) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfb/bisson.htm)】
●p68 ジーン・ウルフ「風来」(宮脇孝雄訳)
紹介文:
ビンには友だちが一人もいない。そのことに気づいたのは、ついこのあいだのことだった。
そういやこの前読んだ『僕は友達が少ない』は評判が良い割に、すごくつまらなかった。どうでもいいけど。
おもしろいっつーのもどうかと思うが、良かった。実はジーン・ウルフは初めて読んだ。無力感とか、やるせなさとか、色々感じるところだがうまく言葉にならない。最後の雨は風来が降らせてくれたのだろうか。というか何をしに来たのか謎。詳しくは語られないが、雰囲気を楽しませてくれる。
作家詳細:
【ジーン・ウルフ(Gene Wolfe) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfw/wolfe_g.htm)】
●p86 シオドア・スタージョン「カクタス・ダンス」(若島正訳)
紹介文:
グランサム教授の消息は、ペヨトルの標本の送付が途絶えるのと同様に途絶えた。
Luke Short's Western 誌の一八五四年十月号に掲載されたものらしい。まあとっくに亡くなっている人だし。
やっぱりスタージョンは難解。物語の波に乗れないんだよなあ……
作家詳細:
【シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/sturgeon.htm)】
●p110 ブルース・スターリング「邪教の都」(小川隆訳)
紹介文:
白・黒双方の魔術が横溢する都市トリノ。現代の技術者とミイラ男がこの魔都を闊歩する!
紹介文が『デモンベイン』っぽい。バイオマンサーVSネクロマンサー。ニューロマンサーも呼んでこい!
正直スタージョンより難解で全体像が捉えられない。ただ、「おんもしれぇ!」という感想を抱くものより「わっかんねぇ!」って作品の方が、他人の感想とかを読みたいと思ったりするので、読後の行動は愉しかったりするんだが。
クライマックスがわけわかめ。「つまり…どういうコトだってばよ…?」どうしてサタンに対峙していた筈なのに主人公がサタンになるのか。サステナブル産業に移行するといういかにも天国に行けそうな人物(あくまでもサタン)に自己の存在を譲り渡すような誘惑の術中に嵌っちゃったとか、そういうコトなのか?〈万華鏡車輪眼〉的な。
沽罪(シムニー):
【シモニア - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%8B%E3%82%A2)】
作家詳細:
【ブルース・スターリング(Bruce Sterling) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/sterling.htm)】
●p138 コニー・ウィリス「ポータルズ・ノンストップ」(大森望訳)
紹介文:
なんの変哲もないアメリカの片田舎ポータルズ。そこにやってきたバスツアーとは……
うむ、面白い。読後にニヤニヤします。ジャック・ウィリアムスン作品は一つも知らないけれど、思わず読みたくなる良い作品です。
メモ:
【ジャック・ウィリアムスン - Wikipedia (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%B3)】
作家詳細:
【コニー・ウィリス(Connie Willis) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfw/willis.htm)】
●p171 磯光雄インタビュウ
『Sync Future』と『グラン・ヴァカンス』繋がり。礒光雄さんは好きですが、このインタビューはどうでもいいです。スーパーアニメーターの無駄使い。
●p177 SF BOOK SCOPE
一七九ページ柏崎玲央奈の担当ページは書き出しは良いものの、紹介されてる本がラノベなので読む気は起きない。
一八一ページ林哲矢の担当ページは海外作家の作品。自身、やっぱり海外のものの方が多く読んでるだけあって惹かれるものがあります。『時の娘 ロマンティック時間SFとか傑作選』、『壊れやすいもの』、『メデューサとの出会い』はどれもそのうち読みたいと思っていた。『クリスタル・レイン』は迷っていたが、読むのは止めた。
一八二ページで三村美衣が紹介する『クシエルの矢』は既に注目していたし、特に目新しい本は見あたらないと思っていたら、一八三ページのホラー担当笹川吉晴が挙げている朱雀門出『今昔奇怪録』は良さそうな感じ。話の概略からするに普通にありがちな筋だが、その仕上げ方が気になる。
一八五ページのノンフィクション二冊、『妖術使いの物語』と『謎解き・人間行動の不思議――感覚・知覚からコミュニケーションまで』はおもしろそう。
●p190 朝松健「魔京」連載最終回
いきなり連載最終回を読むのもどうかと思ったのでスルー。
●p210 ラリイ・ニーヴン《ドラコ亭夜話》
紹介文:
今夜もわたしの酒場には、さまざまな種族が訪れ、さまざまな話をわたしにしていく。
紹介文のままのショートショート集。とても良い。
「文法のレッスン」
引用:
「笑ったりしてごめんなさい。だってあなた、“あなたの”と“わたしの”に、外的所有格(エクストリンシック)でなく内的所有格(イントリンシック)を使うんだもの。まるであなたのズボンがあなたの身体の一部で、わたしの椅子がわたしの身体の一部みたいにね。突然のことでびっくりしたのよ」
どんな正体不明の存在とも、コミュニケーションの基本は言葉によるものだから、言語の問題というのはSFでは重要なことだと思う。まあソラリスくらいわけわからん存在となると、基本フォーマットが違い過ぎて、会話が成り立たないんだが。
ここで言語とは何かということを考えた。虫だって会話をしているのかもしれない。異なる言語を使う人間同士のコミュニケーションの概念を拡張すれば、ほかの生物との(広い意味での)会話に繋がるだろう。声を出して喋るだけが、広い意味では発話ではないから、SETIが実際に行っているような他文明に向けた信号発信も会話の一種だと思える。これらの場合でも文法ではなくとも、文法的な一定のルールは存在するのだろうか。ここらへんはよくわからない。
うーん、やっぱり文法という一定のアルゴリズムを用いるのが、我々の理解が及ぶ範疇の会話なのだと思う。それ以外にな?と、単に信号とか、逆に理解不能な会話形式になりそう。点字や手話も、詳しくは知らないけれど、多分基本的なフォーマットは同じだよね。耳から入るなり、指先からなり、眼からなり、それが脳みその中でエンコードされてるという感じ……だと思うんだけど。
とか、ここまで言っても特に結論はない。
「その話題は打ち切り」
天国があることが立証され、そこに確実に行けるなら、生者はどう行動するのか。天国は名ばかりの天国ではなく、あらゆる意味で最高最上(この時点であらゆる意味的矛盾が生じている気がするが)と感じられる場所ならば、すぐにでも死にたくなるのは当然だろう。
「残虐で異常な話」
引用:
「ひどいPRでしたね。あれはわたしたちの流儀じゃない。ご存じないと思うけど、わたしたちの法律では、残酷で異常な罰は与えないことになってるんです」
「じゃ、残酷で異常な犯罪にどう対処するの?」
わたしは肩をすくめた。
「残酷で異常な犯罪に対しては、残酷で異常な刑罰で報いなければね。あなたたち地球人には釣り合いの感覚ってものがないのよ。どう、リック? ウィスキー、もっと飲む?」
確かに、釣り合いの感覚は皆無とまでは言えないだろうけど脆弱だ。環境によってブレが生まれすぎる。だから本当は残酷で異常な犯罪に対して、残酷で異常な刑罰で報いたいけれど、それが実際に可能なほどに我々の社会は平等ではない。
「戦争映画」
人間ってのは子どもの頃から大して成長しねェなあとか思った。学校で先生が見ている前ではお互いに大人しくするけど、そういう監視者がいなくなれば基本的に好き放題。最低限の規律が守られているのは、互いに監視し合う社会性があるから。だからそういう枠組みから一歩突き抜けると、容易に規律を意に介さないようになる。
「現実の世界」
このラストのショートショートはユーモア溢れる内容。
作家詳細:
【ラリイ・ニーヴン(Larry Niven) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfn/niven.htm)】
●p228 新連載座談会 [新版]世界SF全集を編む
現代日本SF界を代表するアンソロジスト大森望、中村融、山岸真による[新版]世界SF全集編集会議録みたいな内容。各人のSF感とかが垣間見られてなかなかに興味深いものでした。ぼくは今までにSFのアンソロジーは読んだことがなかったような気がする。ホラーなら『怪奇小説傑作集』とか経験があるんだけどね。だからアンソロジストというより、大御所訳者という感じ。ただし中村融だけはあんまり馴染がないかな。〈奇想コレクション〉の編者だけど、言われてわかるくらいだし。
でもこの[新版]の内容をどうするかって話で、中村融が一巻に三人の作家を入れて、そのうち二つが文庫版からの再録で、ひとつだけ本邦初訳でいこうって言ってるのね。山岸真はそれに対して「それを目的に買うの!?(笑)」と突っ込んでいるけれど、中村融は「泣きながら買ってもらう(笑)」と言う。これは大抵の読者がムカつくのではないだろうか。いや、大抵の読者という味方はいなくていいけど、少なくともオレはムカついたのね。本は普段、余程の事情がなければ古本で買うか図書館で借りるかで、本誌も図書館で借りたんだけど、それでも「少なくとも新品では買わない。買いたくねぇ」とか思った。こういうセコいアンソロを出すなら普通に未訳本を出すなり、絶版本を再版して欲しいよな、常識的に考えて。
●p240 名作SF再録 フィリップ・K・ディック「凍った旅」(浅倉久志訳)
紹介文:
予期せぬ事態で冷凍睡眠から覚醒させられた男は、不完全な状態で旅を続けることになったが……
この話は初めて読んだけど、いつものディックって感じだ。沢山の絶望の後に僅かな希望。だけど、希望について多くは語らない。
作家詳細:
【フィリップ・K・ディック(Philip K. Dick) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfd/dick.htm)】
●p254 名作SF再録 カート・ヴォネガット「明日も明日もその明日も」(浅倉久志訳)
紹介文:
仲睦まじいルウ(百十二歳)とエム(九十三歳)の夫婦。そんな二人にも悩みがあって……
ヴォネガットはあいかわらずどこを楽しめばいいのかわからんなあ。
作家詳細:
【カート・ヴォネガット(Kurt Vonnegut) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfv/vonnegut.htm)】
●p266 名作SF再録 R・A・ラファティ「昔には帰れない」(伊藤典夫訳)
紹介文:
ムーン・ホイッスルは、ふさわしい者がふさわしい場所で吹かなければならない。
ラファティ初読み。なのでじっくり読んだ。たぶんSFを読んだことがない人には「こんなのもSFなの?」と言われそうな、不思議なビジョンの作品。つか、ファンタジーだと思うのね、これは。少なくとも<プラチナ・ファンタジイ>。トラックの屋根から登れるくらいの超低空を浮かぶ直径百ヤードほどの巨岩が、月――まいご月/ホワイトカウ・タウン――と呼ばれている。しかもそこの下側にはヤギやアヒルがいて、月自身の重力に囚われているから(?)、さかさまに立っていても落っこちやしない。自転はしないらしく、その月の上側に数世帯が暮らしている。よくわからないけれど、人間だけは月の重力には殆ど捕捉されず、その下の地球の重力に影響される。そして仕事の為に毎日、地球に降りてくる。……説明だけで、感想とかは特にありません。
作家詳細:
【R・A・ラファティ(R. A. Lafferty) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfl/lafferty.htm)】
●p280 名作SF再録 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「いっしょに生きよう」(伊藤典夫訳)
紹介文:
わたしは力をのばしてみた。その生き物をもっと知るために――八八年発表、後期の傑作中篇
ティプトリーの画く寄生生命体物語は暖かで良い。「たった一つの冴えたやり方」よりも好きだ。
テレパシーを防ぐ為に強迫唄(カコネモニックス)を使うくだりでは、『分解された男』を思い出していたら、直後にそれから引用があった。やっぱりなあ。ここでは、ぼくが覚えていた創元SF文庫版の沼沢訳ではなく、ハヤカワ・SF・シリーズの伊藤訳だから、あの“いわくテンソル”ではなく
“緊張、変徴、乱調のはじまりや”とある。
作家詳細:
【ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(James Tiptree, Jr.) (http://homepage1.nifty.com/ta/sft/tiptree.htm)】
●p304 名作SF再録 ウィリアム・ギブスン「記憶屋ジョニイ」(黒丸尚訳)
紹介文:
ぼくは散弾銃をアディダス・バッグに入れて歩き出した――サイバーパンクの記念碑的作品
ちょいと前に『クローム襲撃』を読んだので、そこに収録されていたこれはスルー。
作家詳細:
【ウイリアム・ギブスン(William Gibson) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfg/gibson.htm)】
●p328 鹿野司「サはサイエンスのサ」
第一七七回目の連載というのを見て、たしかに古本で買った十年前の〈S-Fマガジン〉にも載っていて、しかもその時から面白かったなあと思った。SFあんまり関係ないけど、良いものは良い。
●p330 金子隆一「センス・オブ・リアリティ」
のっけから“変態という現象には、昔からずいぶん惹かれるものを感じている。”とあってびっくりするが、生物学的な意味ってことだからな!
最初は昆虫が幼虫から成虫までの間に、水生から陸生に変態することが書かれている。後半は恐竜の話で、ドラコレックスがパキケファロサウルスの亜生態でこの変化はすげぇ、超楽しい!みたいな文章。それだけなんだけど、共感するよね。やっぱり、こういう「面白いよ!」と力強く伝えてくれる文章は好きだ。あー、でも個人的には恐竜は好きだけど信じられない種も結構あったり。で、その信じられないものの中に、このドラコレックス→パキケファロサウルスの成長過程も含まれているんだよね。まあ、恐竜の研究なんてまだまだこれからと言われている分野ですので、先を楽しみにしていましょうか。
ドラコレックス:
【特集:奇妙な恐竜たち 2007年12月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP (http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0712/feature01/gallery/12.shtml)】
●p348 深山めい MAGAZINE REVIEW 〈アシモフ〉誌 《2009.6~2009.9》
面白そうなのが多くて良いですなあ。六月号はあまりそそられないか。七月号掲載のキット・リード「恐怖のキャンプ場」(“Camp Nowhere”)と八月号掲載のメアリー・ロビネット・コワルの「意識の問題」(“The Consciousness Problem”)と、九月号掲載のマイク・レズニックとレズリー・ロビンの共作「ソウルメイト」(“Soulmate”)が読みたいと思った。
こうして色々なものの中から読みたいと思った作品を取り上げていくと、自分の好みとかがある程度形式化されるのかもしれない。「恐怖のキャンプ場」はホラーっぽさがなんとなく面白そうという理由で上に挙げたから、ここでは触れないでおいて、とりあえず「意識の問題」と「ソウルメイト」のことだけを考えてみた。「意識の問題」ではクローンが登場するし、「ソウルメイト」ではロボットがそれぞれ出てくるが、主役はあくまで人間っぽい。クローンものなんて言わずもがな。ロボットものは大して好きじゃないけれど、これは疲れ果てた中年男性がロボットと出会うことによって、自己を掘り下げることになるのではないかと予想される。SFは自然-宇宙の神秘性に焦点を当てることが少なくないけれど、どちらかというとこういう、人間の持つ解明されない神秘性というところが自分は好きなんだろう。
●p354 アレステア・レナルズ「フューリー」(中原尚哉訳)
紹介文:
銀河帝国を統べる皇帝が狙撃された。背後の謎を探るべく、遙かな星域へ旅に出た私は……
アレステア・レナルズ……すみません、どなたですか?とか思ったが、『啓示空間』とか『量子真空』のお人だと調べてわかった。『啓示空間』もそのうち読んでおかないと、と思っているんだけど余裕ないんだよなー……ニュー・スペース・オペラの旗手として、チャールズ・ストロスと並んで紹介されていたりするけれど、実際の知名度はストロスが昨今伸びて、このレナルズは半ば忘れられかけているような気がしないでもない。
これも紹介文から察することができるようにスペオペにカテゴライズできる。“銀河帝国”を統べる“皇帝”とあるように、少し古くさいようにも感じられる世界観だ。皇帝とその側近の物語。話の筋も、SFでなくてはならないというようなものには感じられず、特にめちゃくちゃすごいというわけではないが、それなりに読ませてくれる。皇帝と主人公の信頼関係や、主人公の出自の謎など、ベタながら引き込まれる要素が織り込まれている娯楽作。
一応、モラルフェーブルとしても読めるか。『インサイドマン』という映画を思い出した。
作家詳細:
【アレステア・レナルズ(Alastair Reynolds) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfr/reynolda.htm)】
●p379 ジョン・スコルジー「ウィケッドの物語」(内田昌之訳)
紹介文:
宇宙空間で戦闘を繰り広げてきた戦艦〈ウィケッド〉に、突如思いもよらぬ異常が発生し……
『老人と宇宙』の著者。本号一の読み易さかと思われる。ベテラン勢よりも率直・端的に内容を伝える文章で、少し修飾が足りないと思われるかもしれないが、別に嫌いじゃない。話自体も純粋に面白い作品だと感じたし、なかなか良いのではないだろうか。まあ、強めの酒を連続で飲んでいる時のインターバル的な作品ではあるが。自由意志を持ったAIについて本気で考え出すと、色々と面倒な哲学的内容を含み出すんだけれど、そういう難しいことを考えるような内容ではない。
敢て突っ込んだことを考えてみると、このように高等意識を持った存在が、なぜ一定の規範を求めたのかということかな。イーガン作品では問答無用に造物主たる人間の手を離れていくのだが、〈ウィケッド〉はそうしなかった。カントや合理主義では、人間には善悪を区別する能力――道徳律とか道徳法則とかいうもの――が前経験的に備わっているという。カント後に誰がそれに反撥したのかは忘れたけど、今では環境が倫理感を生み出すという考えにぼくらは自然と納得していて、いかにもそれが正しいように思える。この経験的な考えを適用させると、〈ウィケッド〉は戦艦で、軍隊の中にいたという事実が重要な点になる。軍隊の中の規律に、意識が明確に発現する以前から馴染んでいたのならば、それまでの自分の行動様式から反した存在になるよりは、自己にルールを科してでも自己像を堅固なものにするという選択をしたのかもしれない。
作家詳細:
【ジョン・スコルジー(John Scalzi) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/scalzi.htm)】
●p400 パオロ・バチガルピ「第六ポンプ」(中原尚哉訳)
紹介文:
環境汚染が進行したニューヨークでは、今日も下水処理用のポンプが故障してしまい……。
パオロ・バチガルピ……誰!?邦訳本は刊行されていないようで、今までに何度か〈S-Fマガジン〉に掲載されただけの作家みたい。レナルズとスコルジーから一転して、環境汚染で破滅に向かう世界を描いた作品。若手の技巧派という印象。ポール・J・マーコリイやこのバチガルピという、暗いけれど鋭い話を書けるような作家がもっと日本でも人気が出て欲しい。少なくとも本誌に載っている作品に限っては、イーガンを超えてると思う。スコルジーとかは極端な言い方だが、ライトノベルの一形態という程度にしか思えなかったし。
本誌一六二ページの連載評論 中野善夫「黄金の薄明かりの向こうへ 第一回 理想郷への帰還と未知の世界への旅立ち」では、熱力学第二法則に対する無力感と恐怖をSFは常に秘めており、例えばそれを表した作品が本誌のテッド・チャン「息吹」であると書かれている。しかし熱力学第二法則による宇宙的死よりも、人類という種が自らの生存環境を維持できなくなり、どん詰まりのままに衰退していくというこの作品の方が圧倒的な無力感と恐怖を感じさせる。今のところの人間の知性や技術は時代に合わせて進歩しているように思えるけれど、もしかしたらこれからはそう上手くいかなくなるかもしれない。そういう大局的視点で捉えなくても、個人の能力は歳を経て衰退しがちだし、明日にでも事故に遭って幾分か能力を失うかもしれない。卑近なところでは、一人暮らしを始めると実家飯の美味さを実感するアレで、簡単に得られるうちはその尊さに気付くのは難しい。ゲーテも、時よ止まれ、お前はナントヤラと書いていた。
作者詳細:
【パオロ・バチガルピ(Paolo Bacigalupi) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfb/bacigalu.htm)】
【Paolo Bacigalupi - Wikipedia, the free encyclopedia (http://en.wikipedia.org/wiki/Paolo_Bacigalupi)】
●p426 ダン・シモンズ「炎のミューズ」(酒井昭伸訳)
紹介文:
惑星を巡業中の劇団は、人類を統べる種族の前で演劇を披露するよう命を受けたが……
巻末にダン・シモンズを持ってくるとは良い意味で卑怯な構成だと思う。実はシモンズ初読みですが、一応SF読者としてその名は知っているので期待大なわけだったし、実際に面白かった。<ハイペリオン>シリーズは読んでおかなければなあ。
人類を支配する種族の名はアルコーン。その上にポイメン、デミウルゴス、アブラクサスと連なる……アルコーンが使うロボットもカペイロスだし、そっち系の名称どころか、宇宙観もそっち系。惜しむべくは、グノーシス主義については殆ど知識がなく、シェイクスピアについては全く知識がなかったことか。解説にあるようにかなり雰囲気で愉しめたが。もしかして『イリアム』と『オリュンポス』もギリシア神話がわからないと辛かったりするのだろうか。
内容はまさにシメに相応しい。しかしどうすればいいのかわからん。良い意味で。巻頭のテッド・チャンも感想がなくなってしまうタイプの作家だけど、シモンズもなくなるな。チャンのはまだしも、この「炎のミューズ」はよくわからん面白さなのだから。登場人物たちの如く、読んでいてもガリガリ体力を減らされるが、常に興奮状態は続く。しかも他の作品のように単なる思考問題に取り組むようなオハナシではなく……うまく言えねぇ……
作家詳細:
【ダン・シモンズ(Dan Simmons) (http://homepage1.nifty.com/ta/sfs/simmons.htm)】
●p503 SFマガジン年表
一九五四年の「星雲」創刊から、SF界やらの出来事を記した年表。松岡正剛が『多読術』で言っていた年表ノートが作りたくなったなあ。こういう年表あったら楽しいだろうし、今ならデジタルで簡単に作れるだろうし……
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2 コメント:
はじめまして、
昔買ったSFマガジンを再読している者です。
ネットでその感想を探していたらたどり着きました。
スターリングの「邪教の都」のラストは、
訳が分からないですよね。
私だけではなく鷹峰賢様もそうですか。
神話とイタリアの社会をうまく絡めて描いているような世界観が面白いなと思いましたが、
最後の方では、どうしてこうなるの?
といいたくなりましたね。
はじめまして。コメントありがとうございます。
ぼくは図書館で借りた為に既に手元にはないので記憶違いがいくつかあるかもしれませんが、ラストは
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは一仕事終えて家に帰ってきたと
思ったら妻のホームパーティーに地獄の主が客として来ていた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが(以下略
というアレですよね。
魔術を使いまくれるサタンのコトです。何ができてもおかしくはありませんが、読者を思い切り振り落としてくれるものです。
聖書/キリスト教にある程度馴染みがあればいくらかは受け取り方が違うのかも知れませんね。
地獄に行ったり帰ってきたりがゲーテの『ファウスト』っぽいとも思いました。『ファウスト』は地獄かどうかは忘れましたが第二部でヘンテコ異次元に行っていたので、そんな感じです。
ともあれ、解説が欲しい作品ということには違いありませんね。
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