2010年5月5日水曜日

アイザック・アシモフ『鋼鉄都市』(福島正実訳)


 大分こちらに書かない日が続いてしまった。ブログに関しては所詮趣味的なものであり、無理して書くこともないと考えているのだが、本の感想なんかは何だかんだで自分の中で作品と決着を付けるという意味を持っているので中々縁を切れなかったりする。手にするまでは必要性を感じないけど、なくなってみると困るものというところだろうか。靴篦みたいな。ブログがなくなってもアレほど困らないとは思うけど。靴篦>|超えられない壁|>ブログ
 久々なので方向が定まらない。何を書こうか少し迷った末、結局読んだ本の感想を書くことにした。今更乍らアイザック・アシモフの『鋼鉄都市』。しかも読んだのは一ヶ月前だったりする。
 ロボットという言葉はヨゼフ・チャペック――チャペック先生――の弟の小説家カレル・チャペックが書いた『R.U.R』という戯曲で世に初めて登場したが、言葉自体はチャペック先生が考えついたらしい。岩波文庫ではまんま『ロボット』というタイトルで出版されてる。青空文庫でも読める。

 ロボットという言葉の登場以前にも当然のように人形や人造人間みたいなものは文学上で使われていた道具だったが、ロボットの何がそれらと異なるかというと、有名なロボット三原則にその存在が縛られているということだろう。そしてその三原則を生み出したのがアシモフだった。今でもこの三原則を扱って様々なロボット小説が書かれていて、アシモフの作品はそれらの起源であって、路標的作品だと言える。尤も三原則が最初に提示されたのは『鋼鉄都市』ではなく、ロボットもの短編集『われはロボット』らしい。

 (三原則に関して追記)Anima Solarisの著者インタビュー:長山靖夫先生を読んだ。これによると、『R.U.R』の四〇年前に刊行された貫名駿一『千万無量 星世界旅行 一名 世界蔵』の中で人造人間の管理についての三箇条モデルが既に世に出ていたらしい。(追記終わり)

 案の定この後激しくネタバレなので、内容を知りたくない人は読まない方が良い。ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』と同じく、路標的作品とぼくが言う場合、その作品の筋自体はあまり好ましいとは思っていなかったりする。『鋼鉄都市』も読み始める前は登場するロボットたち、主にこの物語の主人公のパートナーとして宛がわれるダニールがどんな原則破りをして殺人を行うのかと期待していたんだけれど、結局殺人事件の犯人は主人公の上司である警視総監のエンダービイであった。ダニールが疑われたりするのは主人公のライジが三原則に対する知識を殆ど持っていなかった状態の時と、ダニールが人間そっくりのロボットであるから、初期に人間がロボットのふりをしていると疑っていた時だけだった。ライジは本来あり得ないロボットのパートナーが傍にいることによって捜査を攪乱させられて、窮地に陥るが、閃きによって事件解決の糸口を掴む。なかなか物語の核心に至ることなく、それでいて最後は唐突。三原則を扱って物語を展開する昨今の作品や爽快な探偵ものミステリーと比べてしまうと見劣りする。
 ところで最大の謎が地理関係だ。地球と宇宙市(スペース・シティ)の間には曠野が広がり、困難ではあるが実際には歩いて行けるっていうのが意味不明。宇宙市は宇宙にあるんじゃないの?地球と宇宙市に関してだが、物語は主に地球で進められる。地球に対して宇宙市が存在する。地球の人口は増え続け、食料/環境維持のために厳重に制度化されている。ほぼ社会主義的な環境だが、物語でライジとダニールが出会った頃の靴屋の折りには資本主義的な描写があり、いまいち統一感に欠ける。宇宙市に住む宇宙人は物語の時代のずっと以前に、地球から宇宙に開拓へ出た人類の末裔で、より自由で開かれた心と優れた科学力と環境の余力を持っている。問題があるとすれば殆ど滅菌された環境に住んでいるから病気に対する抵抗力がなく、地球なんかに行くとちょっとしたことで体調を崩してしまうことくらい。だから今回の宇宙人殺害事件についても宇宙人そのものの捜査官ではなく、ロボットであるダニールが送り込まれた。という設定。好意的に理解する方法の一つとしては宇宙市と地球を繋ぐ軌道エレベーターがあって、そこの入り口が宇宙市の入り口と表現されている。その軌道エレベーターは曠野に建設されており、地球の都市(ちなみに半完全環境都市みたいなもので、地球人は都市から出たがらない)から隔たっている……とも考えられるが厳しい。読んでる最中、割と不思議に思っている点がこの距離感だった。

 以下、読書中のメモ。

ライジ・ベイリ:主人公。正式にはイライジャ・ベイリ。
R・サミイ:ベイリの職場に配属されているロボット
シムプスン:平刑事
ヴィンス・バーレット:元刑事。サミイが来て仕事がなくなった
ジュリアス・エンダービイ:ニューヨーク・シティ警視総監
ジェシイ:ベイリの妻。正式にはジェゼベル。
ベントリイ:ベイリの息子
ロイ・ネメヌウ・サートン:宇宙人(宇宙市に住む人間を作中ではこう呼ぶ)。殺人の被害者でロボット工学の専門家。地球に友好的な持論を持っていた。
R・ダニール・オリヴォー:サートン博士に作られた宇宙製ロボット。ベイリのパートナーになる
ハン・ファストルフ博士:宇宙人。ダニールに正義の――あらゆる法律を施行させたいという文脈で正義を定義する――欲求を生じさせる回路を搭載した。

TBI:Terrestrial Bureau of Investigation――地球連邦検察庁
エキスプレス・ウェイ:高速自動歩路
C/Fe:シー・フィー。炭素と鉄分の化学記号。人間とロボットの二つを、平等なしかも並列した基準で結合させた文化を現す場合、便宜上この言葉を用いる。

時代背景は近未来~遠未来の中間点くらい。宇宙進出しているが、地球と宇宙国家の大きな断絶は存在する。
地球の暮らしは、その経済的に殆ど社会主義といってもよいくらいのものになっている。人民は等級によって住宅、食料、浴場の使用、子供を産む人数や期間を決定されている。一方では序盤でライジとダニールがトラブルに巻き込まれる靴屋の描写では、資本主義的な部分もあったりする。これはぼくが社会主義なるものの本当の姿を知らないからかもしれないが、やや統一感に欠けた設定に思えたりした。
それより地球のニューヨーク・シティと宇宙市の(スペース・シティ)の地理的配置がよくわからない。歩いていけるとは一体どういうことなのか?
台詞めっちゃ多い。ラノベか。
たまに一人称や二人称がおかしくなる。

2 コメント:

匿名 さんのコメント...

一年以上前の記事ですし、いまさらかきこむのもどうかなとは思いましたが、どうしても気になるので書かせて頂きます。
宇宙市とニューヨークの位置関係ですが、どうやら宇宙国家郡と宇宙市を混同されているようですね?
良く読んで頂ければわかると思いますが、宇宙市は宇宙人が地球に作ったいわば大使館のようなもので、一連の事件の結果、最終的には本国であるオーロラ星に引き上げています

Ken Takamine さんのコメント...

コメントありがとうございます。
もう何から何まで指摘通りで、なるほどと思うばかりです。いやお恥ずかしい。

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