2009年12月20日日曜日
シオドア・スタージョン『時間のかかる彫刻』(大村美根子訳)
シオドア・スタージョンの晩年の作品を主に集めた短編集。スタージョンは初読みだけれど、がっかりしてしまった。率直に言って、この短編集はまったく面白くない。つまらないと断言できるほどでもなく、収録されている作品の良さが理解できなかったのだ。奇想コレクションの、何が楽しいのかわからないものを読んでいる時の気分。読んでも、「だから何!?」とか、「ふーん」という風になってしまう。そんなわけで大した感動を得られなかったのではあるが、スタージョンと言えばSF業界ではかなりの大御所。ここまで自分に合わないと、逆に気になって世間の評価を調べてしまうというものだ。ここでは知ったかぶり読者ではなく、特にスタージョンの本をしっかり読んで、作家を知っている読者の意見が欲しいということで、当然のように2chのスタージョンスレにいきつく。やはりこの『時間のかかる彫刻』はスタージョン好きの中でも良い評価はされていないように思った。もちろん、そうしっかりと批判されているわけではないが、話題にならないし、なったとしても面白いだとか肯定的な意見は見られない。推測するにこの本は、スタージョンの今までの作品を殆ど全て読んでから補完としてこれを読む、という位置にあるんじゃないだろうか。入門は『輝く断片』か『夢みる宝石』、それかSF初心者これだけは読んどけリスト(あんまり信用してない)に入っている『一角獣・多角獣』か。逆に『人間以上』は回避した方が良さそうだ。これは矢野徹の訳なので、ぼくも苦手だし。
いちばん古い作品が一九五四年の「ここに、そしてイーゼルに」。他のものは全て六九年から七一年に発表されたもので、もっとも新しいものは一九七一年の「ジョーイの面倒をみて」。一応、創元SF文庫ではあるが、内容は奇想コレクション以上に普通小説的なものが多い。これもがっかりした原因で、SFだと思っていたのに完全に肩すかしを食らうことになった。SFっぽいものもいくつかあるけれど、しゅんごーい発明とかしゅんごーい能力とかを抽象的にボカして画いているので、H・G・ウェルズっぽく、しかもそれから更にSF成分を抜いたような。ウェルズとバラードとヴォネガットを足して割った感じ?
冒頭からいきなりSFじゃない「ここに、そしてイーゼルに」は巻末解説で、収録作の中では最後に読むのが良いとあった。おい、今更遅いがな!小説の解説はネタバレが怖いから最後に読むのだ……でも最初に読んでも良いと思う。主人公はスランプに陥った画家で、彼は突然見当識を失って騎士オルランドとして魔法使いのアリオストと闘ったり、ヒポグリフに乗ったりする、と思うとまた突然オルランドは見当識を失い、一人の画家に戻ってしまう。こういうことが何度か繰り返され、二つの事象の進行を読むことになる。これが結構バランスよく出来ていたと思う。仮に片方のみを読ませられていたとしたら、退屈だったのだろうけれど、大金を手にした画家の滅茶苦茶な振る舞いと、オルランドの緩慢な振る舞いのどちらも飽きることなく読めた。しかしこの二種類の事象の転換も大勢の読者に不評で、ここで挫折したり読みにくいと感じたりする人が多いようだ。なるほど、解説であった後回しにせよというのは、こういうところで読む手を止める人のことを考えてのことだろうか。でもこういうのは、さあ新しい本読むぞ-!と気合いを入れて、冒頭から一気に読んでしまうという手もあるのでは。ところで騎士譚の方のモトネタは『狂えるオルランド』というルドヴィーコ・アリオストによるルネサンス期イタリアの叙事詩。おお、結構なお値段……オルランドって『コゼットの肖像』にも出てきたけど関係ないよね?
「時間のかかる彫刻」は一番まともなSFなんだけど、別に美味しく頂けはしなかった。話の筋とガジェットがあんまり関係なかったような。
「きみなんだ!」。頭の中でだけ想像していた、自分にとっての究極の美女を見つけた男。彼女に合わせて自分を変えていくのに表面上苦痛は感じていなかったが、実は鬱憤が溜まっていた。結局は彼女と一緒にいると自分は幸せでないし、かといって彼女が自分に合わせてくれば、それは究極の美女像から外れてしまうので別れるしかなかった。
トラブルを頻繁に起こすちびのジョーイと、ジョーイの面倒を見る男を観察する人物の視点を画いた「ジョーイの面倒をみて」。なんでそんな二人を観察するのかと言うと、この面倒を起こす奴とそれをフォローする奴の間柄が気になるからだ。彼は無償で助けの手を差し出す人間がいるなんてことを信じたくなくて、それを目撃したら自分の世界は壊れてしまうと言う。だからその二人が気になって仕方ない。結局ジョーイとその面倒を見る男は一種の利害関係によって一緒にいるだけというのが明らかになるのだが、二人を追った先々で手助けしてしまった自分こそが、無償で人を助ける人間だと言われて絶望する。
「箱」は何か予想できてたけどちょっとホロリな話。子供たちは不時着した宇宙船から街まで箱を運ぶことを、女性教官に指導される。女性教官は病気か何かで宇宙船の不時着後に亡くなってしまうけれど、彼女が最期に子供たち一人一人に遺した言葉が街までの旅を支える。
「人の心が見抜けた女」はその名の通り。人の心が見抜けても、どいつもこいつもワタシの外見しか見てないし、思ってもない愛の言葉を囁くのね!みたいな感じ。
「ジョリー、食い違う」はジョリーという少年がいて、何が食い違うかというと……うーん、人生?非行少年気味なジョリーが真っ当に生きていくぞーと決意するも、両親のダメっぷりが結局彼の決意をぶちのめし、反社会的行動に走らせた。
「〈ない〉のだった――本当だ!」は掴みが強烈すぎる。収録されているものの中では、そのアイデアの奇想天外さを武器に、一番ぼくを惹き付けた。でもこういうのを面白いと言ってしまうのは他の作品の良さを理解できないが為に、ということになりがちなのでナンか悔しい。感想は2ch風に言うと「お前、天才じゃね?」、「鬼才すぎる」というところだろう。解説で"バカSF"って言われていて、バカSFと明言されている他の作品って『時間衝突』くらいしか知らなかったりするのだが、この「〈ない〉のだった――本当だ!」の方が好きだ。『時間衝突』はあらすじや、物語の中で登場する異種知性体は魅力的なんだけれど、引っ張った挙げ句ソレかよ的なガッカリ感を味わう。「〈ない〉のだった――本当だ!」は短編ということで綺麗なところで終わり、自ら掘り進めてはいけないようなところは手を触れずに、作品の自滅を避けていた。そうか、バカSFはヒット・アンド・アウェイで、どこまでも尖ったのを尽きだした後は、サッと幕を下ろすのがいいのか
ちなみに〈ない〉というガジェットは説明するのもバカバカしいのだが、まずトイレットペーパーの切れ込みを思い出して欲しい。あの切れ込みはトイレットペーパーが〈ない〉部分だ。にもかかわらず、ああいう切れ込み部分はちゃんと切れずに〈ある〉部分が破れることがある。そこから推測するに、〈ない〉部分は〈ある〉部分よりも強力なのではないだろうか?全てを〈ない〉にしたら最強じゃね?――というものだ。なんというか……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。いや、嘘です、そんな風に考えられません。
「茶色の靴」はある発明家の物語。牧歌的な田舎の発明家だった男だったのが、世界的な発明を思いつく。その発明の詳細は語られないのだけれど、とにかく世界に与える影響が大きいことを彼は自覚する。自分はもはや田舎の趣味人発明家でいられないと悟り、愛する女性の元を離れて、自分の技術が適切に運用されるようにするために政治的な努力を始める。その社会的な行動が魅力的に書かれるというワケではないのだが、とにかく彼のもくろみは成功して田舎に帰ってくる。しかしそこで昔日に愛し合った人が、牧歌的な生活だけを望んでいたことを吐露して、しかも発明の運用まで携わるのは愚かだということを言われてしまう。発明は世界だけでなく彼の個人的な生活も変えてしまった。彼女は発明を理解できない人間だったのだ。
「フレミス伯父さん」は人のケツを引っぱたいて気合いを注入するオジサンの話。フレミス伯父さんは元は田舎町の人間で、機械を直していたりしていたんだけれど、その直し方やとても豪快で、チョップやキックを食らわせて直すのだ。都会の医者にその才能を見込まれて、著名人にリキ入れる仕事をはじめる。もちろん見知らぬオジサンに叩かれるなんてことは、お偉いさん的には納得できないので、実際にフレミス伯父さんが治療する際には催眠状態にしておく。これを田舎町出身の借金少年に教えたら、彼も是非叩いて欲しいとのこと。ガツーンと一発食らわせると、たちまち真人間になったのだ。ただしフレミス伯父さん療法の効果は期間限定で、また借金したくなったりイライラが溜まったりしたら、また引っぱたいてもらう必要がある。治療法こそ特殊なものの、普段から我々が使っている薬とそう変わるものでもないような。
「統率者ドーンの〈型〉」は現政権の統率者を暗殺しようとした青年の話。統率者は成長を続けるが、欠点は寿命で、それさえなければ一時的に不備は生じるが、どんどん優秀な統率者として社会を導いていくと予想される。ならば統率者に不死性を付加すれば問題ナシ。これで人類は宇宙進出しましたとさ、なんてラストにオマケのように付け加えられちゃってる。うーん……
それで「自殺」がこの作品集の最後に収録された短編なんだけど、これはぼくの理解が及ぶところではないかった。最後に消化不良気味になってしまって残念。
参照:シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon)翻訳作品リスト
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