2009年10月28日水曜日
R・C・ウィルスン『時間封鎖』(茂木健訳)
案の定、タイトルで検索を掛けると予想していたエロゲーが引っかかる。実は店頭に置かれたのも、二〇〇八年の十月から十一月の間だから、被る要素は充分にある。まあ、そのエロゲーの話はどうでもいいや。あとイーガンの『宇宙消失』は読んでないんだけど、星空が消えるという設定はどうしてもこれを想起させるものがあって、やはり解説で触れられていた。このR・C・ウィルスンの『時間封鎖』は前三部作の第一作目。簡単に紹介すると、太陽が膨張して地球がピンチ、あと数十年しか残ってない、という状況下で人々の奮闘を画くドラマ。太陽の膨張までには何十億年も掛かる。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ! (AA略)と言うと、地球を突然包み込んだ正体不明の膜の効果が原因。この膜の内側と外側は時間の流れる速さが異なり、膜内での一年がだいたい膜外での一億年に相当する。つまりまだまだ先のことだと思っていた宇宙的問題にいきなり向き合うことになってしまったということ。
とても面白い本だった。『深海のYrr』と同じく、SF要素はたくさん詰まってるんだけど説明がわかりやすくて、物語の筋もSFに馴染みのない人が楽しめるようになってる。割と気軽に読める作品。気分的に感嘆させるような重圧なSFをゆっくり読みたいときもあるんだけれど、こういうのはこういうので読み始めると止まらなくなる面白さがある。太陽の臨界が来る前に、膜を張った存在はとりあえず何もしてこないので、自分たちでどうにかしようとするのが、人類側の意向で、これがトントン拍子で進むのがいい。なんせ時間差がものすごくて、一秒間が地球で経過する間に、宇宙では三年チョイが経過する。観測衛星を打ち上げれば厖大な情報を一瞬で手に入れられるし、数億年掛かるはずのテラフォーミングもアッという間。惑星開拓時代の一コマを画くなんてことはスパッとスキップされる。ちなみに、そんなに時間経過があるなら、隕石等の衝突が地球にあるんじゃないかと思った人もいるかもしれないけれど、膜は選択性の性質を持つので、隕石は跳ね返す。便利!話は戻って、その大がかりな計画を遠からず近からずの距離で見続けるのが、主人公のタイラー。彼と幼なじみの双子が主要人物で、その双子がそれぞれ膜に覆われた地球の世代の人類史と個人史を代表するような存在で、タイラーがその架け橋となって二つの流れをひとまとめにした視点で物語は綴られる。このそれぞれの筋を互いが包含した書き方を、マルチな視点からでなく、一人の視点から見せていることによって統一性のある読み味を作り出している。人間模様もなかなか感動的な内容だった。しっかり感情移入してしまうあたりが非SF読者にも勧められる証拠。
この『Spin』という名の原著の後にシリーズは『Axis』、『Vortex』と続く。『Axis』は邦題『無限記憶』として既に刊行されている。このシリーズは確実に読む、いや読まなきゃアカンと思わせるクオリティだった。本屋のポップで見たから漠然とした記憶だけど、賞としては二〇〇六年にヒューゴー賞を取って、この前星雲賞も取ってたような気がする。ちなみに星雲のもう片方の日本SFは『ハーモニー』。なんだかんだで両方とも『幼年期の終わり』を髣髴させる。一方は高位存在が、一方はテーマが、というように。
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