2009年10月31日土曜日
J・G・バラード『時間都市』(宇野利泰訳)
J・G・バラードの短編集。あんまり趣味じゃなかった。SFというよりはユーモアに富む幻想小説と表現すべきだろうけれど、SFのくくりで考えるとワイドスクリーン・バロックとH・G・ウェルズを足したような感じ。自由奔放に画かれた世界ではあるけれど、その世界が読んでいて遠くにありすぎる。
『最後の秒読み』という『デスノート』の元ネタになっているかと思われる短編には驚かされた。死神とかは出てこないけれど、主人公がデスノート的能力に気付いた後には、その効果を図るために実験するところやなんやらもビックリするほど似てる。
人口過剰になった未来を画いたものも多い。『至福一兆』は映画『ソイレント・グリーン』を思わせる設定で、居住スペースが市民一人につき4平方メートルに定められた未来。年々法改定されて、今度は一人3.5平方メートルになるとか、徒歩で近場の食堂に行くだけでもコミケというか満員電車並の人の群れという社会の中での皮肉の利いた笑い話。『大建設』も名前がそのまんまだけれど、無限に続くようなアーコロジーの中で、その果てを目指すもの。『時間都市』は人口過剰になって社会構造が一度崩れて、人口が減った後の話。元の社会主義に戻らないために、別の社会主義が形成されているという、これも端から見たら滑稽な物語。
ヴァーミリオン・サンズという幻想的な美しさを持つ避暑地を舞台にしたものも二作収録。『アトリエ五号、星地区』というのは詩を作り出すのをコンピュータの自動演算に半ば任せてしまった状況に反発する女性がいて、物語の中ではそれは異常なことと認識されるので、主人公の編集者は困り果てるが……ちょっと古典ホラーっぽい雰囲気を出しつつも、最後は爽やかエンドを迎えるというものだった。『プリマ・ベラドンナ』はデビュー作で、歌う植物を扱う花屋と歌姫の話。一応ラブ・ストーリィなのだろうか。ヴァーミリオン・サンズが舞台ではないけれど『時間の庭』もラブ・ストーリィで、綺麗な女性が出てくる。そうなるとちょっと切ないけれど爽やかな感じで幕を閉じる筋というのがどれも同じで、これはバラードの小説に一貫している傾向なのだろうかと類推してみたりした。
他にも、心理療法は精神を元ある状態から洗脳状態にするとされて禁じられた社会で医者の無力を画く『狂気の人たち』。タイムトラベルをして、恋人を助けようとしたけれどタイムトラベルしたから恋人が死んじゃう『静かな暗殺者』。加速度的に膨張成長する金属のモニュメントから起こった騒動――「いずれ第二、第三の私が現れるだろう」的な『モビル』。以上の全十編が収録されていた。
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