2009年2月25日水曜日

A・ブラックウッド 他/平井呈一 訳『怪奇小説傑作集〈1〉 英米編 I 【新版】』


●収録作品
ブルワー・リットン「幽霊屋敷」
ヘンリー・ジェイムズ「エドマンド・オーム卿」
M・R・ジェイムズ「ポインター氏の日録(にちろく)」
W・W・ジェイコブズ「猿の手」
アーサー・マッケン「パンの大神」
E・F・ベンスン「いも虫」
アルジャーノン・ブラックウッド「秘書奇譚」
W・F・ハーヴィー「炎天」
J・S・レ・ファニュ「緑茶」

via 東京創元社 | 怪奇小説傑作集〈1〉

 こういった選書を手に取るとき、おおかたの場合、このなかの幾つか、もしかしたらひとつだけを目当てにするものである。かくいう僕も、シャルノスの紹介ページで名前が挙げられていたマッケンの『パンの大神』(原題:The Great God Pan)をお目当ての品として読みはじめた。『パンの大神』は『デモンベイン』でおなじみのクトゥルー神話創始であるハワード・フィリップス・ラヴクラフトが最初の作品を発表する以前に、既に著されたコズミック・ホラー(すなわちクトゥルー神話を包摂する宇宙的恐怖小説)である。ぼくなんぞ、てっきりこの系統の恐怖小説はラヴクラフトがはじめたものだと思っていたので、なんというか、慮外なことであるがラヴクラフトにかぶれる以前にもっと古い作品を読むことができてよかったと思う。ダンセイニなどもそうなんだが、いやはや桜井光さまさま……。さて、このコズミック・ホラー『パンの大神』の恐怖表現というのは日常と表裏の場所、つまり普段は知覚しえないが、少し精神の位置がずれてしまえば――精神をずらすためには肉体をずらす必要があり、作中ではロボトミー施術される少女が描写される――知覚される非日常の世界である。昨今の作品では、虚淵玄の『沙耶の唄』や山本英夫の『ホムンクルス』が同じ要素を含んでいる。だんだん恐怖が撒播され、それが登場人物のまわりをジリジリと囲い込んでいくというスリルがある。しかしスリル以上に惹かれるのは、その鬱々とした暗い雰囲気ながら、認識の外にあるという圧倒的巨大な存在へのロマンなのかもしれない。
 原文はThe Project Gutenberg E-text of The Great God Pan, by Arthur Machen。これを独自に訳しているページも見つけた(アーサー・マッケン パンの大神)。
 マッケンの小説はこれを機会に読んでみたいと思って調べたところ、平井呈一が訳した作品集が出版されているが、ちょっと値段が高くて手が出ない。しかし運良く光文社新訳古典文庫で『白魔』が出されたばかりなので、今度はそちらも読んでみようと思う。
 他にもこの選書の作品はハズレというのがなかったんだけれど、印象的だったのはジェイコブズの『猿の手』。いろいろな作品のモチーフとして使われているけれど、ここで原作に巡り会えた。道満晴明の漫画にかなりどうでもいい感じで登場していたのが記憶に新しい。Carmillaの作者レ・ファニュの『緑茶』も面白いという感触とはまた違うのかもしれないけれど、この作家の書いたものは他にも読んでみたい。近代哲学のような身体と精神のとらえかたをしていて、落ち着いた描写でそそるものがある。ブラックウッドもマッケン、ヘンリー・ジェイムズと合わせて近代英国怪奇小説作家として有名らしく、作品集もいくつかあって入手しやすそうなので本屋に行ったときは覚えておきたい作家だ。『秘書奇譚』は冒険小説的なものだったが、大して長くないので気を負えず読めたのが良かったのか、純粋に楽しいと思えた。

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